「楽しんで頂けたかな?」
一同を十分な余韻に浸らせた後で、松永は口を開く。
その声に我に返り、官兵衛も口を開いた。
「あ、ああ、見事なものだ。
夜だともっと栄えただろうが、桜と花火が一度に楽しめるのもなかなか乙だな」
その言葉に片眉を上げ、松永は少し感心した様子で官兵衛に応えた。
「ほう、腕輪と称して手枷を人に勧めるような卿にも、物を見る目はあるようだ」
「何だ、本気にしたのか? あれは冗談だ…たぶんな」
人を食った感の松永の言葉に、官兵衛も負けじと言い返す。
再び場が緊迫すると思いきや、松永は意地の悪い笑みを浮かべるに留め、
そろそろ私も座ってもいいかね、と断ってから宴席に腰を下ろす。
「まあ、何にしても良いものを見られたことには違いない。一応感謝はしておくぞ、ありがとさん」
官兵衛が礼を言い、酒を注いだ杯を渡すと、主賓に免じてか、反目していた者たちも引き下がった。
一方の松永も、微かに瞠目した後で、再び笑みを浮かべ、杯を受け取った。
「これでも催事での空気は読む方だよ。
何しろ私は日本で初めてクリスマス休暇を取得したのだからな」
「遊びには本気ってところか? お前さんらしいな」
というように、何気に会話が弾んでいる二人を、他の者たちは驚きつつ眺めている。
「……驚いたな、まさかあの松永と……」
「真に……黒田殿、この幸村、感服致した」
と、小十郎と幸村が話す横で、慶次が最上に請われ杯を渡している。
「むむ、この酒は、彼の持参だね!」
一口飲んで、謙信を指し、最上がそう言うと、慶次が感心した様子で頷いた。
「おっ、あんたよく分かったね」
「吾輩は素敵な吾輩だからね。
利き酒は紳士の嗜みだよ、後田君」
相変わらず人の名前を覚えない最上に対して苦笑するに留め、慶次は先程の松永の花火を振り返り、息を零す。
「それにしても、さっきのあれは見事だったねえ。あれこそ粋ってもんだ」
「そうだろう、そうだろう。何と言っても彼は戦国紳士会の一員だからね。
吾輩と同様、その辺の紳士とはひと味違うよ!」
松永に代わって胸を張る最上に、先程名前を間違えられたことへの意趣返しも含め、慶次は笑顔で言った。
「そうかー、だったら、あんたからの贈り物も期待していいんだよな?」
「もちろんだとも、何しろ吾輩は羽州の狐……贈り物?」
どうやら、御誕生会の贈り物について知らないらしい。
首を傾げる最上に頷いて、慶次は政宗に声を掛けた。
「そうそう、"ぷれぜんと"…って言うんだよな、独眼竜?」
官兵衛が大坂城で貰った品々を興味深そうに眺めていた政宗は、
慶次に呼ばれ、渋々ながらも慶次と最上の方へとやって来た。
「"present"だ。まあ"gift"でもいいんだけどな。
御誕生会の主役に参加者が贈り物をするんだよ。他の奴らも何かしら送っている」
慶次に指摘し、そう説明してから、政宗は最上へと向き直る。
「おいジェントルマン、せっかくだから鳥呼んでやれよ。
超真空流星隼号が枷の鍵を持って行ったらしくてな、アイツ、ずっと騒いでいるんだ」
「吾輩の愛禽の名前を覚えるなんて、政宗君、さては吾輩に憧れているね!」
「……」
束の間頭を抱えた後、諍い揉め事御法度なのでぶった切りたい衝動をぐっと抑え、
ただし、コイツマジメンドくせえ、と政宗は小さく呟いた。
そんな政宗に気付くこともなく、納得した様子で、最上が頷いた。
「分かったよ、政宗君!
貴公がそこまで言うのなら、あの彼のために、政宗君憧れの吾輩が、愛禽を呼んであげよう!」
「政宗様、今少し、今少しご辛抱を」
素で言っているのでどうしようもないのだが、
最上のいちいち恩着せがましい言い方に、政宗の緒も流石に切れそうになる。
それに気付いた小十郎が政宗を宥めている横で、最上はすっと立ち上がると、空に向かって叫んだ。
「超真空流星隼号〜!!」
割と遠くまで響く最上の声に、官兵衛を始め一同が一斉に最上へと目を向け、
自然に彼が顔を向けている空へと視線を移す。
その時だ。
「……あっ、鳥!」
まず官兵衛が声を上げる。探し求めていた鳥が、遂に、官兵衛の前に現れたのだ。
風を切り、颯爽と飛んできたその鳥は、官兵衛たちのいる広場の上空を旋回した後、
広場の角にある滑車の先端に留まる。
「と、鳥、鳥だ! か、風切羽! 早く、早く打ち落としてくれ!」
「黒田殿、どうか落ち着いて下さいませ!」
「まつの言う通りだ。官兵衛、少し落ち着け。
風魔、お前もいきなり手裏剣を投げようとするな。驚いて逃げてしまうぞ」
目を見開いて立ち上がり、その場であたふたとしている官兵衛と、
その官兵衛の言葉に従って鳥を打ち落とそうと大手裏剣を構えた風魔を、
利家とまつの二人が宥める。動物を扱う技の多い二人だ、もちろん鳥の扱いも心得ている。
「最上殿、貴殿ならば、あの鷹をこちらまで来させることもできるのでは……?」
見かねて幸村がそう提案するが、最上は持参した玄米茶をのんびりと啜ってから頭を振る。
「鳥は光物と自由を愛する生き物だからね、吾輩はそれを尊重して、超真空流星隼号には自由にさせているんだ。
つまり、気が向かない限り、決して来ないのだよ」
「ったく、役に立たねえ飼い主だな。躾ぐらいきちんとしておけよ」
思わずそう零す政宗に、松永に請われた玄米茶を彼に渡してから、最上は息を吐いた。
「失礼なことを言うね。次生まれた時に鳥になりたい政宗君の言葉だとは思えないよ!」
「てめえ、変なこと蒸し返すんじゃねえ!」
1(無印)時代の死亡台詞を持ち出す最上にそう言い返した後、
政宗は、これ以上付き合ってられるかと、最上から高所に留まっている超真空流星隼号へと目を遣ってから、
ひとまずは前田夫妻に宥められた官兵衛へと声を掛けた。
「それで、これからどうするんだ?
遠距離攻撃技持ってる奴らで打ち落とすか?
複数で一気にやれば、流石に逃げられねえだろうし」
「うう、某は近・中距離専門ゆえ……面目ない……」
政宗の言葉に幸村が落ち込んでいると、信玄がやれやれと腰を上げた。
「ならば、このワシの出番じゃのう!」
「では、わたくしも」
「け、謙信様がされるのでしたら私も!」
それに呼応して、謙信、かすがも立ち上がる。
「ワシも及ばずながら力を貸そう。忠勝、お前もやれるな」
「……!!」
更に家康、忠勝までもが加わったので、仕方ないと言った様子で、佐助や小十郎も加勢に入る。
「まあ皆様まで! 動物虐待は駄目でございます!」
前田夫妻は滑車と一同の間に立ち塞がり、身を挺して、鳥への攻撃を止めさせようとする。
すると、それらの様子を愉快そうに眺めていた松永が、堪えきれなくなったのか、笑いながら口を開いた。
「鷹は食すには向かないが、これなら私が手を下さずとも立派な焼き鳥になりそうだ。
鍵が消し炭にならぬよう、祈っておくことにするよ」
しかし幸いかな、松永のその皮肉混じりの言葉で、全員の手が止まった。
それと同時に、流石に事態の深刻さに気付いたらしい最上が抗議の声を上げた。
「そ、そうだよ! 諸君、吾輩の愛禽に乱暴は止めたまえ! 暴力反対!」
「そうぢゃな、官兵衛殿の鍵が壊れてしまえば、元も子もないからのう」
「あ、そうだった! お前さんたち、ひとまず打ち落とすのは中止だ中止!」
氏政のその言葉に、官兵衛が慌てて一同に待ったを掛ける。
「ところでさ、ちょっといいかい?」
ある意味振り出しに戻ってしまったので、さてどうしたものかと官兵衛たちが考えているところに、
はいはい、と慶次が挙手をする。
「どうした、何か良い案でも思い付いたのか?」
そう尋ねる官兵衛にちょっと待つように言い置いて、
慶次は、地上の騒動を気にすることもなく留まったままの鷹を暫くじっと見つめてから、再び口を開いた。
「ずっと気になってたんだけどさ、そもそもあの鳥、鍵なんて持っていないみたいなんだけど」
「な、何っ!?」
慶次の言葉に、官兵衛も超真空流星隼号に目を凝らす。
確かに、鳥は爪に何も掴んでいない。
「あ、ホントだ。持ってないね」
「ああ、持っていないな」
「そ、そんな……」
忍である佐助とかすがにまでそう断言され、官兵衛は、希望から一転、絶望の淵に立たされる。
かに見えたが、玄米茶のお代わりを松永に渡していた最上が、ようやっと気付いた様子で口を開いた。
「おや? 貴公が用があったのは、吾輩の愛禽・超真空流星隼号ではなく、これだったのかい?」
懐から最上が取り出したのは、対い蝶紋があしらわれた白銀に光る鍵だ。
そう、紛れもなく官兵衛の手枷の鍵である。
「……か、鍵、鍵だっ!!!」
「超真空流星隼が持って来てね。
どこぞの鍵とも知れないし、不燃物の日に廃棄しようと思っていたのだよ。
小十郎君、確か、鍵は不燃物だっただろう?」
いきなり話を振られたので少しばかり目を丸くはしたものの、最上の問いに小十郎は頷いた。
「え、ああ、そうだな、金属類は不燃物だ。
だが、市区町村によっては、資源物として回収されることもあるので注意が必要だな」
「待て待て、勝手に捨てるな! それは小生の大切な鍵なんだよ!」
ゴミとして出されてはたまらない。最上と小十郎の会話に、官兵衛は当然声を上げた。
だって仕方ないだろう。ずっと探し求めていた、念願の、枷の鍵が、今、とうとう、小生の目の前に!
だが、これはもしかしなくとも青ルートのパターンと同じだ。
そうなると、あの最上が簡単に鍵を渡してくれるとも思えない。
と、用心深く、官兵衛は最上の様子を窺っていたのだが、
意外や意外、最上はあっさりと官兵衛に鍵を手渡した。
「えっ、あれっ!? い、いいのか!?」
「もちろんだとも。
今回は貴公の青ルートの時のように、吾輩の愛禽・超真空流星隼号を侮辱されたわけでもないからね。
それに」
一度言葉を切り、最上は、まつから煮染めを取り分けてもらっている松永を指し示し、続ける。
「戦国紳士会の一員である彼の見事な花火も堪能できたことだし、吾輩は今、とても晴れやかな気分なのだよ。
さあ、受け取ってもらえるね?」
「も、最上……!」
不思議だ。あの最上が、真にして誠の紳士に見える。
最上だけではない、御誕生会を開き、祝ってくれた東と西のプレーアブルたち、
彼らの存在が無ければ、今こうして鍵を手にしていることもなかっただろう。
込み上げてきた彼らに対する感謝の気持ちを、官兵衛は自然に言葉として紡いだ。
「お前さんたち、ありがとう。本当に、ありがとう」
いつもの彼らしからぬ官兵衛の言葉に、一同は微かに驚きを見せたが、やがて静かに微笑した。
そして、彼らのその笑みを見た時、官兵衛の脳裏に、ふと大坂城での鶴姫の預言やこれまでの出来事が蘇ってきた。
『花に吉あり、捨てるなかれ』
鍵を持っていた最上は、松永の花火に感動して、鍵を渡してくれた。
その最上を連れてきたのは家康だ。
そして、その家康の行動は、
不要なら後で売っ払おうと思い一応貰っておいた三成の刀や刑部の厄払いに感銘を受けてのものだ。
花に吉。捨てるなかれ。
"捨てず"においた『どこからともなく現れた"花"が周囲を和ませる』という無名刀 "吉"。
ああ、そういうことだったのか。
鶴姫の預言の意味を、官兵衛は漸く理解した。