寝覚月





 ようやく挿れられていたものを抜かれ、政宗は息を吐いた。
「…きつかったのか?」
そう尋ねてくる元親の瞳を見つめた後、政宗は不機嫌そうに顔をそらした。
「キツイに決まってるだろうが」
「悪ぃ悪ぃ」
悪びれずに謝りながら、元親は政宗の髪をくしゃくしゃと撫でる。
笑顔の元親とは対照的に、政宗の眉間の皺は深くなった。
「ガキ扱いすんじゃねぇ」
「してねぇよ」
元親は笑みを零したまま、顎に手をかけ、そらされた政宗の顔を自分の方へと向かせた。
「ん」
口付けて、舌をねじ込ませる。
深くして、逃げる前に舌を絡めた。
「んっ…」
先程の余韻はまだ残っていて、吐息も漏れる声もすぐに甘く濡れてきた。
それは自分も同じで、声に誘われるように、萎えた熱が疼き始めた。
 唇を離し、政宗の顔を見下ろす。
政宗は頬を赤く染め、やや呆けたように、ぼんやりとしていたが、
すぐに見つめる元親の瞳を見返した。
「まだ、し足りねぇのか?」
「…かもなぁ」
「……」
罵りの言葉を何かしら浮かべていることは、元親を見つめる政宗の冷たい瞳から楽に想像できた。
 元親はまた微笑して、政宗の頬をそっと撫でる。
「……お前が嫌だってんなら、しねぇよ」
そう言ってやると、政宗は少しばかり目を見開いたが、すぐにまた細められた。
政宗は唇の端だけ上げて皮肉げに笑い、その手が、疼き始めた熱を握った。
「…また勃ってきてるくせにな……」
「誘うなよ」
苦笑して、
それならやるからな、と言い、
元親は政宗の脚の間に手を伸ばす。
「…っ…」
ゆっくりと撫でられ、小さく声が漏れる。
「元親…」
呟いて、元親の背中に腕を回した。




 奥州の独眼竜と、このような関係になったのはいつからだろうか。
気を失った政宗の髪を梳きながら、元親はふと思った。
最初にどちらが誘ったかも覚えていない。
いつの間にか身体を重ねるようになって、会うと大体こうなる。
「敵なんだがなぁ……」
いつ攻めてきてもおかしくはない。
いつ攻めたとしてもおかしくはない。
今は、そんな時代だ。
だから、この竜との関係は恋や愛といったものではない。
互いに戦になれば、躊躇いもなしに殺し合えるだろう。
しかし、こうして抱き合うと心が安らぐのも確かだ。
それ故に何度も行為に及ぶのであり、
身体だけではない、心の充足を感じるのだろう。
「……」
だが、この独眼竜の方も自分と同じように思っているかは分からない。
違う考えかもしれぬし、これ自体が何かしらの企みかもしれない。
「……まあ、どちらでもいいけどな」
呟いて、また政宗の頭をくしゃくしゃと撫でた。








 政宗は目を開いた。
定まらぬ意識にしばし虚空に目をやって、それから頭を動かし始める。
嫌な夢を見た気がする。
半身を起こし、頭を抱えると、眼帯がないのに気が付いた。
「……」
取ったのか、取られたのか。
よく覚えておらず、別にどちらでも良かったのだが、無いとどうにも落ち着かない。
 政宗は部屋を見渡すが、見あたらない。
代わりに縁側に元親が座っているのを見つけた。
「俺の眼帯はどうした?」
政宗の声に気が付き、元親が振り返った。
月の光を背に受けているせいか、表情がよく見えなかった。
「ああ、起きたのか」
「眼帯がないんだ」
立ち上がり、元親の側まで近付いていく。
もう何度も見られているし、相手も見せてくれたので、
元親には眼帯の無い姿を見せるのは気にならなくなった。
「俺が持ってる」
指に引っかけた眼帯をくるくると振り回す。
元親のからかうような仕草に、政宗は眉を顰めた。
「返せ」
「着けてやるから、後ろ向け」
「自分でできる」
「なら返さねぇ」
やっぱりからかってやがる。
含み笑いでそう言う元親に腹が立ったが、
殴ったり斬りつける気力があまり残っていなかったので、
大人しく元親に背を向けて座った。
「早く着けろ」
「ほらよ」
意地悪い声音を再び優しくして、元親は政宗に眼帯を着けてやった。
いつもの固い感触が戻ってきて、無意識に政宗は安堵の息を吐いた。
「……なぁ、政宗」
再び外を眺めながら、背後の政宗を呼んだ。
「何だ?」
「…何で、俺に抱かれるんだ?」
「はぁ?」
いきなりの問いに、少々面食らい、政宗は元親の方に身体を向ける。
「好きこのんで男に抱かれるような奴じゃないだろ、お前は」
「……」
「なぁ、何でだ?」
「……」
そう尋ねられ、政宗は正直困った。
そんなこと考えたこともなかった。
再び元親に背を向け、しばし考え込む。
 四国の鬼は敵だ。
それ以上でも以下でもない。
明日、戦になってもおかしくはない相手だ。
もしそうなったとしても、きっと自分は全力で相手と殺し合いをするだろう。
身体を重ねるような関係でも、その辺りのけじめはついている。
所詮は僅かな時間の逢瀬に過ぎない。
ならば、どうしてこの逢瀬を続けているのか。
「……」
面倒だ。
考えるのなんざ、めんどくせぇ。
政宗は自分の背中を元親の背中に預けた。
「……楽なんだよ」
「楽?」
聞き返す元親に、政宗は頷いた。
「アンタといるとな、めんどくせぇこと色々と考えなくてすむ。
だから気が楽っつってんだよ」
「へぇ、そりゃまた何でだ?」
興味深そうに、更に尋ねてくる元親に、政宗はまた眉を寄せた。
「だから、そんなめんどくせぇこと考えずにすむから、って言ってんだろうが」
「めんどくせぇ、ねぇ」
感心したような、不服そうな、元親は半ばの嘆息を零した。
「…アンタもそうなんだろう?」
背中の政宗がそう言ってきた。
「……」
元親はしばし沈黙し、月を見上げた。
柔らかいが、冷たい光を投げかけ、夜の冷気も身体を冷やしていく。
ただ、背中だけは温かかった。
「……そうかもなぁ」
吐息と共にそう答え、目を閉じた。
冷気と背中の温もりを感じ、自然と口元が綻んだ。
背中合わせなので、元親には見ることができなかったが、
政宗も同じく微笑していた。

























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チカダテはこんな感じで。
応竜とか刹那にとかとは別シチュですよ。
あれはある意味カオスの領域だから;