真田と虎騒動
小ネタ
小休止と、政宗は片膝を立てた状態で、煙管を吹かせながら縁で庭を眺めていた。
すると、のしのしと歩いてきた子虎が、さも当然と言った様子で政宗の腕の下にある空間にずぼりと顔を突っ込んだ。
「……」
何事かと子虎に目を遣ると、子虎はそのままそこをくぐり抜け、政宗の腿の上に寝そべってしまう。
更に、それを見つけたもう一匹までもが駆け寄り、もう片方の腕にまとわりついてきたので、
危うく煙管を取り落としそうになった。
「どうした?」
目を細めて政宗は二匹の子虎に優しく声を掛けた。
子虎は甘えた声で鳴きながら、仰向けになったり、前足で政宗や兄弟にちょっかいを出したりと忙しなく動いている。
その仕草が余りにも可愛らしく微笑ましいので、政宗は盆に煙管を置き、
子虎のおもちゃ代わりに自身の腕を提供してやった。
確か乳離れはしたと聞いていたが、まだ母親が恋しいのか子虎は時折指を甘噛みしたりしゃぶり付いたりしてくる。
それを好きにさせながら、政宗は甘えてくる子虎を撫でてやり、子虎の無邪気な様子にまた微笑んだ。
「な、何とぉっ!!」
突如聞こえた耳障りな騒音に政宗は顔を上げ、そして呆れ果てた。
「……おい、何でアンタがここにいるんだ?」
庭に何故か現れた真田幸村の姿に、先程の微笑ましい気分もすっかり冷め、政宗は眉を顰めた。
そう言いつつ空を見上げ、大烏の姿を認めたので、あのクソ忍がと吐き捨てた。
「政宗殿、お逢いしとうござった!ところで、その虎は……?」
対する幸村は、政宗の言葉など全く耳に入っていないようで、二匹の子虎に訝しげな目を向ける。
その視線か、はたまた政宗の機嫌の変化に気付いたのか、子虎たちは少し脅えた声で鳴き始める。
それに気付き、政宗は慌てて幸村から子虎へと視線を移した。
「Oh、sorry……大丈夫だ」
眉尻を下げ、宥めるように子虎を撫でてやると、子虎はぐるぐると喉を鳴らす。
どうやら落ち着いたようなので、政宗はほっと息をつく。
「宇都宮んとこにいただろう?手が回らねぇっつーから、暫く預かってやってんだよ」
それから再び顔を上げ、そろそろと近付いてくる幸村に説明してやった。
「左様にござったか」
政宗の言葉に安堵するものの、幸村はぽつりと呟いた。
「しかし、某と言う者がありながら、他の虎に斯様に御心を砕かれるとは、
この幸村、些か複雑な心持ちにござる……」
「……」
これはツッコんだ方が良いのだろうか。
暫し考えあぐねるが、子虎の一匹が政宗の身体をよじ登り始めたので、そちらに意識を取られた。
「おいおい、ムチャすんなよ……」
それでも満更では無い様子で、政宗は子虎が登りやすいよう身体を若干傾けてやった。
そして、見事政宗の肩まで辿り着いた子虎を抱え上げながら、漸く幸村に応えてやる。
「可愛いのも今の内だけだからな。大きくなっちまったら、また襲われるかもしれねぇし」
「……」
束の間首を傾げた後、言わんとすることを察し、幸村の頬に朱が走った。
「そ、それについては……申し訳もございませぬ……」
「そりゃあそうだろうよ」
下手に言い訳じみたことを言えば問答無用で斬り捨てているところだ。
勿論、件の騒動の後に十分に仕置き済みではあったのだが。
「……って、おい、こら、お前もかよ」
今度はもう一匹が登り始める。
一匹を抱え上げ両手が塞がっていたのもあり、子供とは言え上半身に集中した虎二匹の重みに堪えかねて、
政宗はそのまま仰向けに寝そべってしまう。
彼の信条に反するので、急いで起き上がろうとするが、
子虎は政宗に乗っかったまま、各々が動き回るのでなかなか捕まえられない。
しかも獣の毛が政宗をくすぐってくるので、なかなか力も入らない。
くすぐったいと笑う政宗の様子と子虎への羨望で、幸村は次第にやきもきし始めた。
「ううぅ、い、いやしかし……」
前回ひどい粗相をしたばかりの幸村だ。
この上更に何かやらかせば、恐らく奥州への出入禁止をくらってしまう。
その前科もしっかりある幸村としては、ここは堪えねばならない。
しかし幸村の葛藤を知ってか知らずか、政宗は子虎と楽しそうに戯れ合っている。
それも、自国の民に向けるものとはまた違う、
愛しさと慈しみに溢れた眼差しを子虎たちに注いでいるのだ。
正直、幸村は閨ですらこのような眼差しを向けられたことは無い。
「いやっ!だがしかし…っ!」
幸村は葛藤し悩む。
だが、逆接に逆接を重ねた先は、結局のところ順接だ。
「ま、政宗殿おぉぉっ!」
何とか子虎二匹を捕まえ、半身を起こした政宗は幸村の叫び声に、そちらへと目を遣った。
その瞬間、幸村の頭から件の虎耳がぽんという少し間抜けな音と共に飛び出してきた。
状況を理解出来ずに唖然とする政宗に、勢い収まらぬ幸村が襲いかかる。
「某もおぉぉっっ!!」
諸手を広げ、幸村もとい若虎は、政宗に飛び付いて、
先程の子虎と同じく彼を押し倒すのだった。
勿論、後で折檻とモフモフされました。