一応は官兵衛を囲む形であったが、宴も中盤で、各々が自由に飲み食いする段階に入っていた。
それぞれが持ち寄ったらしく、飲み食いできるものは山とある。
幾つか例を挙げると、島津や元親が持参した酒、小早川が準備・調理した特製の鍋、
鶴姫と孫市が採ってきたというサザエ、鶴姫ステージのご当地資源みかんなどだ。
とはいえ、官兵衛が手枷のせいで食べるのに難儀した(というか、あまり食べられなかった)ことは言うまでもない。
 そして官兵衛は今、割と居心地が悪かった。
島津義弘と共に参加者に絡み酒をしていた長曽我部元親が、遂にというかやっとというか、
ともかくもその標的を官兵衛に絞ったのだ。
酒瓶を脇に抱え、元親は官兵衛の横に座った。それから官兵衛に杯を受けるように促してくる。
それを受けながら、官兵衛は思わず、もう一人の絡み酒をしていた人物――島津の姿を探したが、
生憎と島津は立花宗茂と酒を酌み交わしている。
 元親本人は知る由もないが、官兵衛は四国を壊滅させた張本人だ。
命じられてのこととは言っても、そのことがずっと官兵衛の心に影を落としていた。
「なあ黒田さんよ、ちいと小耳に挟んだんだがよお」
手酌の酒をぐいっとひと飲みにして、元親はそう口を開いた。
「……何をだ?」
あまり酔ってはいないが、余計なことを口走らないように、官兵衛は慎重に返した。
「あんたも、機巧にはうるさい方なんだってな?」
「……ああ、まあな」
内心でほっとしつつ、官兵衛は頷き、少しばかり胸を張る。
「何を隠そう、2の大坂・冬の陣で登場する仁王車は小生の設計だ」
「おおっ、あれか! あれにはなかなか難儀したな。
 だが3の角土竜、空ではなく地の底を目指すあの発想には正直舌を巻いたぜ」
「地に潜ってしまえば、敵の目も手も届かない。角土竜は仁王車の弱点を克服しているんだ。
 お前さんの方こそ、あの…暁丸か? あれの跳躍力はなかなかだと思うぞ。あれなら敵の攻撃も届かないだろうな」
「そうだろそうだろ!
 今はまだ長くは跳んでいられねえんだがよ、そこさえ何とかすりゃあ向かうところ敵無しよ!」
と、機巧談義に花を咲かせていると、その騒ぎを聞きつけのか、島津・立花両名が元親と官兵衛の方へとやって来た。
「おお、官兵衛どん、楽しんどるね?」
「そのようですね。何よりです」
そう言いつつ、官兵衛の隣に並んで座った。
二人、特に島津は相当飲んでいるはずだが、いまだほろ酔い程度のようで、酒を飲む勢いはまだまだ衰えない。
それどころか、鬼の名を賭け、島津と元親は飲み比べを始めてしまった。
「……それにしても、少し意外だな。鬼島津はともかく、お前さんがこんな所まで来るなんざ……まあ大方、
 宗麟様のワガママにまた付き合わされたってとこだろう?」
一方、残る二人も酒を酌み交わす。
立花からの酌を受けつつ、口をついて出てしまった官兵衛の相変わらずな物言いに、立花は微笑を浮かべたまま答えた。
「いえ、黒田殿を祝おうとの石田殿のご提案に、我が主も賛同されたのです」
立花の思わぬ返答に、官兵衛は目を瞠る。
「提案って……三成がか?」
「はい。雑賀殿や姫巫女殿のお口添えもありましたが、宴は石田殿の案ですよ」
「……」
まさか、あの三成が?と、意外すぎる事実に暫し唖然とするが、
そういえば、風魔が届けに来た書状も三成が書いたものだった。
その風魔の姿を官兵衛は探してみるが、どこにも見当たらなかった。
「なあ立花、そもそもどういった理由で、宴を開くことになったんだ?
 三成と風切羽、およそ接点なんぞ無さそうに思うんだがね……」
何とはなしに官兵衛は立花に尋ねてみる。立花は少しの間の後、口を開いた。
「そうですね、少々長くなりますが……」
そう言い置いてから、徐に語り始めた立花の話によると、事の発端は鶴姫と孫市のサザエ採りにあるらしい。
「たくさん採れたので、皆さんにもお裾分けしようと思って、私と孫市姉様の二人で、大坂城に向かったんです」
「その際に、官兵衛宛の書状を運んでいる風魔に偶然会ったのだ。
 まあ、偶然というか姫がムリヤリ見つけた気もするが……」
いつの間にやら、鶴姫と孫市が話に加わっている。が、話に夢中になっているせいか、誰も何も言わなかった。
「そこで御誕生会のことを知ったのだが、大坂城にいた者――石田、大谷、姫、私の四人だな――
 その誰も、御誕生会が何かを知らなくてな」
「そこに僕がたまたま通り掛かったのです!」
今度は宗麟が話に入ってきた。
「ザビー様からは、ザビー教以外にも南蛮の様々な事をご教授頂きました。もちろん御誕生会についてもです!」
ちなみに、宗麟と立花はそのザビーを探す旅の途中だったらしい。
「それで、こちらでもぜひ御誕生会をやりましょう、
 せっかくなので他の皆さんもお呼びしましょう、ということになりました。
 それから、私たちで手分けしてお友達に文を送って、皆さんに集まってもらったんです」
なるほど、そういうわけだったのか、と官兵衛にもようやく経緯が理解できた。
同時に、今までの自分の不運っぷりから考えると、これは、不運の欠片もなぜじゃの予感すら無い出来事だ。
素直に嬉しいし、こうして御誕生会を開いてくれた者たちに感謝の念すら湧いてくる。
いや、流石に礼の一つも言っておかねばなるまい。
と思い至り、官兵衛が口を開きかけたその時、鶴姫がにっこりと笑い、言った。
「実はまだ続きがあるんです。大友さんに教えて頂きました。
 御誕生会では、お誕生日の人に贈り物をするんですよね。
 ですから、わたしは、暗のおじさんをバシッと占っちゃいます!」
それから、ちょっと待っていてください、占ってきます、と言い残し、鶴姫はその場を離れた。
言うが否やの鶴姫の素早い行動に、官兵衛がぽかんとしていると、
酒飲み対決が終わったのか、元親と島津が声を掛けてきた。
「だったら俺はこいつだ」
と、元親は官兵衛にカツオブシを押し付けた。ご当地資源の宗田節だ。
聞けば、小早川特製の鍋は、実はこれでダシを引いていたらしい。
「おいは、そうじゃの……とっておきの焼酎、これでどうね?」
「お、おい鬼島津……まさかそれは伝説の……!」
流石酒好き、官兵衛より先に元親が食いつき、身を乗り出した。それに島津は胸を張る。
「そう、琉球の泡盛……何と百年物じゃ!」
「ひゃ、百年だって!? 黒田、頼む、俺にも一口!」
「あ、ああ、鬼島津が良いと言うなら、良いんじゃないか?」
ずいっと顔まで近付けてきた元親の勢いに圧され、官兵衛は思わず頷いた。
「ジョシー! ジョシー黒田!」
しかし、お猪口に注がれたその秘伝の泡盛に官兵衛が口を付ける間際、宗麟から呼び止められた。
これはもう嫌な予感しかしない。
「僕からはもちろん、ザビー様より賜った愛のお言葉!
 そして、ジョシーも大好きなザビー水ですよ!」
「げっ、またか! だからそいつは小生の口には合わないんだって!」
「わ、我が主、お待ちを!」
当然聞く耳持たれるはずもなく、有無を言わさずザビー水を飲まされかけたが、
すんでの所で立花が止めに入り、官兵衛は事なきを得た。
「宗茂! 僕に逆らうのですか! 許しません!」
しかし、腹を立てた宗麟は、(略)愛の衝撃号に飛び乗ると、標的を官兵衛から立花へと変えた。
「も、申し訳ございません!」
哀れ、身代わりとなった立花は、(略)愛の衝撃号の攻撃をかわし、天守を逃げ回る羽目になった。
「黒田殿、手前からの贈り物も、宜しければお受け取りください!」
逃げ回りながらそう言ってきた立花からの贈り物を見てみると、黒松の盆栽だった。
「こ、これは……!」
風雪に耐えたであろう古木が鉢にしっかりと根を広げている。
深みのある緑の松葉が流れを感じるように剪定されており、中央よりややずれた位置にある幹との調和が絶妙だった。盆栽初心者の官兵衛でも思わず見惚れてしまう程の出来映えだ。
「立花、ありがとう……!」
丁度盆栽に手を出そうとしていただけに、立花のこの盆栽は本当に嬉しい。
更に、先程のザビー水から咄嗟にかばってくれたことも合わせて胸を打ち、
官兵衛は素直に礼の言葉を、ただし心の中で呟いた。
「さあ、僕の元へ来なさい!」
ところが、宗麟のその言葉が聞こえたと同時に、官兵衛の方へザビー天使が一直線に飛んでくる。
宗麟の固有技"さあ、再誕のとき"である。このままでは、強制的に信者にされてしまう!
「うわわわっ!」
もらった盆栽を抱え、官兵衛は一度目の攻撃を辛うじて避けた。
「我が主、お許しを! さあ黒田殿、今のうちに!」
しかし、またもや間に立花が入り、体を張って宗麟を止めた。
「立花、恩に着る!」
立花の背中へ向かってそう叫び、官兵衛はひとまずその場から退散した。




 宗麟から逃れ、官兵衛が辿り着いた場所には、一人で小早川の鍋をつついている毛利の姿があった。
束の間、別の場所へ移動しようかと考えたが、此処は他よりも人目に付きにくく、身を隠すには都合が良い。
仕方なしに、官兵衛は毛利の近くに腰を下ろした。
毛利はそれを一瞥しただけで、再び鍋をつつき始めた。
その毛利が持っている器には、餅が山盛りだ。おそらく、好物なのだろう。
いや、それよりも気になるのは、日輪好きのあの毛利が、
わざわざ官兵衛を祝うために、日輪を拝めない夜の大坂城に来ていることだ。
更に、こんな人目に付かない場所に隠れるようにしているのも奇妙な話だ。
「……我とて、こんな場所に来るつもりなど無かったわ」
難儀しながら器に取り分けた鍋を食しながら、官兵衛がそんなことを考えていると、
その疑問を察したのか、毛利が不機嫌そうにそう呟いた。
「だったら、何でまたわざわざ?」
珍しく毛利の方から口を開いたので、官兵衛も聞き返す。
毛利は眉を寄せ、深刻な表情で、ゆっくりと言葉を継いだ。
「……あの大友……奴が厳島に来てからの記憶がどうもはっきりとせぬ。気が付けば大坂城に来ていた……
 そして、それまでのことを思い出そうとする度、それにあの大友を我の視界に映す度に、
 我が胸のうちで何かが開きかけ……」
珍しくぶるりと震え、毛利はそのまま黙り込んでしまった。
毛利の言っていること自体はよく分からないが、
大友ということは十中八九ザビー教絡みで、過去、何か相当に嫌なことでもあったのだろう。
分かるぞ、毛利、小生もついさっきヒドイ目に遭ったばかりだ。
そんなことを考え、官兵衛はほんのちょっとだけ、毛利に親近感を抱いた。本当の本当に、ちょっとだけだが。
「……それに我は日輪の申し子故に、日の光を浴びぬと力があまり出ないのだ……」
「……」
しかし、今まで腹に溜めていた鬱憤を吐き出すように、
大坂城は冬の陣も月影戦も夜で腹が立つだの、
日輪が足りないだの、
我が名はサン…散!だの、
本気か冗談かどうにも判断がつかないというか、
要するに酔っ払いの戯言めいたことを呟き始めたので、流石に官兵衛も反応に困ってしまう。
毛利の周りに酒の類は一切見当たらないので、酔っているはずはないのだが……
「……あー、えーと……あ、そうだ、お前さんのあの技、『焼け焦げよ!』とか言うやつ、
 あれを使えば良いんじゃないか?
 ほら、仕組みはよく分からんが、あれならどこでも日輪の力を借りられるんだろう?」
半ばヤケクソで、冗談混じりに官兵衛がそう返すと、
毛利は無言のまま器(というより餅)から官兵衛へと目を向けた。
「……貴様……」
これは、しくじったようだ。そう判断して、官兵衛はひとまず言い繕おうと口を開きかける。
だが、
「……役立たずの駒にしては、良いことを申すではないか!」
突然、(驚くべきことに)毛利が目を輝かせ、そう声を上げた。
「……え?」
毛利の思いも寄らぬ言葉に驚き呆れ、官兵衛は束の間混乱し、二の句が継げなかった。
その合間に、毛利は立ち上がると、背後に置いていた輪刀を持ち上げ、高らかに叫んだ。
「焼け焦げよ!」
その叫びに応えるように、上空に光り輝く日輪が現れ、周囲を照らし出した。
「消え去れ!」
そして、空からの光線が、天守中央に集めてあった食べ物に向かって照射された。
「毛利! お前さん血迷ったか!?」
慌てて官兵衛が毛利へと"穴倉落とし"を発動させ、これ以上の照射は止めさせたが、
突然の攻撃というか騒ぎに、周囲の目が一斉に毛利、官兵衛へと向けられた。
「あっ、ジョシー! 見つけましたよ!」
そして案の定、宗麟にも見つかってしまった。
やばい、と思った官兵衛を余所に、次の瞬間、宗麟の注意は毛利へと向けられた。
「タクティシャン! そんな所にいましたか!」
そう叫んで、宗麟は官兵衛ではなく毛利へ、(略)愛の衝撃号で向かって行く。
「わ、我としたことが……迂闊!」
途端に青ざめ、逃げ出していく毛利と、それを追いかける宗麟を、官兵衛は呆然としたまま見送った。
「まあ、何てこと!」
すると突然、鶴姫の声が辺りに響いた。今戻ってきたばかりらしい。おそらく占いが終わったのだろう。
「すごいです! みなさんも来てください!」
続けて、鶴姫が呼び掛ける。
それに応え、一同が鶴姫の所までやって来ると、
そこには先程の毛利の固有奥義"終の手「照」"で加熱されたサザエがあった。
「焼きサザエだな。これは良い」
孫市が感心した様子でそう呟き、新たな酒の肴に酔っ払い二人も声を上げて喜んでいる。
「どうした官兵衛、焼きサザエは嫌いか?」
早速食べ始める者たちに混ざらず、立ちつくしたままの官兵衛に孫市が声を掛けてきた。
「……好きとか嫌いとか、そういう問題じゃあ無くてな……」
官兵衛は手枷を軽く持ち上げ、肩を竦めた。
それを見て、孫市はすぐに官兵衛の事情を察する。
束の間黙考した後、孫市は再び口を開いた。
「そうか。では、私が食べさせてやろう」
孫市の提案に官兵衛は目を瞠るが、すぐにその顔に喜色を浮かべた。
「孫市、本当か! 恩に着る!」
「何だとッ! おのれ官兵衛ェエッ!!」
官兵衛の言葉と同時に、三成が何故か激怒して叫び出す。
例えるなら、宴佐助ストーリー・最終章と同様の憤慨っぷりだ。
最初は天君の時と同じくシステム上の台詞かと思ったが、そうではないらしい。
「な、何でそんなに怒るんだ!? ていうか、こんなことになるのも元はと言えばお前さんのせいだろうが!」
三成の剣幕に驚きつつも、官兵衛はそう言い返した。
次の瞬間、三成は刀を抜いて官兵衛へ斬りかかる。
官兵衛はその一撃を手枷で受け止めつつ、更に言う。
お前さんが小生の自由を奪ったんだ!よくもあんな穴蔵に放り込んでくれたな!
対して三成は、ならば死ね!枷からも闇からも逃れて自由になるはずだ!と言い返す。
つまりは官兵衛赤ルートのやり取りの繰り返しである。
その様子を、孫市と、三成と共にいた大谷が、呆れたように見ていた。
「……石田、官兵衛、せっかくの御誕生会だ。二人とも少しは落ち着け」
が、暫くして、孫市が宥めに入る。
「官兵衛だけにしてやるのが気に食わないのか? ならば石田、後でお前にも食べさせる。
 それで良いだろう? だから落ち着け」
「そういうことを言っているのではない! そもそも孫市、貴様には――」
「分かった分かった。文句なら後で好きなだけ言え」
食い下がる三成を宥め倒した後、孫市は箸を取り、官兵衛に横に座るように促した。
 枷がそもそもの原因とはいえ、他人(しかも女性に)に食べさせてもらうのは、何だか気恥ずかしく、
また妙に他(特に三成)からの視線が痛い気もしたが、
"終の手「照」"で焼かれたサザエは、絶妙の焼き加減で、とても美味だった。

























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