微かに嬌声が聞こえる。
醜悪な声。
ああ、これは、俺の音か。
貫かれ、悦ぶ、色に狂う竜の啼き声。
俺は、何を望んでいた?
「何考えてやがる?」
繋がったまま、感じるように腰を動かされ、薄れた意識が戻る。
「……」
答えずに見上げると、腕を引かれ、身体を起こされた。
力の入らない膝で己の体重を支えることは無理で、
重力に従って膝を折れば、貫くそれが奥まで入り込んできた。
「……っく…」
呻き声を上げ、元親の肩に倒れ込むように頭を預けた。
「……」
身体中が悦び、更なる快楽を求めている。
心もこの男を求めている。
己が手で殺したい程に、自分はこの男を手に入れたかった。
そして今、たとえ僅かな間と言えども、元親は自分のものとなっている、はず。
だからこそ、こんなにも悦んでいる。
では、この心に掛かる虚しさは何故だろうか。
不意に右目の眼帯に触れられ、途切れがちの意識が戻り、我に返る。
「…触、んな」
右の手で大儀そうに払うと、その手を掴まれた。
「……独眼竜、か」
「あぁ?」
今度は反対の手で、眼帯に手をかける。
「この下には、何が潜んでいる?」
「……な、に…?」
元親が、ニヤリと笑った。政宗の顔色が変わる。
「やめろっ!」
構わず、千切るように取り上げた。
咄嗟に掴まれた腕を振り払い、自由になった手で右の目を隠した。
隠したそれは、象徴であり、呪いであった。
それだけだ。だから、それが全てだ。
「…こじ開けてもいいが、」
元親はどこまでも楽しそうに、笑みを浮かべている。
政宗を抱き寄せ、腰を動かし、挿出を繰り返した。
「っう、あぁっ!」
「待つ方が早ぇ、な」
濡れた音が耳に入る。
その音に、身体が熱くなった。
かろうじて右目は隠しているが、手が下に垂れるのは時間の問題だった。
ああ、そうか。
虚しさに答えを見つけた。
「……」
声に出さず、口だけで名を紡ぐ。
右腕が下に垂れ、果てた。
竜の力は、狂っていく力だという。
翼を得て応竜となるも、
穢れたその身では、天界に昇るを許されなかった。
ならば俺も、狂っていくだけなのだろうか。
頭が痛い。酷い酔いだ。
目を開かぬまま、だるい腕を伸ばし、頭を抱えた時、何の引っかかりもないことに気が付いた。
目を開け、右目に手を当てれば、そこにはいつもの固い感触がなかった。
一体どれ程気を失っていたのか。
重い身体を起こし、周りを見渡せば、こちらを見下ろす元親と目が合った。
距離はいくらも離れていない。
その身に起こったことを、思い出した。
政宗は傍らの刀を手に取り、元親に斬りかかった。
槍では小回りがきかないので、元親は懐の小刀でその一撃を受けた。
すぐに刀は向きを変え、二撃三撃と打ち込まれてくる。
政宗の血走った目にゾクリとした。
溢れんばかりの殺気が心地よい。
何撃目かで、不意に、辛うじて腕のみに纏われていた長着が、巻き付くように政宗の腕に絡まった。
それに一瞬政宗の注意が向いたのを見逃さずに、元親は間合いを詰め、小刀で突く。
身を捩り、その突きを避けると、そのまま、政宗は刀を振り下ろした。
避けきれず、刃が肩を少し切り裂くが、元親はそのまま小刀ごと刀を弾き飛ばした。
「shit…!」
飛ばされた二つの刀は、少し離れた床に突き刺さった。
刀を弾かれた衝撃で体勢を崩し、政宗はその場に膝をつく。
血がボタリと下に落ちた。
痛みと血の臭いに、手元を見れば、右の手から赤い血が溢れ出てきていた。
刀を弾かれた時に、斬られたか。
ただし、それ程深くはない。
「なんで、本気出さねぇ?」
見上げて、睨み付けると、
元親は嘲るように笑い、答えた。
「……今殺しても、つまらねぇ」
「……」
分かっていたはずだが、胸がチクリと痛んだ。
元親から顔をそらし、足下に目を落とした。
「……俺は、アンタの眼中にないってわけか……」
呟き、自嘲した後、ようやく長着をきちんと羽織った。
散乱していた帯と羽織を拾い、身に纏っていく。
落ちていた眼帯を見つけ、それも拾った。
突き刺さった刀を抜き、鞘に戻す。
「…いずれ、後悔させてやる」
そう言い捨て、片眼の竜は来た時と同様に、音もなく消えていった。
「……ハ」
狂っていく力で、果たして竜はどこまで強くなるか。
次に出会うのは、おそらく戦の時。
竜の消えた部屋で、元親は楽しげに笑った。
狂っていく力だろうが、構うものか。
それでお前が手に入るならば、
俺は喜んでその力をこの手に掴もう。
虚しさなど、知るものか。