臥待月





 政宗の上に覆い被さり、元親は彼の首筋に唇を落とした。
舌でなぞり、鎖骨に吸い付いた。
息を漏らし、政宗は元親の背中に腕を回す。
「……」
元親、と呟きかけるが、視界に入った月に言葉が止まる。
望月も過ぎた今、丸みは残るがだいぶ欠けてきていた。
日々その姿形を変えながら、しかし変わらず地を淡い光で照らし続け、
月は何を思うのか。
何を問いかけるのか。
「……政宗?」
元親の声に、政宗は我に返る。
再び月から元親に目を向け、何でもないと空嘯いて、誤魔化すように続きを促した。
目を閉じるが、月は脳裏から消えなかった。




月が光を投げかけている。








 今のこの時は一瞬のことで、きっとすぐに次の時はやってくる。
その時はもはや身体を重ねる時間ではなく、
国を賭け、人を賭け、互いに肉を抉り合うような戦の時間だ。
後悔などない。
お互いにそれは理解っている。
ならばこの時に何の意味が?
抱かれる意味と抱く意味は?


元親。
政宗。
名を紡ぎ、互いに縋り溺れるだけの時に、
先などあるものか。
だからこれは、過去からも未来からも隔絶された、切り離されただけの時間だ。
微睡みのような快楽と、虚しさだけの、それこそ夢幻の刻だ。
「…政宗っ」
「元、親…っ」
縋る、ただ縋る。
溺れる、ひたすらに溺れる。
痛みと哀しみと快楽と切なさと。
それ以外に何もいらない。




そう思っていたい。








 束の間途切れていた政宗の意識が戻ると、元親が指で政宗の髪を梳いていた。
目覚めた政宗に気付き、彼の唇に触れるだけの口付けを落とす。
 髪を撫でていた手が耳に触れ、首を通って肩まできた。
「白いな、お前」
肌をそっと労るように撫でてから、元親は政宗の胸に口付けた。
「…肌、柔らけえな」
そう呟いて、胸に頬をすり寄せた。
むず痒いような気恥ずかしいような。
そう思ったが、それよりも甘えるような仕草に、政宗は苦笑した。
「男に言うような台詞じゃねぇぜ、それは」
首に腕を回し、元親の頭をくしゃくしゃと撫でる。
政宗の頬を撫でた後、元親は真面目に言い返した。
「いや、せっかくの肌だ、大事にしろよ」
「……」
何でこんなに真剣なんだ、と一瞬呆れたが、
ふと元親がまだ幼い時分の話を思い出した。
合点がいき、ますます呆れて可笑しくなり、笑い出した。
「何笑ってんだ?」
「やっぱり、肌とか気にするのか、姫若子?」
笑いながらそう尋ねると、元親が渋面になった。
「…誰に聞いた?」
「アンタの自慢の息子に」
笑いを堪えながら答えるが、元親の舌打ちに堪えきれずにまた笑い出した。
「笑うな、昔の話だ」
やや不機嫌そうに元親がそう言うが、政宗の笑いは止まらない。
「引きずってんじゃねぇか」
政宗が言い返すと、元親はもう一度舌打ちして、バツが悪そうに顔をそらした。
「それに、そんなに昔でもないんだろ?」
「うるせえ」
尚もからかってくる政宗に業を煮やし、元親は乱暴に政宗に口付けた。
 熱い舌が口をこじ開け、中に入り込んできた。
「んっ」
政宗がやや苦しげな声を漏らすが、元親の唇は離れない。
口中を侵す舌は歯列をなぞり、更に深く口付けてきた。
息も出来ない程に貪られ、空気を求めて身動ぎすると、漸く元親は唇を離した。
「お前っ、殺す、気かっ」
息を絶え絶えにして文句を言うと、元親は笑みを浮かべ、首元に軽く噛み付いた。
「…っ」
痕を残し、次はと胸の突起に吸い付く。
「っん…」
先の行為が終わってから、まだ時間はそれ程経っていない。
身体の余韻が元親の舌の動きに応え、痺れるような感覚が走った。
 元親の手が下に伸びる。再びそこを握られ、思わず政宗は元親にしがみついた。
一度手を離し、元親は今度はゆっくりと撫でた。
「っあ、んっ」
喘いだ声を漏らし、政宗はますます元親に縋り付く。
撫でられる度に身体が熱くなり、声が大きくなっていく。
 不意に夜風に吹かれ、注意をそらされた。
再び視界に月が移る。
「…元親」
無意識に呟き、その声に我に返る。
呼ばれた元親は怪訝そうに、政宗を見つめている。
「どうした?」
「……」
違う。
知っているのは、欲しいのは、そんなものではないのだ。
入り込む隙間など与えてたまるか。
「……もしも、」
だから言うまい。
いや、真の言葉として告げまい。
「何だ?」
行為ではなく、別のことに囚われている政宗に、元親は続きを促す。
「……」
だからこれは戯言にしておこう。
意地悪く言って、
悟られぬように。
気付かぬように。
ただの弱さに過ぎないから。
「…アンタと、ずっと、こうしていられたら……」
快楽と虚しさと。
それだけのはずなのに、それ故に幸せなのか。
自嘲めいた笑みを浮かべ、政宗は呟いた。
元親は眉を顰めた。
「……馬鹿野郎……」
元親の顔が歪み、代わりに政宗は笑みを浮かべた。
その瞳に哀しみの光が見えたことには、政宗自身は気付かなかった。
戯言か、願いか。
戯言が願いか。
或いは願いが戯言か。
答えを見つけようと、しかし振り払おうと、
元親は政宗を強く抱きしめた。
口付けた。




 足を開かせ、元親はその足を肩に担ぎ上げた。
「挿れるぞ」
一言呟き、元親が腰を進め始める。
圧迫感に政宗は息を詰まらせる。
それでも、伴う刺激とそれが与える快楽に、声を漏らした。
「あっ、んんっ、も、とちか…っ」
「政宗っ、まさむねっ」
乱れた息と声が、互いに互いを昂ぶらせる。
穿つ度に、突き刺される度に、理性が剥がれていく。衝動が現れてくる。
それだけで貪り合った。
 目を開き、再び月を見た。
呼び覚ますくせに、無慈悲に光で刺してきた。
「…つき、が……」
それを背にする元親に教えてやる。
背後にその光を感じるが、元親は僅かに嫌な顔をしただけだった。
「関係ねぇよ」
切り捨てるが、気付いてしまった今、最早不可能だ。
だから縋り溺れるしかない。




月が光を投げかける。


冷たい。

























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雰囲気エロティシズムと
よく分からないほんのりシリアスに挑戦。
雰囲気がエロかったらそれでいい(笑)

姫若子の部分はもうちっと考えても良かったかも…