噂に聞く御誕生会






 石垣原坑道戦ステージにて、黒田官兵衛がいつも通り黒田軍の者たちと
(実際何をしているのか詳しいことは分からないが)作業している時だった。
突如、穴蔵の中だというのに、彼らの周りで一陣の風が吹き荒れた。
何だ何だどうした、と騒然となる周りに頓着せずに、官兵衛は角土竜の下に入り込んで、黙々と整備を続けていた。
つい先日、ネジが四つ外れていたせいで、大坂城乗っ取りに失敗したばかりなのだ。
 しかし、官兵衛さーん、という呼び掛けと共に、ガンガンとツルハシか何かで鉄球を叩かれ、
官兵衛はようやっと角土竜の外の様子に気が付いた。
「おう、どうした?」
返事をしつつ、官兵衛は角土竜の下からのそのそと這い出した。
出てきた官兵衛の視界に一人の忍が映る。
現在、北条の傭兵として雇われている風魔小太郎だ。
「何だ、誰かと思えば風切羽か」
何か用か、と問う前に、風魔がすっと何かを差し出す。
「ん? 小生にか?」
差し出されたそれに目を遣ると、どうやら書状のようだ。しかも二通ある。
風切羽が持ってきたのだから、おそらく北条殿からだろう、でも何で二通?
と思いつつも官兵衛は手を伸ばして書状を受け取り、手枷を付けられた手で器用に一通目の書状を開いた。
が、筆跡は北条氏政のそれでも彼の祐筆のものでもない。
眉を寄せ、官兵衛が差出人を確かめると、そこに記された名は、北条氏政ではなく伊達政宗だった。
何で独眼竜?と首を傾げながらも、官兵衛は書状に目を通す。
それを現代語訳すると、おおむね以下のような内容だ。
『黒田官兵衛へ
 北条のじいさんから話は聞いた。
 ってことで、小田原城で御誕生会をすることになったから、アンタも必ず来い!
 政宗より』
独眼竜が北条殿から聞いた話がどういった内容かは知らないが、
どうやら小田原城で噂に聞く御誕生会というやつを開くらしい。
誰の御誕生会で誰が来るか、詳しいことは書かれていないのが少し気になるが、
小田原城ということは、北条殿がいないということはないだろう。
「……お前さんも参加するのか?」
「……」
顔を上げ、官兵衛は風魔へそう尋ねた。
少しの沈黙の後、風魔は小さく頷いた。
ならばこれで少なくとも味方は二人、そして場所は北条領、
まあ、試算上はそこまでひどい目に遭うことにはならないだろう。
「……分かった。北条殿…それとも独眼竜か、まあどちらでもいいが、行くと伝えてくれ。
 ああ、それとも返事書いた方が良いか?」
何せ枷を付けられた手だ、筆を執るのは些か面倒なので風魔にそう確認すると、
風魔はまた小さく頷いた。それから、二通目の書状を指差す。
そういえば、と思い出し、二通目も開くと、こちらの文字には悪い意味で見覚えがあった。
「げっ、三成!?」
二通目は何と石田三成からの書状だった。
思わず声が出てしまったのも無理はない。
九州に追いやられ、いやそれ以前から、例を挙げればキリがないが、
豊臣――特に石田三成や大谷吉継――に関わってロクなことがあった試しがないのだ。
警戒露わに、そして恐る恐る書状を読む。
その中身は実に三成らしいものだった。
『官兵衛へ
 貴様に用がある。可及的速やかに大坂城まで来い。
 来なければ縊り殺す。
 石田三成』
同様に現代語訳するとこんな感じだ。
意味が分からないが、行こうが行くまいが嫌な予感しかない。
いや、手紙の差出人こそ違うが、これは青ルートと同じパターンだ。
いや待て、青ルートということは、鍵を手に入れる機会が訪れたのかもしれない。
でも大坂城だし、三成がいるなら必ず刑部もいるし……
「……風切羽、お前さん、飛脚でも始めたのか?」
独眼竜といい三成といい、差出人はおよそ風魔に関わりの無い人物ばかりだ。
三成からの呼び出しにどう返すか考えつつ、疑問混じりに官兵衛はぼやいた。
当然ながら、風魔は無言のままだ。
 長い長い黙考の末に、官兵衛は大きく息を吐いた。








 ステージは大坂・冬の陣に移る。場所は当然大坂城、そしてただ今の時刻は(ステージの都合上)夜。
淡い月明かりに照らされながら、今は亡き主の威光を変わらず誇示するように、
大坂城の天守が高くそびえ立っていた。それを遠目に眺めながら、官兵衛は何度目かのため息をついた。
「あーあ、来ちまった」
ため息と共にそう呟いてから、意を決して官兵衛は天守を睨み、走り出した。
ちなみにお供は風魔で、アシストモードだ。
「三成ー! 来てやったぞ、何の用だ!」
鉄球を引き摺り、坂を下りながら、官兵衛は天守にいるであろう三成に向かって呼び掛ける。
実際どういう仕組みかは甚だ不思議であるが、
ゲームでは離れた相手と会話が可能なので、ここでもそれを採用する。
 ともかくも、官兵衛の呼び掛けに天守の方からも応答があった。
「遅い! 官兵衛、貴様何を愚図愚図していた!」
「三成、暗に期待するだけ無駄であろ」
「ジョシー! みなさん、ジョシーが来ましたよ!」
「我が主、あまり身を乗り出しては……」
「何てこと! 準備がまだ終わっていませんよ!」
「役立たずの駒共がいるからであろう。先程から飲み食いしかしておらぬわ」
「まあそう言わんと。毛利どん、おまはんも飲みんしゃい」
「そうそう、そんなしけた面じゃあ、せっかくの酒も不味くなるってもんよ」
「あ、鍋がそろそろ頃合だ! ぼく先に食べちゃうよ!」
「おや、器が足りませんねえ」
応答と言うより雑談が主だっていたが、その雑談から察するに、
どうやら大坂城には三成と大谷の他にも見知った者が集まっているらしい。
「いやいや待て待て! 何だ、何の騒ぎだこれは!」
開いた門から出てきた石田軍の兵士たちを鉄球でぶちのめしながら、
官兵衛はもう一度天守に向かって大声を上げる。
「三成…いや刑部か!? お前さんたち、一体何を企んでいるんだ!」
その問いかけに対して、天守の方からの答えは無い。
「……石田、どうやら官兵衛には伝わっていないようだが、書状には何と書いたのだ?」
「……」
「雑賀、どのみち暗さえ来れば問題は無い。文の内容など小事よ小事」
代わりに聞こえてくる困惑混じりの会話を尻目に、
官兵衛は門を守っていた島左近(参戦おめでとう!)を倒し、
ついでに陣を取り、更に先へと進む。
「暗、早に来い。皆が待ちかねておるぞ」
「うるさい! 早く来させたいんだったら、兵士やら置くな!」
こんなことなら、固有奥義を"穴倉落とし"ではなく"災い転じて"にしておけば良かった。
(どうせ刑部には"穴倉落とし"できないし)
と自身の足の遅さを忌々しく思いながらも進んでいくと、案の定、戦車天君が待ちかねている。
幸い"畜生殺しの印"は付けていたが、この調子だと、天君を倒した後は毒塵針が打ち込まれるに違いない。
「ふむ、その期待には応えねばなあ」
官兵衛の心中を悪い意味で察したらしく、大谷が実に楽しそうな声音でそう返す。
「げっ、やめろ刑部! 期待なんぞこれっぽっちもしていないぞ!」
「左様か。では、ぬしに不幸の針を打ち込んでやろ」
「だから待てって! そもそもまだ早いだろう!」
「気にしやるな。関ヶ原・集結?内応?謀略?何かその辺のステージでもセットで出てくるであろ」
「関ヶ原・内応だよ! せめて覚えてろこんちくしょー!」
そうこうしている間に、大谷の宣言通り、毒塵針が打ち込まれた。
「くそっ、くらえっ!」
しかし、装具のおかげで、天君の体力はもうわずかだ。
最後に"厄玉突進"で、官兵衛は戦車天君を撃破した。
「秀吉様の残された力の象徴が…! 貴様ァッ!」
「石田、落ち着け」
ステージのシステム上、憤慨する三成を宥めつつ、孫市は官兵衛へと声を掛けた。
「官兵衛、とにかく天守まで来い。今、大谷が迎えに行った」
「迎えにだって? そんな穏やかなもんとは思えんがね」
そうぼやいてから、陣を落とし毒塵針を片付け、開いた門から官兵衛が先へと進むと、
孫市の言う通り、大谷の姿が見えた。
「見やれ、迫り来るアレを…ぬしにも分かろ。われにも分かる」
「分かるか! 以下省略!」
切り替わったムービー画面をSTARTボタンを押して省略すると、大谷は大げさにため息をついた。
「暗よ、随分とずさんな態度よなあ」
「いいから鍵よこせ、刑部!」
「……おっと、われは急に耳が遠くなった」
「しらばっくれるな!」
鉄球に繋がる鎖をぐっと掴んで、いつでも攻撃に入れるよう構えながら、官兵衛は大谷を睨み付ける。
大谷はちらりと天守の方へ目を遣った後、再び官兵衛を見据え、徐に腕を動かし始めた。
「黒田、今回ばかりはぬしをどうこうする気はないゆえ、安心せよ」
大谷がそう言うと同時に、彼の背後でくるくると回っていた球の一つが、突然、官兵衛に向かって飛んでくる。
鉄球のせいで動きが鈍い官兵衛にそれを避ける術は無いし、避けるつもりも無い。
手枷で受けようと官兵衛が身構えた瞬間、彼の巨体がふわりと浮き上がった。
「うわわっ! 刑部、何しやがる!」
「のろまなぬしの到着を待っても埒が明かぬゆえな。
 雑賀も言っていたであろう、われはぬしを迎えに来てやったのよ」
些か面倒そうに言い放ち、大谷は球で官兵衛を浮かび上がらせると、そのまま天守へと運んでいく。
具体的に言えば、大谷赤ルートの石垣原ムービーのあれだ。
「暴れるでないぞ。まあ、落としたところでわれは些かも気にせぬがな」
大谷は一応官兵衛にそう注意する。
本当に落とされそうだったので、官兵衛は大谷の言葉に従い、おとなしく運ばれていく。
風魔は先に天守へと行ったのだろう、既に姿はない。
「……これ、意外と便利だな……」
意識がしっかりある状態でこうして運ばれるのは初めてなので、
天守へと続く階段を上りながら(もちろん実際に上っているわけではない)、
官兵衛は感心した様子でそう呟いた。
「なあ刑部、これも固有技にあれば便利じゃないか?
 ほら、大坂城月影戦でも忍者操ってただろう?」
「……こう見えて、これは結構疲れるゆえな、あまり使いたいものでもない(適当)」
などと雑談を交わしつつ、大谷と官兵衛は階段を上り終え、天守へと辿り着いた。
 大坂城の天守には、大きな、ただし明らかに急ごしらえな横断幕が掛けられていた。
そこには『黒田官兵衛の御誕生会』と墨で書かれており、幕の縁は色紙で作ったらしい造花がくっついている。
天守奥にある垂れ幕には色紙を細くして繋げた鎖が追加されており、
鎖と垂れ幕のつなぎ目には、これまた色紙の造花が飾られていた。
 そして、そんな手作り感溢れる横断幕の下には、西日本のプレーアブルたちが勢揃いしていた。
あいうえお順に、石田三成、お市(実はいた)、大谷吉継(官兵衛を天守まで運んだ後、早々に戻った)、
大友宗麟、小早川秀秋、雑賀孫市、島津義弘、立花宗茂、長曽我部元親、鶴姫、天海、毛利元就である。
とはいっても、島津義弘、長曽我部元親の二人は勝手に酒を飲み始めており、
確か酒を好まぬらしい毛利元就はその横で眉を顰めている。
そして小早川秀秋と天海の二人も仲良く鍋をつついていた。
「……何だこれ……」
目の前に広がるある意味異様な光景に、官兵衛は呆気に取られる。
そんな官兵衛にお市、鶴姫、孫市の女性陣が近付いてきた。
「暗のおじさん、お誕生日おめでとうございます!
 これ、孫市姉様に教えてもらって、お市ちゃんと作ったんです」
「……そう、市もね、手伝ったの……」
そう言って、お市の魔の手が官兵衛の頭に載せたのは白い花(こちらも造花)を編み上げて作った花冠だ。
ちなみに、花冠を載せるのに何故魔の手を使ったかと言うと、
単に女性陣の身長では官兵衛の頭までは届かないからだ。
「……」
官兵衛は困惑した様子で、鶴姫やお市から孫市へと視線を移した。
それを察し、孫市が口を開く。
「……官兵衛、石田の書状には何と書いてあった?」
「いや、用があるとしか……」
官兵衛の答えに、孫市は、からすめ、と喉の奥で呟き、ふっと息を吐いた。
「……まあ、要するに、皆、御誕生会でお前を祝おうと集まったわけだ」
「そうです! 海の向こうの国では、お誕生日にお祝いするんですよ、知ってました?」
「……前に、兄様をお祝いしたこともあるのよ……」
えへんと胸を張る鶴姫の横で、お市はぼそぼそと誰にともなく呟いている。
ともかくも、孫市の言葉で官兵衛にもようやく事情が飲み込めてきた。
刑部や毛利あたりは何か別の企みも腹の内にあるのかもしれないが、
他の者たちは、真実、官兵衛を祝おうと集まってきたのだろう。
「……それでわざわざこんなところに集まったってわけか? お前さんたちも暇だな」
彼らの気遣いは純粋に嬉しかったが、照れくささが先に立って、官兵衛はついつい余計な口を叩いてしまう。
そんな官兵衛の性格は承知しているらしく、孫市は、からすめ、と苦笑するに留めた。
「とにかく、暗のおじさんも早くこちらに来てください! お市ちゃん、手伝って!」
焦れた鶴姫が官兵衛の腕を引っ張り宴席へと連れて行こうとするが、
少女の力では当然ながら官兵衛のような大男を動かすには及ばない。
鶴姫から助力を請われ、お市は頷いて魔の手で官兵衛を掴み、ややぞんざいに宴席へと放った。
「第五天! もう少し丁寧に扱ってくれ!」
と訴える官兵衛の言葉は、既にできあがっている島津、元親両名の、
まあ飲め飲めという酌によってうやむやにされ、
かくして大坂城での御誕生会は始まった。

























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