指を引き抜くと、名残惜しげにそこがひくついている。
しっかりと濡らしているし、だいぶ解れてもいるが、まだ少し心許ない気もする。
貝の器に入れられた秘薬を指で掬い取り、官兵衛は再度指を入れ、中へと塗り込んでいく。
「ひ、っ」
熱を持った中に比べれば、外気に晒されている秘薬はずっと冷たい。
政宗は喉を引き攣らせ、短い悲鳴を上げたが、
滑った音を立てながら掻き回され始め、その悲鳴もすぐに嬌声へと戻っていった。
「ん、っう、く、ぅ、ぁあっ」
敷布に顔を押し付け、声を抑えようとするのも何度目だろう。
官兵衛の責め方は、慎重かつ緩やかで、ゆえにとても焦れったい。
もっと性急であったならば、情欲に溺れきることも出来ように、
こう緩慢に追い詰められると、僅かな理性が時折顔を出し、羞恥を呼び起こす。
それで少しでも声を抑えられないかと試みては、やはり無駄だったと思い知らされる。
先程からその繰り返しだ。
中はもう十分に慣らされているはずなのに、官兵衛が入れてくるのは指ばかりで、
指の数が増えはしても、それ以上のものはない。
四つ這いにされている政宗には、官兵衛の様子を窺い知ることはできない。
同時に、官兵衛からも政宗の表情は見えない。
自分のよがっている顔など見られたいはずもないので、この点だけは助かっているが、
政宗自身はこの体勢があまり好きではない。
相手の様子が分からないし、背中を晒すことにもなる。
そして何より、嫌なことばかり思い出す。
「っあ…!」
不意に中を探っていた官兵衛の指が曲げられ、走った鋭い刺激に政宗は声を上げた。
政宗が感じるところなど、これまでの情事で官兵衛も十分承知している。
「余所事を考えられるとは、随分と余裕だな」
そう揶揄しながら、官兵衛は指で中を掻き回す。
その濡れた音と政宗の喘ぎと嬌声が重なって、実に淫猥だ。
やや使いすぎた感もある潤滑の薬や、先程放った白濁、そして唾液も使って、
入念に慣らし、解したおかげで、そこはすっかり濡れそぼっている。
「は、っ…てめ、えが、ちんたら、してる、から、だろ……」
染みついた性分なのか、息も絶え絶えだというのに、政宗は悪態をついてくる。
この状況でよくも言えたものだと、官兵衛はいっそ感心する。
しかし、指を引き抜いた際に、身を捩り官兵衛を見上げてくる政宗の瞳に、
彼が求めていることを察し、官兵衛は眉尻を下げた。
分かっている。こちらとて、政宗の乱れに乱れる様を見せられ続け、
十分に張り詰めているのだ。限界だって遠くはない。
「すまんすまん、悪かった」
おざなりに謝って政宗を宥めながら、官兵衛は政宗に覆い被さり、彼を敷布に押し倒した。
尻に当たる熱く固いものの感触に、政宗は思わず息を呑む。
腰を引きかける政宗にそれをさせじと、官兵衛は政宗に枷と腕との輪をくぐらせて、政宗の両腰を挟み込んだ。
官兵衛に請われ、政宗は後ろ手に片腕を伸ばし、宛がわれたそれに手を添えた。
先端がゆっくりと中へと入ってくる。
政宗が焦れる程度に時間を掛けたので、その動きが止まるようなことはない。
それでも、内壁を押し広げながら中を侵してくる感触とその熱に、
政宗は息を詰まらせ、声にならぬ悲鳴を上げた。
「ぅ、んっ…ぐ…っ」
先端が入り切ってしまえば後は幾らか楽になるのだが、
込み上げる異物感と圧迫感で身体が強張り、
無意識に中を締め付けてこれ以上の侵入を拒もうとする。
「く…っ、もう少し、力を抜いて、くれんか……」
だから、挿れられる方は勿論だが、挿れる方もなかなかにきつい。
呻きつつ官兵衛がそう声を掛けるものの、政宗だって出来るものならばとうにそうしている。
濡れているので着実に奥へは進むが、進む程にますます官兵衛を締め付けてくる。
埒が明かないと、官兵衛は政宗の腰を挟んでいた腕を下肢の方へと伸ばした。
「う、あっ…なっ…!?」
不意に後ろではなく前に走った刺激に、政宗の身体がびくりと跳ねる。
官兵衛の両手に包み込まれ、それぞれの指がざわざわと、再び首をもたげた政宗のそれを這い回る。
「っあ、や、っ」
咄嗟にその手を止めようと政宗も手を伸ばすが、払いのける程の力が入らない。
ならば少しでも逃れようと腰を引くが、
それはむしろ、後ろを貫くそれを自ら奥へと誘い込むことになった。
抱きすくめられているので、元々逃げ場などなかったが、改めてそのことを思い知らされ、
政宗は艶声を上げながら、せめて震える膝を折ってしまわぬように堪える。
それと前への刺激に政宗が意識を取られ、後ろの締め付けが幾らか弛む。
その機に官兵衛は一気に奥まで突き入れた。
「――っ」
身体が穿たれる衝撃で身動ぎはおろか呼吸もままならなかったが、
ゆっくりと揺さぶられるにつれ、政宗はその律動に合わせ、ぎこちなく音を吐き、空気を吸う。
「っ、ん…う、ぁ…」
固く太く、何より熱いそれが中を抉り、擦る内に、次第に政宗から別の感覚を呼び起こし始める。
「あ、っ」
大きく厚い手がすっかり勃ち上がっている政宗のそれを包み、握り込んで、
政宗を悦楽へと更に追い立てた。
手元が見えないせいか、手枷のせいか、官兵衛は相変わらず探るような手つきだ。
裏筋から先端までをなぞってから、指が辿り着いた先端を弄くっている。
かと思えば、握り込んだ手を再び根本まで戻し、絞り出すように上下に扱く。
二つの指で先端を摘み、指の腹で転がし、擦ってくる。
「ぅ、あっ…ぁあ…っ」
身を穿ったそれが奥を突く度に、皮膚を叩いた時と似た乾いた音を立てる。
それに前からも後ろかも聞こえる滑った水音と政宗が上げる嬌声が重なり、部屋に響いていく。
それら全てが、二人から思考も理性も剥ぎ取り、残った欲望で目の前にある快楽をただただ貪った。
そして遂に、溜まりに溜まった欲が、政宗の中へと勢いよく放たれ、注ぎ込まれる。
その熱さと握られたその手の動きに促され、政宗もまた精を吐き出した。
まだ息を乱してはいたが、挿れたままのそれを抜くべく、官兵衛が身動いだ。
その動きに、政宗は未練とも安堵ともつかぬ息を吐く。
塞いでいたものが抜かれ、中に吐き出した白く濁ったものが内腿を伝い落ちていく。
それを感じながら、辛うじて立てていた膝を伸ばし、政宗は倒れ込むように俯せた。
官兵衛がその上に覆い被さり、後ろに顔だけ向けた政宗の鼻を自身の鼻で小突く。
が、唇を重ねる前に、政宗に顔を背けられてしまい、官兵衛が微かに眉を寄せる。
その様子に微笑してから、政宗は身体を反転させ、官兵衛の首に腕を回して引き寄せると、自分から口付けた。
舌を入れ、絡め合わせて遊ぶが、暫くも経たない内に、政宗が舌を引っ込める。
追いかけてくる官兵衛の舌を追い出して、政宗はやや力任せに唇を離した。
「……何がしたいんだ、お前さん」
「いつも、アンタの思い通りにいくとは、限らねえってことさ」
不満を滲ませる官兵衛にそう言い捨て、政宗が不遜に笑う。
呼吸が荒いので迫力は全くないのだが、政宗の言葉の意味を判じかね、官兵衛は眉間の皺を深くする。
その様子に、まだ気付かないのかと呆れ、
政宗は、官兵衛がしていたように彼の鼻を自身の鼻で小突いた後、再度唇を重ねてやった。
「アンタの真似だ」
「……」
官兵衛は政宗の行動と自身の行動を顧みる。そして少し間を置いた後で、口を開いた。
「……いつもやっていたか?」
官兵衛の確認に、政宗は頷く。
「ああ。いつもやってた」
そう言ってから、堪えきれずに政宗が笑い出す。
それを少しの間苦々しげに眺めていたが、珍しくも屈託なく笑っている政宗に次第に絆され、
官兵衛もおもむろに眉尻を下げる。
「……まさか、それだけで刀を収めたのか? お前さんらしくもない」
少し呆れた様子で官兵衛が唇を寄せてきた。
そうして目元や頬に唇が落とされていくのがどうにもくすぐったく、政宗はくつくつと笑う。
「アンタが、らしくもなくやる気になってるからだぜ? おかげでつい、つられちまった」
言を示すように、政宗からも口付ける。
絡める舌は思った以上に熱く、再び火をつけるには十分だ。
いや、元より燻ってさえいないのだ。
政宗の枕代わりにされていた官兵衛の両腕が、
政宗の頭上を通り過ぎ、二人の身体の間を通り、下へと伸ばされていく。
政宗の腹を撫で、位置を確かめながら、その下へと這い寄っていく。
「……っ」
そうして握られ、再び全身に走ってくる刺激にそれ以上を期待して、政宗がごくりと喉を鳴らした。
情欲を覗かせたその眼が、言葉に出さずに官兵衛に請う。
だから、薄く笑んだその唇に自身の唇を重ねた後、耳元へと寄せ、官兵衛も囁いた。
「あ……」
束の間躊躇いと羞恥とで瞳を揺らしたが、疼く身体の熱に後押され、
政宗は官兵衛の言葉に従い、自ら足を開いた。