散るは、





 冬が近い。
風の冷たさに身震いし、まもなく来るであろう冬を思う。




 鮮やかな赤が目に入る。
一瞬血かと思い、次に炎を思った。
いや、これはあれの色だ。
「政宗殿、お久しぶりにござる」
普段と異なり珍しく落ち着いた様子で、
穏やかな微笑をその唇に浮かべ、真田幸村が政宗の前に現れた。
「何の用だ?」
幸村が奥州まで訪れる理由など、武田信玄からの書状を届けにきた以外に無い。
それを知っていながら、答えの分かっている問いを口にする。
そしてまた、それ以外の答えをも期待した。
「主君からの書状にござりまする」
平伏して差し出す書状を手に取り、それに目を通した。
今のところ、外にも、この同盟関係にも、大した動きは無い。
「…確かに受け取った。長い道程、ご苦労であった」
お決まりの台詞。見せかけだけのやり取り。
「お館様からの命は、以上にござりまする。ここからは――」
両者互いにそれは知っている。
まず切り出したのは、幸村だった。
幸村は顔を上げ、別段政宗もそれを咎めない。
政宗を正面から見つめ、幸村の口から言葉が零れた。
「ここからは、某自身の理由にござる」
それに政宗は笑みで応える。
期待した答えは、漸く幸村から放たれる。
政宗は次の言葉を待った。
「お会いしとうござりました、政宗殿」
だから書状を届ける命を引き受けた。
家臣としての務めと同時に、個人としての望みだった。
故に。
その言葉を、俺は待っていたのだ。
「……」
しかし言葉は出さずに、政宗は笑みだけ深くする。
幸村は何も言わずに笑みを浮かべたまま彼に近付き、政宗を抱き寄せた。








 庭に、色付く紅葉が見えた。
山の方では更に色濃くなっているであろう。
赤に黄に、そして、枯れた茶。
「綺麗でござるな」
同じく外に目をやっていた幸村が代わりに口にする。
彼の背に、政宗も背を預けた。
「アンタは、赤が好きだろう?」
戦の時は赤備え、今身に纏うのも落ち着いた紅色。
「そうでござるな。
政宗殿は、青、でござりましょう?」
それに合うような落ち着いた声音で、幸村も尋ね返す。
政宗は吐息のように笑みを零した。
「青は、嫌いか?」
幸村が身体を動かしたのをその背に感じた。
しばしの間の後、幸村は答える。
「…嫌い、ではありませぬが、」
幸村の声を聞きながら、政宗は目を閉じた。
戦場の幸村をその脳裏に思い描く。
「些か苦手でござるな」
あの燃えるような闘気。
焼き尽くされそうな覇気。
我を忘れた殺気。
鳥肌が立つ程に、心を揺さぶった。
「…苦手か」
「はい。
青は水の色故、炎を消してしまいまする」
それ故に幸村は、戦場を生きる。
その瞬間、その刹那だけを。
それが、この男の全て、か。
「なら、俺とは――」
「しかし政宗殿とは、また別のこと」
相容れぬか、と続けようとした彼の言葉を遮り、幸村は想い人にそう告げる。
「故に苦手と言えど、決して嫌いにはなれませぬ」
意志の強い声で言う幸村に呑まれ、政宗は言おうとした言葉を失う。
「そう思えるようになったのも、政宗殿のおかげにござる」
背中の政宗の方を振り返り、幸村は耳を傾けていた政宗も自分の方に向かせた。
「そなたがいてくれたから…」
皆まで言わず、幸村は政宗を抱き締めた。
言葉では伝えきれぬ想いを、この抱擁が伝えてくれれば。
拙い願いを込め、愛しい人の名を呟き、幸村は目を閉じた。
手先の冷たいこの方の、身体の内の熱だけでも、己が身体に留めておきたい。
気付いたか否か、苦笑めいた息を吐き、政宗もまた幸村の背に腕を回した。
押し倒され、唇を重ねた後に、閉じた目を開くと、幸村と目が合った。
「政宗殿」
熱のこもった声で囁かれ、頭がじんと痺れた気がした。
「幸村…」
呟いて、背に回していた腕を首の後ろまで動かし、幸村を引き寄せた。
政宗が幸村の髪を結わえる紐を解くと同時に、幸村は政宗の帯を解いた。
それが何故か可笑しくて、政宗は忍び笑いを零した。
それを遮るように、幸村がもう一度唇を重ねてきた。
やや強引に舌が中に入り込み、口中を這い回る。
その舌の熱さに、理性も意識も蕩けてくる。
はだけた着物の間から手が差し入られ、身体を撫で回してくる。
初めはくすぐったいだけだった愛撫も、今は感じるところに触れてくる。
後で四分の三殺しの目に遭わせた程に拙かった房術も、今となっては懐かしい。
慣れと言うべきか成長と見なすべきか。
そしてそれ程までに逢瀬を重ねていたことにも気が付く。
 しかし、視界の片隅に、紅葉が映る。
赤い。
血が過ぎり、
炎が過ぎり、
目の前のこの男が纏う着物に重なった。

この男には――




だから、


「…俺は、赤は嫌いだ」
今まで幾度となく嘘を重ねてきたが、これだけは偽りには出来ぬ。
幸村は目を見開き、政宗の瞳を覗き込むように見つめた後、哀しげに微笑んだ。
「分かっておりまする」
「……」
「分かっているのです」
血の赤。
炎の赤。
瞬間の、
刹那の色。
「しかし某には、他の生き方は出来ませぬ」
主君の目指すものに惹かれ、その成就を願った。
その為にこの生命を捧げようと思った。
それ以上を望む理由と意味は見出さなかった。
己は未来など考えない。
現在しか考えていない。
今を生きる以外の生き方は出来ない。
知らない。
刹那を生きることだけが全てなのだ。
「…青と赤は相容れぬもの。それ故に――」
「言うな」
先程言いかけた言葉は幸村によって放たれ、
しかしその続きを今度は政宗が遮った。
 政宗は、幸村のようには生きられない。
彼の立場がそれを許さなかったし、彼自身も幸村と同じく、己の生き方以外は知らなかった。
「…分かってる。だから、言うな」
相容れぬ。
相容れぬから惹かれ合った。
共に焦がれ、共に傷ついた。
決して重なることは無い道だ。
「…幸村、」
赤は炎。
赤は刹那。
だからコイツはきっと、
「幸村」
留めたい。
行くな。
無理だと知っているのに、心はそう願っている。
だが、コイツは、


だから俺は、この男を得ることは出来ない。
永遠に。




「政宗殿、何も考えなさいますな」
止まっていた手を再び侵入させる。
下帯を解き、直に触れてきた。
「っん…」
握って撫で、熱を吐き出させた後、濡れた手は蕾を探り当てた。
指が入り込んでくる。
「あ…っ」
擦り、刺激し、中を拡げていく。
指は増やされ、引っ掻き回される。
背中が痺れ、腰がびくりと跳ねた。
「今が刹那のように短くとも、刹那のこの時こそが永遠」
乱れる政宗に微笑みかけ、幸村は三本挿れていた指を引き抜いた。
蜜で濡れたその手を舐め、政宗の頬を撫でた。
「だから何も考えずとも良い」
開かせた脚の間に、張り詰めた自身を宛がう。
乱れながら、政宗は嘲笑を浮かべた。
「…Ha、だからアンタとは、」
「…そうでござるな」
幸村も応えて笑み、政宗に口付けた。








 吐く息が白い。
周りにある色付く木々に目をやり、眉を寄せた。
ひらり、と足下に落ちてきた葉に視線を移し、しゃがんでその葉を拾う。
赤子の掌のように切れ込みのある紅の葉は、風に吹かれ次々に地へと落ちていく。


嗚呼、散ってしまう。


そして散った後、いずれその鮮やかな色の葉は、くすんでいくのだろう。
落ち着いた紅の色を思い出し、目を閉じた。


身体に未だ燻っている熱が疼き、
その熱を奪うように、
冷たい風が、吹いた。

























Novel TOP





相も変わらず季節無視ばっかで申し訳ないです…
が、こちらはまだ完全には散っていませんので、セーフということで。