真田と虎騒動

夜の部





 他愛もない試みを思いつき、政宗は灯りの火を消した。
朔を過ぎたばかりの月影は闇夜を照らすには心許なく、
まして竜の呼び名あろうとも人の目には下ろされた帳は重く深い。
その静寂に融け込むように、獣の目は、闇夜に浮かび上がる。
「……すげぇな、光ってやがる……」
感嘆混じりで、政宗は幸村の瞳を覗き込む。
紅く光るその目を素直に綺麗だと思ったが、
人には出来ぬその様と、先程から一つも言の葉を発せぬことも手伝ってか、
何やら薄ら寒い心地もする。
 夜闇に慣れてきたらしく、ぼんやりとだが幸村の形を判別し得始めた頃、
不意に政宗は獣の低い唸り声を耳にした。
そして紅く光るその目が己を捉えたと同時、黒い影が音もなく動いた。
己の身体に衝撃を感じた時には、黒い影が己の上にのしかかっていることに気付く。
「ゆ――」
名を呼ぶ音は、衣が引き裂かれる音に掻き消された。
拍子に懐の短刀が部屋のどこかに弾け飛ぶ。
次いで晒された肌をざらりと舌が這った時に、漸く政宗は我に返った。
「このっ!」
怒りと屈辱が沸き上がり、政宗はまだ自由が利く右腕を、
勢いそのまま、己の上にいる幸村にぶつけた。
が、効いた様子も無く、幸村は不満そうに低く唸ると、
その顔を政宗に近づけ、彼の耳をべろりと舐める。
「てめぇっ、いい加減にしろっ!!」
本能的な恐怖ごと振り払うように、政宗は膝を幸村の腹に入れる。
今度は効いたのか、不意にのしかかっていた重みが消えた。
すぐさま半身を起こし、夜闇に目を凝らして虎の姿を探すが、
当然その姿は闇に融け込んでしまい見当たらない。
闇に紛れた獣を見つけるなど、およそ人では不可能だ。
弾け飛んだ唯一の刃の在処すら分からぬのだから。
 背後の気配に寒気が走る。
振り返る間もなく、虎は再び政宗を畳に押し倒し、辛うじて纏われていた衣をおざなりに剥ぎ取った。
畳とはいえ、叩き付けられた衝撃に政宗は微かに顔を歪めたが、
獣がそれを気にするはずもなく、勃ち上がった己の雄を政宗の後孔に一気に突き入れた。
 先程叩き付けられた時とは比べようもない衝撃が、まず政宗の全身を駆け巡る。
次に一瞬遅れてやってきた痛みに、声はおろか身動ぎさえできない。
慣らさずに挿れたせいで半ばで止まった雄を、
獣の本能か、虎は全て中に埋めようと政宗の背中を押さえ、
己の腰を動かして雄を中に捻り込んでくる。
呼吸すら覚束ぬ中、漸く絶え絶えに悲鳴めいた音を漏らすものの、虎が構うはずもない。
腿を伝っていくものは、おそらく先走りでも精でもないだろう。
 政宗の抵抗が無くなったせいかこのまま奥まで貫くのは無理だと気付いたのか、
虎は貫いていた雄を無造作に引き抜いた。
ひとまずは圧迫から解放され、政宗も安堵の息を吐いたが、
次にやってきた別の感触にまた身体が強張る。
腿を伝っていた血をなぞるように舌が這い、そうして辿り着いた菊座の中を侵し始めたのだ。
 それは、ゆっくりと中を広げるように、執拗に念入りでぬるりと滑らかに、
先程とは打って変わった緩慢な動きで政宗を追い詰めてくる。
堪えかね時折短く零された声は、次第に色と艶を帯び始め、
抵抗の名残で立てていた膝も今にも崩れ落ちてしまいそうに震えている。
気付けば政宗の雄も芯を持ち始めていたが、
中を解すのに夢中になっている虎がそちらに触れてくれるはずもなかろうし、
請うたとしても言葉が通じるかすら分からぬ。
いや、そもそも獣にそれを望むが滑稽というものか。
畳に顔を擦り付け尻を突き上げ、虎にされるがままの無様は、成程確かに道化らしい。
 飽いたか十分だと判じたか、唾液で濡らし侵した後孔に張り詰めた雄を宛てがい、
虎は再び政宗の身を穿つ。此度は奥まで届き、色めいた声が上がった。
獣は満足げに唸ると、抜いては突くを繰り返す。
中が擦られ、その刺激に身体中が悦び震え、中を突く雄に押し出される形で、
政宗の雄も触れられずしてその先端から液を垂らす。
しかし吐精するまでには及ばない。
ここにも触れて欲しいと、そうねだろうと政宗は身を捩ったが、
それが及ぼす内壁の動きに押される形で、
短く低い虎の呻きの後、身の内に精が吐き出され熱が中を満たした。
 埋めていた雄を引き抜くと、残滓が垂れて、政宗の腿を伝い落ちていくのが見えた。
それを虎が舐め上げると、短い喘ぎの音が上がり、軽く歯を立てても啼き声を上げる。
いちいち反応するのが楽しいのか、虎は何度もそれを繰り返し、時折中にも舌を伸ばしてくる。
相変わらず自身のもの以外に興味は無いらしく、腿と尻を弄るばかりで、
前は触れようとする気配すら無い。
それに焦れて、政宗は畳に爪を立てるだけだった手の片方を、意識せず下肢へと伸ばした。
勃ち上がったそれに手が当たり、その感触と走った刺激に思わず声を漏らし、我に返って手を離した。
だが、このままでは吐き出せない。
そうさせる気が無いならば、己自身で慰めるより他はない。
暫し葛藤し、躊躇いもしたが、欲には勝てない。
途中で弄るのを止め、その葛藤の様を眺めていた虎の様子にも気付かず、政宗は再度その手を伸ばした。
だが、伸ばした右手が触れる直前、虎は政宗を仰向けに引っ繰り返した。
「Wha……!?」
思わず間抜けた声を上げるが、何事かと肘を立てて半身を起こし、恐る恐る獣を窺い見る。
政宗と彼の性器とを交互に眺める紅い目からは、何も知ることはできなかったが、
ただの獣のその目は政宗をただの獲物か玩具としか見ていない。
だが、どういう心境の変化か、それともただの遊びの延長か、
虎は両手で政宗の脚を開かせた状態で押さえ付け、彼の雄に顔を寄せ、そのまま銜え込んだ。
「あ、な、何…っ」
口淫と呼ぶには拙く、ただそれを口に含んでいるだけのようなものだと言うのに、
漸くに直に触れられる舌の感触に、全身へと痺れが広がっていく心地がした。
虎にしても戯れ程度にしか思っていないようだったが、
今まで間接的な刺激のみでずっと焦れされていた上に、未だ一度も達していなかったのだ。
性器への直接の刺激は余りにも快楽が強すぎた。
政宗が達するのにそれ程の時間はかからず、
口中に吐き出された精液に、始め虎は目を丸くしたが、すぐにさも当然のように飲み込んだ。
 脱力し、政宗は肘を立て起こしていた身体を再び畳に投げ出したが、
呼吸を整える間も与えず、虎は再び固くなった己の雄を政宗の中に挿れ始める。
吐精直後で力が入らない上に、敏感にもなった今の身にこれは堪らない。
せめて待ってくれと、思わずして伸ばした手も、脚を押さえ付ける手に辛うじて触れる程度だ。
こちらに気付き、首を傾げてその顔を近づけてはきたものの、
身が繋がったままでは、その繋がりを深くするだけで、
結果政宗の喘ぎを激しくするだけだった。
 顔を近づけ、獣は政宗に頬をすり寄せる。
喉が鳴っているので、機嫌は良いらしい。
気ままな虎なれば、その機嫌も当てにはならぬが、
少なくともすぐさま嬲り殺されぬだけまだマシだろうか。




 それから何度身を繋げたかは分からないが、変わらず虎は政宗にのしかかり、じゃれついてくる。
いや、政宗で遊んでいるだけかもしれぬが、もうどちらでもいい。
疲労と繰り返しの吐精で身体は畳に投げ出されたまま、まともに動かない。
思考も投げやりになり、意識も切れかかっている。
それでも、虎では無い幸村とのこの行為に慣れているせいで、
律儀に身体は反応し、意識が引き戻されるのだから手に負えない。
幸村の方も、ところどころで虎では無い時と同じことをするものだから、ますます質が悪い。
 虎がまた噛み付いてくる。昼は気付かなかったものの、その牙も人より幾らか鋭くなっているようで、
痛みを伴ってくる。そしてそれは、いずれこの牙の鋭さに食い千切られるという恐怖を呼び起こし、
それに身体が本能的に強張り、その間に、逃さぬように虎に中を貫かれ、己の身と繋がれてしまう。
そうして、奥を突かれ中を擦られる感触に、あられもなく乱れる政宗の様に当てられ、
興奮した虎がまた噛み付いてしまうという繰り返しだ。
 虎の雄が脈打ち、中で精を吐き出し、その熱は政宗の身体をも昂ぶらせる。
それが心地良いのか悪いのかを思い巡らす間もなく政宗自身もまた達するが、
繋がったまま幸村に腰を揺さぶられ、その律動に合わせて嬌声が零れていく。
「……ゆ、き……」
とうに掠れた声で、政宗は意識せずして彼の名を呼ぶが、答えを期待しているわけでもない。
いや、期待しているのだろうか。
普段の逢瀬では、その名を呼べばアレは何であれ応えを返すから。
「……ゆきむら……」
ならば本当は、こうして虎に犯されながらも、
己は幸村が応えてくれるのをずっと待っていたかもしれない。
虎の餌食となる前に、政宗はもう一度だけ彼の名を呼び、腕を伸ばして幸村の首にそれを回した。
頭とそこから生えた耳を愛おしむように撫でる。
人でも獣でも構わぬ。
どちらにしても幸村であることに変わりはない。
 それに応えたのは獣の方か。
幸村が動きを止め、政宗にその顔を向けた後、
政宗の腹から胸、胸から首とその肉の味を見るように舌を這わせていく。
首まで辿り着き、そこから感じる脈に目を細めた。
 そうして、柔らかな喉元に虎の牙が立てられる。


ああ、喰われる……


最後にそう思い、微かな痛みと虎の牙そのものを感じた後、
政宗は意識を失った。








 幸村ははっと目を開いた。
何度か瞬きをして、伸びをしながら半身を起こす。
今日の目覚めは不思議と実にすっきり爽やかで、頭がいつもより冴えている。
そのせいか、昨日、突如己の身に降りかかった災難をすぐに思い出し、
幸村は慌てて己の頭に手をやった。
だが、触れるのは己の髪ばかりだ。生えていた虎の耳が無くなっている!
腰の方にも手を伸ばしてみる。尻尾も無い!
「助かった!」
随分と虎の耳や尻尾を気に入り触り倒していた政宗には申し訳ないと思いながらも、
幸村は安堵の息を吐いて、災難が過ぎ去ったことを単純に喜んだ。
 そして幸村は、己の夜着が何やら乱れており、更には布団すら掛けていなかったことに漸く気付く。
何やら奇妙だと首を傾げ、拍子に人らしき姿が己の視界に入ったのに驚いて、
幸村はそちらに目を遣って更に仰天した。
「ま、政宗殿っ!?」
文字通り、政宗が幸村の傍らで俯せた状態で倒れていた。
袖の一部を残し、着物が引き裂かれているという、
ほぼ丸裸の状態に赤面しつつも、幸村は政宗を抱え起こした。
上向いて晒されたその顔に血の気は無かったが、微かに身動いだので、死んではいないようだ。
それにひとまず安堵するが、目に入ってきた政宗の身体の様子に幸村の思考が止まる。
口吸いや噛み付かれた痕が身体中の至る所に点々とあり、
そして乾いてしまった白濁が飛び散っており、
乾ききっていないものが赤い色を幾分混じえながら、
政宗の秘所から腿を伝って零れ落ちている。
これは、どう見ても、その、あれだ。あれの後の状態だ。
 冷や汗がどっと噴き出してきたのを感じながら、幸村は考える。
考えるまでもないのだが、落ち着かねばならぬ。
落ち着くはずもないのだが、とにかく状況を理解しようと努める。
幸村には眠りのせいではない着衣の乱れがある。
政宗も着物を破かれ情事の痕を色濃くその身体に残してこうして気を失っている。
故に、結局は、状況を理解するまでもなく、
一体誰がこんなことを、などと考える余地も無い。
今幸村が見ているこの光景が、全てを物語っている。
 生唾を飲み込み、幸村は恐る恐る己の身体に目を向けた。
乱れた夜着から覗く腹に、政宗と同様に、
吐き出されたどちらのものとも知れぬ精液がこびりついているのを確かに見た。
「……」
抱えていた政宗を、幸村はそっと畳の上に寝かせ直した。
そうして、自由になった手で今度は己の頭を抱える。
「……お、おおおぉぉ……」
気を失った政宗ばりにその顔を蒼白にして、幸村は項垂れた。

























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昼に散々真田をおちょくった政宗様は、その夜しっかりと仕返しされるのでした。
この後真田がどうなるかは目覚めた時の伊達の気分次第です。

朝昼の部と同じく、虎と伊達ってのに盛り上がって、
サイズ的な勘違いから真田を野生化させることで折り合いつけて、
ノリと勢いそのままに書き上げた産物です。
会話しないし、習作気味に嬌声的なものを省いたので、結構読みにくいと思います。スイマセン。