政宗は人前では決して横にならない。
それは彼が元服した際に自身で決めたことだ。
彼はそれを今も忠実に守り続けているし、死ぬまでそうしていくのだろう。
いや、その命が消える時すら横にならずに死ぬのかもしれない。
だが今、その政宗が小次郎の目の前で横になり、眠っていた。
「…兄上、申し訳ございませぬ」
何度目かの謝罪を口にし、小次郎は初めて政宗に触れる。
香道も嗜むという彼の着物からは仄かに香りがする。
しかし本人は、酒で効果が増したのか、ピクリとも動かなかった。
 彼が月に目を向けたその一瞬、薬を徳利に混ぜた、それだけだ。
それだけで、竜は牙も爪も収めてしまう。
だからもう傷つかない。
 眠る竜を仰向けて、小次郎はその上に覆い被さる。
「兄上、私は…きっと、貴方を恨んでいる」
顔にかかる髪を払い、その手が頬を撫で、酒で濡れた唇をなぞった。
小次郎は薄く笑みを作り囁く。
「…兄上、母上はいつも貴方のことばかり言っておられましたよ…」
胸元から手を差し入れ衿を開けば、薄い寝巻からはすぐに素肌が覗く。
「アレは鬼子だと。家に災いをもたらす、と」
外気に晒され身体が冷えたのか、政宗が微かに動いたが、その瞳が開かれることはなかった。
「兄上が何かなされる度、母上は貴方のことを口に出されます」
帯に手を掛け、それも解く。
「そして私が何かする度、やはり兄よりも秀でていると、
だからもっと兄上よりも優れるように、と仰って下さいます」
解いた帯を取り払い着物を左右に開くと、寒さから再び政宗が身動いだ。
一瞬躊躇いを見せるがすぐに、その手は下帯に伸びゆっくりと解いていく。
 手足の先に衣の絡まるのみとなった政宗を見下ろし、小次郎は唇だけで笑みを作る。
「……だから兄上、本当は、母上が小次郎を見て下さることなど無いのですよ」
母の口が紡ぐ称賛の言葉は、今はただ虚しいだけだ。
兄と比べ己を誉めながら、故に母は兄しか見ていない。
嘆き、憎みながらも、その激しい心は常に兄に向けられ、兄で満たされ、
だからこそ、己があの母の心を満たすことなど出来はしない。
この兄が、生きている限りは。
 下まで全て脱がせた後、小次郎はまた政宗の顔に目を遣り、その髪を横に分け耳に掛けた。
長めの前髪に隠されていた政宗の眼帯が露わになる。
その眼帯にそっと触れると、微かに眉が顰められた。
幼き日のことを思い出し、小次郎は微笑した。
まだ兄が米沢城で暮らしていた頃、病で失った眼と他人を厭い、人前に出なかったことぐらいが兄に関する記憶だ。
それからは母や人づてに聞くことしかなかったが、未だ右目は政宗の心にかかるらしい。
大きく変わった兄の変わらない部分を見つけた気がして、小次郎は嬉しくなった。
「…兄上も、苦しんでおられるのですね」
哀れみを込め、そう囁いた。
「……ならば今宵、暫しの間なれど小次郎が忘れさせてみせましょう」
顔を近付け、寝息と酒の臭気が漏れるその唇に己のそれを重ねた。
深くは口付けずに唇を舐めただけですぐに離し、小次郎は微笑んだ。
「最期の刻、どうぞお愉しみ下されますよう」








 身動ぎして熱の籠もった吐息と共に包み込んでいた手に白濁が放たれた。
舌で転がされていた胸の飾りは今や小さく尖り、
彼の顔を見上げてみれば頬に決して酔いだけではない朱が走っている。
荒めの呼吸は堪えきれずに時折音も漏らし始めた。
己の動き一つ一つがこの兄を乱していく。
遠い存在である兄を近くに感じられる気がして、それが小次郎には嬉しくて堪らなかった。
 開かせた足の間に再び手を伸ばし、先程吐き出したばかりのそこを掠めた後、
その手は今度は後ろの方まで伸ばされ、辿り着いた菊座の周りを撫でた。
反射的に引かれかけた腰を掴み、先程の白濁の滑りを頼りにゆっくりと指を一本中に挿れていく。
「ん…っ」
漏らされた声に、小次郎は政宗の顔に目を遣って、
指は抜かぬまま代わりにもう一方の手で労るように彼の頬を撫でた。
髪や首筋もくすぐるように撫でながら、菊に挿れた指も締め付けを弛めようとゆるゆると動かしてやる。
「っは…」
眉を寄せ身を捩る政宗を押さえ、先程精を吐き出し萎えかけたそこに手を添え撫でてやると、
それに反応し指の締め付けが緩まった。
その隙に深く挿れ、指の数も増やしていく。
「…っ…」
増えても指の動きは緩やかで、焦れったい程ゆっくりと政宗を溺れさせていく。
意識や理性が無い分余計にその反応は素直で、
色を孕んだ喘ぎ声が先程よりも大きくなってきた。
 奥に挿れていた指がある一点に触れた時、政宗が大きく身動いだ。
中で指をきゅうと締め付け、敷布を握り締める手にも力が込められる。
背けた顔の眉は顰められていたが、思わず漏れた声は高いものだった。
「ああ、兄上……ここがいいのですね…」
指を曲げもう一度そこをなぞれば、また身体が跳ねた。
締め付けていた内壁が弛み、奥へと誘おうとする。
しかし奥へは進まずにそこを何度も掠め続けると、その度に嬌声が濡れた唇から零れ落ちていく。
気付けば欲に溺れた身体が更なるものを望み、腰が揺らめいていた。
「兄上…」
指を抜こうとすると、名残惜しげにまた締め付けてくる。
指の刺激に再び勃ち上がった熱に触れ、優しく窘める。
弛んだ隙に指を引き抜き、小次郎は己の衣と下帯を解いた。
抑えていた布が外され、政宗の乱れ姿に煽られ勃ち上がった自身を菊座に宛がった。
「っあ!」
指以上の異物感に政宗の腰が引きかけるが、それを止めてしまえば彼の内壁の方は奥へ誘い込もうと蠢いた。
その動きに合わせながら、ゆっくりと中へと自身を沈めていく。
大きく仰け反り、月明かりに晒され青白く浮かんだ政宗の喉が覗いた。
誘われるようにその喉に唇を這わせると、脈打つのが感じられる。
 奥まで挿れてしまうと、今度はまたそれを入り口近くまで引き抜き、再び穿つ。
少し捻って前立腺を掠めてやれば、彼は喉を震わせて声を上げた。
「あ…っ、あぁっ」
律動に溺れ、乱され、気付けば政宗は小次郎の背に手を回し縋っていた。
無意識の行為ではあっても、絡みつく腕が小次郎を熱くする。
「兄上…っ」
この兄は、この兄だけが、父に愛され、母に想いを向けられる。
だから兄が生きている限り、己には永劫、光は当たらぬ。
「お恨み致します…っ」
そして眩しい光を浴びながら、兄は笑うのだ。
「憎ませていて下されば、良かったのに…!」
その笑みを、己にも向けてくれるのだ。




俺の夢はな、小次郎…

皆が笑って暮らせる世を作ることだ。
お前や小十郎たち、それに母上、いや、奥州だけじゃねぇ、この日の本全ての民だ。

それに、そうすりゃ俺だって嬉しいんだ、一石二鳥だろ?




夢を語る兄は、やはり眩しくて、それだけ心は翳った。
少し強引に突き入れるが、中は容易く小次郎を受け入れた。
「兄上…」
受け入れてくれるのだ。
この浅ましい心ごと。己の全てを。
だから恨むと同時にどうしようもなく眩しく、
どうしようもなく惹かれたのだ。
「…お慕い、申し上げます…」
荒い呼吸で言葉を紡ぎ、政宗の頬を両手で挟んだ。
唇の端から零れる唾液を舐め取り、そのまま乱れた息づかいの政宗の唇を己のそれと重ねる。
その間際、政宗がうっすらと目を開き、焦点の合わぬ瞳を小次郎に向けた。
重ねた唇から小次郎が舌を入れ込ませると、
やはり無意識に、絡められるその舌に応えた。








全て受け入れて下さるならば、兄上、
小次郎の紡ぐ運命さえも受け入れて下さるのでしょうか?

























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本編(?)に戻ります。
次でお終い。