大坂城で西日本のプレーアブルたちに御誕生会を開いてもらった官兵衛は、
本多忠勝の背に乗って、小田原城へと向かっていた。
その目的は、小田原城で開かれる御誕生会への参加、もあるが、
同じくそれに参加しているはずの最上義光の確保、
ひいては彼の鳥、いや鳥が持ち去った鍵の奪取、いやいや鍵の奪還である。
 鉄球の重量のせいだろうか、忠勝はいつもより低空飛行ではあったが、
普段の官兵衛にしてみれば夢のような速さで小田原へと向かっている。
しかもその忠勝に乗るだけで良いこの旅は、想像以上に快適だ。いっそ感動すら覚える。
その官兵衛の感動を示すように、まだ夜明け前ではあったが、
鉄球も(天海、お市に磨いてもらったので)キラキラと輝いていた。
 今のところは順風満帆。小田原へもあと少しで到着するだろう。
官兵衛は意気揚々と、合戦準備の装備画面を開き、"畜生殺しの印"を"黄金の若獅子"へと付け替える。
それから、固有奥義を"穴倉落とし"から"災い転じて"に変更しようとしたところで、ふと鉄球へと目を遣った。
「……」
天海とお市の言葉を思い出し、暫しの黙考の末に、官兵衛は固有奥義をそのままにしておくことにした。
「しかし、これじゃあ……」
鉄球まで封印されたら、官兵衛には戦う術が無くなってしまう。
いや、行き先は小田原城なので戦なんぞ起きないとは思うが、
先の"終の手「照」"を発動した毛利の暴走然り、必要に駆られる可能性が無いとも限らない。
さてどうしたものか、と官兵衛が考えていると、不意に、忠勝に同乗していた風魔に肩を叩かれた。
顔だけ向けると、風魔は無言のまま指で自身を指し示した。
「お前さんに任せろって? まあ、そういうことなら、もしもの時はよろしく頼む」
「……」
風魔が小さく頷いたのを確認したところで、折よく、眼下に小田原城の天守が見え、忠勝も着陸態勢に入った。
城下は活気づいており、復興は着実に進んでいることが見て取れる。八幡山あたりなどは騒がしすぎる程だ。
「風切羽、すまんがそっちの荷物を頼む。小生は鉄球だけで手一杯だ」
大風呂敷を示してそう言い、官兵衛は鉄球を背に担いだ。風魔も大風呂敷を抱える。
そして、小田原城本丸の桜広場――平たく言えば、小田原城再建戦ステージの北条氏政がいる場所――へと降り立った。
 そこには、桜の下に敷物を広げ、武田信玄、上杉謙信と、
彼らの配下の忍である猿飛佐助、かすが、そして前田利家が仲良く飲み食いをしていた。
彼らの周りに散在している空になった酒瓶や食器から察するに、
御誕生会が始まってから少なからずの時間は経過しているようだ。
しかし、それにしては人数が少ない気がする。
小田原城主・北条氏政や、官兵衛に書状を寄こした伊達政宗、
官兵衛の迎えに忠勝を向かわせたであろう徳川家康の姿も見当たらないし、
信玄と佐助がいるのに真田幸村がいないことや、利家のみでまつがいないことも奇妙な話だ。
何より、肝心の最上義光がいない。
「おや、くらのきみ」
「おお、よう参ったのう」
浮かんだ疑問と僅かな焦りに官兵衛が首を傾げていると、
忠勝の機動音あたりで気付いたのだろう、信玄と謙信が声を掛けてきた。
それに伴い、残りの者たちも官兵衛の方へと目を向けた。
こちらへ来い、という信玄の手招きに応じて、
官兵衛は鉄球を抱え、彼らの方へと近寄った。(その後に風魔、忠勝も続いた。)
「なあ、集まったのは、お前さんたちだけか?」
敷物の端に鉄球を置いて腰を下ろすと、信玄、謙信の二人からすぐさま杯を渡され酒をなみなみと注がれる。
一口飲んだ後、官兵衛は率直にそう尋ねた。それから、周りを一瞥し言葉を継ぐ。
「この様子じゃあ、御誕生会はもう始まっているんだろう?
 だが、それにしちゃあ、随分と奇妙な組み合わせに思えるんだが……」
その官兵衛の言葉に、この場にいた何人かが眉を寄せ、沈黙が辺りを覆った。
その微妙な空気に、あれ、小生何か変なこと言ったか?と官兵衛も眉を寄せる。
「……お前、何を言っているんだ?」
その沈黙をまず破ったのは、かすがだった。
「何をって……御誕生会のことだ。もう始まっているんだろう?」
呆れた様子のかすがを訝しく思いながらも、官兵衛はそう言い返した。
それにかすがの横で頷いていた佐助が今度は口を開いた。
「まだ始まっていないよ。主役がいなきゃ、始まるもんも始まらないって」
「待て待て、既にこれだけ騒いでおいて、始まっていないはずないだろう?」
周囲に散らばる酒瓶や食器を、左、真ん中、右、と順々に両手で指し示す官兵衛に、
ああ、それは、と佐助は決まり悪そうに顔を逸らした。
いや、そのまま信玄、謙信、利家へと視線を移した。
それでおおよそ察しが付いて、官兵衛も呆れた様子で三人へと目を向ける。
「くらのきみをまっているあいだ、すこしばかりのんでいただけですよ。
 かすが、もういっこん」
官兵衛の視線にやんわりとそう抗議してから、謙信はさり気なくかすがにお代わりを要求した。
謙信のその言葉に、かすがは嬉々として従い、酒を注いだ。
「あっ、かすが、軍神にはもう酒のお代わりは禁止って言っただろ!」
「そ、それは……仕方ないだろう!
 謙信様のお言葉に逆らうなど、そのような……」
「佐助、ワシにも酒じゃ!」
かすがを窘めている佐助に、信玄が声を掛け、酒のお代わりを所望する。
「お館様まで! 病み上がりなんだから、少しは自重して下さいって!」
が、佐助は断固として譲らない。すると謙信が先程かすがから渡された酒瓶を示しながら、信玄へ声を掛ける。
「では、かいのとらにはわたくしから」
「おお、謙信、すまんのう」
「ちょっとちょっと! あんたらいい加減にしなさいって!」
勢いよく酒を平らげていく謙信と信玄、
その二人を止めようとする佐助、
二人の様子を複雑な心境で見つめているかすが、
そんな光景を呆れた様子で眺めていたが、暫く終わりそうにないので放っておくことにして、
官兵衛は利家の方へとにじり寄った。
「暗の官兵衛、お前も食べるか? まつの飯はうまいぞ!」
すぐに気付いた利家はそう言うと、重箱にぎっしりと詰められた色とりどりの料理を小皿に取り分け、官兵衛に渡した。
礼を言ってそれを受け取りながら、官兵衛は先程の佐助や謙信の言葉を反芻する。
いや、全く期待していないわけではなかったのだが、
先の大坂城で十分な報いがあったわけだし、
これ以上ここでツキを使うのも今後の不運が不安でだな……
「……なあ、この御誕生会の、その、主役ってのは……」
しかしどのみち聞いてみないことには始まらない。
恐る恐る切り出した官兵衛に、利家は明朗快活に答えた。
「ああ、お前のことだ。おめでとう、官兵衛!」
どうやら、大坂城で巡ってきたツキはいまだ健在らしい。
が、現状があまりにも希少すぎていて、官兵衛は逆に戸惑った。
「そ、そうか、ありがとう……で、その、何だ……そうだ、奥方殿はどうしたんだ?」
胸に込み上げる感謝の念と少しばかりの照れ臭さを誤魔化すのも含め、
官兵衛は小田原城を訪れて以来気になっていたことを尋ねる。
「それに北条殿や独眼竜、権現、若虎もだ、そいつらは来ていないのか? あ、あと最上も」
「まつなら厨だ。用意していた飯が無くなってしまってな、片倉殿と共に追加の飯を作っているんだ。
 北条殿はその付き添いだ」
一旦言葉を切り、昆布締めを咀嚼し飲み込んでから、利家は続けた。
「竹千代は栄光門に行くと言っていたな。そろそろ戻ってくるんじゃないか?
 独眼竜と若虎は……あれ、そういえばいないな」
次に煮物へと手を付けながら、利家は周りを見渡した。
「その二人なら、暗の旦那が来るまで手合わせで時間潰すって言って、八幡山だっけ? そこに出かけて行ったよ。
 ついでに、風来坊も面白そうだからとか言って、ついて行っちゃった」
そう声を掛けてきたのは佐助である。
なるほど、八幡山周辺がやたらに騒がしく見えたのはそのせいか。
 ところで、佐助は信玄への説得は諦めたのだろうか。
と再び会話に入ってきた佐助に目を遣り、官兵衛はふと思う。
そんな彼の心中を察したらしく、
佐助は、もういいんだよ、酒は元々軍神のだし、また倒れても俺様知らないから、と言い捨てた。
「そうか、なら最上義光はどこに行っているんだ?」
政宗、幸村、慶次、そして家康の合わせて四人は、その内また戻ってくるだろう。
だったら政宗からの書状について彼を問い詰めるのは後にしておくこととして、
官兵衛は、自身にとっての肝心である最上義光の所在を問う。
しかし、官兵衛のその言葉に佐助と利家は眉を寄せた。
「最上って羽州の狐の? あの人なら来てないと思うけど、来るの?」
「それがしも見かけてはいないぞ」
「えっ、そんなはずは……
 権現が金吾に宛てた書状で、参加者のところに確かに奴の名前が書いてあったんだ」
チラリズムを絶妙に刺激する官兵衛の目が、驚きに見開かれた。
肝心の最上義光がいなくては、わざわざ小田原城へ来た意味が半分ほど無くなってしまう。
やや焦った様子で食い下がる官兵衛を見て、
佐助は、信玄、謙信、かすがにも声を掛けてくれたが、三人とも知らぬ、見ていないと言う。
ここまで来て、万事休すなのか……どうしよう。どうする小生!?
「官兵衛、やはり来ていたな」
と、思い詰めていた官兵衛に、唐突に声が掛けられた。
そちらへと視線を向けると、そこには、頭をぽりぽりとかきつつも、
爽やかな笑顔を浮かべる東照権現・徳川家康の姿があった。
「いやあ、忠勝の姿が見えたので、出迎えようと栄光門まで行ったんだが、
 忠勝がこちらに直接降りてしまってな。慌てて戻ってきたんだ」
まあよく考えてみれば、当然そうするだろう、門まで行く必要無かったな、と笑う家康を見て、
主君に骨を折らせてしまった、と忠勝がしょんぼりとした機動音を鳴らした。
だが、そんな忠勝に家康はすぐさま気付いて、
忠勝、気にすることじゃない、ご苦労だった、と慰め、その労をねぎらった。
「権現! 小生の鍵はどうしたんだ!?」
そこに勢いよく声を掛けたのは、もちろん官兵衛だ。
家康と忠勝のやり取りが一段落するのを一応待ってはいたが、結局割り込んだのだ。
しかし、勢い余って、色々と省略しすぎたため、家康はぽかんとした顔を官兵衛へと向けた。
「鍵? お前の手枷の鍵のことか? ワシは持っていないが……」
それでも律儀に答える家康に、幾らか冷静さを取り戻したらしく、
官兵衛は家康を含めこの場にいる一同の注意を一応引いてから、事の経緯を説明した。
大谷が隠し持っていた官兵衛の手枷の鍵を鳥が持ち去ってしまったこと、
その鳥は最上義光が飼っている超真空流星隼号であること、
その最上義光がこの御誕生会に参加すると聞いて探していること、
ついでに、その最上の参加は小早川宛ての家康の書状で知ったことなどだ。
「……というわけなんだが、権現、最上は一体どこにいるんだ?
 それとも、まだ到着していないのか?」
官兵衛の説明を頷きつつ聞いていた家康は、その問いに頷いた。
「ああ、まだ到着していない」
そうか、と家康の答えに官兵衛は肩を落とす。
それを見越していたのか、家康は官兵衛のその肩に手を置いて、すぐに言葉を継いだ。
「大丈夫だ、官兵衛。来るという返事はもらっている。
 あいつのことだ、そのうち、ひょっこり現れるだろうから、そんなに落ち込むな」
それから、何かを思い出したらしく、ぽんと手を叩き、更に続ける。
「そうだ、独眼竜にも聞いてみるといいんじゃないか?
 何しろご近所だ、多少なりとも様子を聞いていてもおかしくないだろう」
「その独眼竜はうちの大将と手合わせに行ったまま戻って来ないんだけど?」
家康の提案にそう口を挟んだのは佐助だ。
だが、それに対して、意外にも信玄が口を開く。
酒を飲む勢いは相変わらずだが、注意を引いた効果があったのか、話は聞いていたらしい。
「案ずるでない。幸村を呼べば伊達の小僧らも共に来よう」
「先に言っておきますが、俺様は行きませんからね」
本日の俺様は休暇中。何があっても働かないって決めてるんだから。
と言い切る佐助に呆れつつも、信玄はそうではないと言う。
「だったら、どうやって?」
身を乗り出す官兵衛の様子を些か楽しむように勿体振ってから、信玄は続けた。

























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