応竜 1





 鎧もなく兜もなく、長着に羽織姿。
戦場とは違う軽装であったが、それゆえか独眼竜は音もなく間合いを詰めた。
抜き身の刀が夕日に赤く光る。
「よう、独眼竜が鬼退治か?」
突きつけられた刀と、相手からほとばしる殺気に怯むことなく、鬼は言った。
「……」
独眼竜は不意にその殺気を弛める。
「Ha、相変わらずだな、てめぇは」
「お互い様だ」
政宗も元親もどちらともなく笑い出す。
殺気を完全に消さぬまま、政宗は剣を鞘に収めた。
 元親が尋ねた。
「で、何の用だ?」
「さあな、偵察だとでも思ってくれ」
「なら部下はどこに潜んでいやがる?
まさか一人で来た訳じゃねぇだろ?」
「敵にわざわざ晒す情報は持ち合わせちゃいねぇなぁ」
人を食った感の物言いは変わらない。
元々がそんな性格なのだろう。
何か企んでいることは確かだろうし、
油断すればこちらの命取りとなる相手だが、
今駆け引きをするには材料が少ない。
「…まあいい。お前も飲むか?」
隣に置いてある杯に酒をつぎ、差し出してみれば、
政宗はしばし動かずにそれを見下ろす。
「……」
微かに残る竜の殺気が、消えた。








狙いも用事も、何もねぇよ。
駆け引きの材料なんざ、はなから持ち合わせちゃいねぇ。
俺はただ、アンタに会いたかっただけだ。
だが、こんなこと、口が裂けても言ってやるつもりはないけどな。

言ったところで、アンタが歯牙にもかけないことは、十分に分かっている。








 久々の酒は、美味かった。
上物の酒に加え、酒の相手が元親。
それだけで十分だった。
何も悟られずに、束の間の幸せを感じて、この場を立ち去るつもりだった。
 酒は薬にも毒にもなる。
何がきっかけかなんて、関係ない。
ただ、話が次第にそちらに行き、何よりも、酒の勢いに任せて言い出したのは、俺だ。
「ヤってみるか?」
元親は軽く目を瞠った。
思わず吐いてしまった言葉を、質の悪いジョークですませようと、
政宗が口を開きかけたその時、
不意に元親の表情が変わった。
唇の端だけで笑い、向かいで胡座をかいて座っていた政宗に近づき、そのまま押し倒した。
「…悪くねぇ話だ」
予想もしなかった言葉と、元親の行動に、
政宗の思考と動きが一瞬止まった。
ほんの僅かな間であったのに、再び我に返った時には、
自分の唇は彼のそれで塞がれていた。




 痛みが走り、元親は塞いでいた唇を離した。
噛まれた舌は鈍い痛みを訴え、口の中に鉄の味が拡がった。
さすがは独眼竜、簡単には堕ちない。
「てめぇ……!」
眼光鋭く、政宗は元親を睨み付ける。
殺気めいたものを感じるが、これは先程とは違う。
単純に怒りと屈辱といったところか。
 この体勢から逃れようと、政宗が拳を振り上げた。
だが、甘い。
お前は体格差を分かっていない。
殴りかかってきた拳を受け止め、もう一つがくる前にと、
元親はもう一方の政宗の腕を掴み、彼の頭の上の方で一つにし、片手で押さえつけた。
「いい格好だ」
そう煽ると、一瞬だけ瞳に激しいものを浮かべたが、ふっとそれが消えた。
怒りで逆に頭が冷えたらしい。
「……どけよ」
今度は冷たく鋭い。
元親はもう一度口だけで笑った。
「誘ったのは、てめぇだろ?」
そう言ってやると、政宗が言葉に詰まる。
「付き合ってやるよ、感謝しな」
空いた手で胸元を探り、着物をはだけさせると、肌が露わになった。
普段からほとんど露出のない服装のせいか、肌はかなり白い。
胸の半分程が外気に晒されたところで、政宗は微かに身体を固くさせた。
しかし、対照的に、唇は皮肉げな笑みの形になる。
「Ha、人のjokeにアンタがここまで付き合うとはな」
ああ、戯言で終わらせたいのか。
だが、
「…まあ、それも悪くねぇな」
それならそれで、終わらさなければいいだけのことだ。
「…sorry、俺が悪かった」
奴にしてはかなり珍しく、素直に謝ってきた。
それ程まで、余裕がないのか、独眼竜よ。
政宗の顔から、笑みが消える。
瞳が鋭く、こちらを射抜いてきた。
「だから、俺から離れろ、元親」
その瞳の奥に潜むものに、お前は気がついているのか、隠しているつもりなのか。
どちらにしろ、構わない。
竜を狂わせるのも、また一興。








 片手で、目を覆われた。
視界が暗くなった直後に、今度は口も塞がれた。
唇の感触を感じる前に、生温かい液体が口の中に注がれた。
たまらず飲み込むが、飲み切れずに口の端から零れる。
味と臭気で酒と分かった。微かに、鉄の味もした。
次いで、また舌が入り込んでくる。
口内を好きなように貪られ、吸われるが、
酒のせいか、侵されるせいか、力が入らず、先程のように噛むことは叶わなかった。
息も出来ずに苦しくなってきた頃合いに、
ようやく元親が目と唇を離した。
咽せて、いまだ口中に残る酒を息と共に吐き出した。
気持ち悪い。
 息を整える前に、元親はまた唇を寄せ、政宗の首筋にその舌を這わせた。
微かに政宗が身を捩らせる。
軽く噛み付いてやると、堪えきれずに、小さく声を上げた。
 胸を撫でながら、はだけた着物をずらしていく。
覗いた肌にも唇を寄せ、線に沿って舌でつつとなぞれば、また声が漏れる。
「いい声だな」
「……っ!」
羞恥で頬に朱が走った。
「て、めぇっ、いい加減に――」
乱れた呼吸のまま喚く政宗に構わず、
かろうじて纏う着物の留めとなっていた帯に手をかけ、解いた。
「へぇ…」
余すことなく元親の前に晒された身体は、やはり白かった。
対照的に頬だけが赤く、その表情に加虐心が煽られる。
 ギラギラ光る片眼からの視線を楽しそうに受け止めながら、
元親は下に手を伸ばし、脚の付け根のそれを、やや乱暴に掴んだ。
「あっ!」
痛みに似た感覚が走り、思わず声が高くなる。
続いて手に包まれたまま繰り返し扱かれ、痛みと共に何とも言えぬ感覚に襲われた。
身体が熱い。
「――っ」
堪らず吐き出した白は、下腹部と元親の手を汚した。
「…なんだ、我慢の足りねぇ奴だな」
ようやく捉えていた手を離してやるが、吐精後の倦怠感のせいか、
政宗は身体を投げ出したまま動かなかった。
乱れた呼吸の音だけが部屋に響く。
 まだ竜は狂っていない。
呼吸が落ち着けば、すぐさま己を取り戻し、鬼を仕留めにかかるだろう。
ならばその前に、もっと乱れさせよう。もっと狂わせよう。
 腿の裏に手を回し、開かせてそのまま持ち上げると、政宗が小さく呻いた。
付け根の方へ向かって、腿に沿って指を這わせていく。
「…っ」
背筋の方へ痺れが走り、声とも息ともつかぬ音を漏らした。
頭の芯がぼうっとなり、身体はどこまでも敏感だった。
 付け根まで辿り着いた手は、蕾に触れられた。
濡れた一つ指が差し入れられ、異物感に腰を引こうとすれば、片脚をつかむ手がそれを止める。
無遠慮に、指は中をうごめいた。
「……っん、あっ…!」
中が緩み、ぬるりと滑らかになってくると、指の数が増やされた。
時に激しく、時に緩やかに、政宗を責めたてる。
先程吐き出したはずの熱が、また暴れ始めてきた。
 押し殺すことも出来なくなり、声を上げると、
「さっきまで嫌がってた割には、随分といい声で啼くじゃねぇか」
含み笑いで揶揄され、僅かに残った理性が、唇を噛みしめさせた。
痛みが走るが、放っておくと、口付けられ、開けられた唇から舌が入り込む。
逃れることは叶わず、捕まえられ、自分の舌を絡ませられた。
熱い。そう感じると同時に、唇が離れ、次にはまた口移しで酒が注ぎ込まれた。
飲み込めば、頭がさらに朦朧となる。
「どうしたい?」
「……」
尋ねられても、言葉が浮かんでこない。
何も言わずにいると、勃ちあがりかけたそれを握られた。
「あ、っん…」
握った手を動かしてやれば、弄られる身体は、悦びの声を上げた。
ただし、達するまではいかせない。
直前で刺激を止め、元親は言葉を促した。
「ほら、答えろよ」
そうすれば竜、翼をくれてやる。
空に焦がれるお前を飛ばせてやろう。
「……っ…ち、か」
誇りも何もかも、すでに奪われている。
潤んだ独眼の光が、元親にそそがれた。
震える唇を動かせば、元親が耳を寄せてきた。
近づく背に腕を回し、縋り、告げた。
「  」
色に乱れ、色に狂いゆく竜は、
鬼によって、飛んだ。

























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