臥した花に





乱れた音がする。


ああ、俺はどうしたんだったか。
最初に思ったのはそれで、それからゆっくりと堕ちていく感覚。


乱れた呼吸が耳に入り、それに吐き気がした。


飛んだ意識は微睡みを彷徨いそれが確かとなった時に、漸く重い目蓋を開く。
まとわりつくその手が身体を撫で回し、引き起こされた情欲と共に身体を濡らす。
「…っ……」
這い回るその手を止めようと腕を伸ばそうとして、漸く頭上で縄に繋がれていることに気付いた。
無意味な手の動きは、それでも微かな音を立て、それは己の身体を貪るこの男に目覚めたことを気付かせたらしかった。
「…あ…っ!」
声を上げ一瞬目を見開いてこちらを凝視し、すぐに逸らされた。
「お許し下され……お許し下され…」
譫言のように呟き続けるが、その行為を止めることはせず、その男は欲望のままに蹂躙し続けた。








 少しずつ、思い出してきた。
犯される事実を直視したくなくて、政宗は身体と意識を切り離す。
 確か、武田と戦をした。
そして、自分は、倒された。
倒したのはこの男だろうか、それとも雑兵か、もしくは忍かもしれない。
とにかく、地べたに叩き付けられ、
次に気が付いた時には見知らぬここにこうして繋がれていたのだから、情けなくも気絶したのだろう。
 身体の表面を這い回っていた手が、中への入り口を探り当てた。
遠慮も無しに入ってくる指の感触が、俄に意識を身体と結びつけた。
「…っぐ…!」
堪えきれずに呻き声が漏れる。
その声が気に入らなかったのか、十分に慣らされてもいないというのに性急に指が増やされていく。
無理矢理にその入り口を拡げられ、異物感に吐き気が込み上げる。
腕を縛る縄が軋み、それが腕に更に食い込んでくる。
「政宗殿…」
呼びかけられたその声に、元々その気は無かったが答える間も与えられぬまま、
つい先程己が名を紡いだ唇が押し付けられてきた。
その男らしい、熱い舌が冷えて乾いた唇を濡らし、開いた隙間から中に滑り込んでくる。
舌の熱が逆になけなしの矜持を呼び起こした。
深く入れてきたその舌に歯を立ててやれば、
思わずその男の唇が離れ、同時に中を傷つける指も抜かれた。
口を押さえ、その男は思い詰めたようにこちらを見つめている。
「…そ、それがし、は…っ」
「片倉小十郎」
言い募る言葉に被さるように、温度の明らかに違う声とそれが紡ぐ言葉、そして背後の気配に鳥肌が立つ。
「さす――」
その男も驚いて政宗の背後を凝視している。
身動きの取れない状態では背後に目を向けることが出来ないが、
それに構うことなく背後の声は更に続けた。
「伊達成実、鬼庭綱元、留守政景…」
次々と発せられていく名とその懐かしさに、何故か身体を震わせた。
「お優しい総大将様は、死なせたくないよねぇ?」
「……」
そうか。
俺は、負けたのか。
「佐助、退がれ…」
苦しげにその男が窘めると、背後の男は冷たく笑う。
「旦那は優しいねぇ」
「佐助!」
明らかに嘲りを含めた声で嘆息した背後の男に、目の前の男は声を荒げる。
「…アイツらは……?」
わざわざ出されるぐらいだ、だからこれはただの確認や念押しの類に過ぎなかったが、
目の前の男は安心させたいのか必死な様子で言った。
「生きておりまする。御家臣方は皆全て」
「……」
ふ、と吐息めいた笑みを零す。
敵の言葉によってでしか家臣の生死も確かめられない今の己の状況と、
そんな曖昧なものでも安堵してしまう弱さに、笑ったのだ。
しかしそんな笑いではあったが、それは目の前の男も安堵させたらしかった。
 背後の気配は気付けば消えている。
再び押し付けられてきた男の唇を、今度は抵抗せず受け入れた。
出来る限り身体の力も抜き、侵入してくる指をも受け入れる。
「政宗殿…っ」
中を拡げようと動かされる指が内壁を擦り痛い。
痛いがその男が構うはずもなく、更に大きな熱がその入り口に宛がわれる。
「…っう、…っぐ、うっ…!!」
悲鳴を必死で可能な限り呑み込み、拒絶で強張る身体の力を必死で抜こうとする。
片眼から溢れる涙はただの生理的なものだが、その涙で霞んだ視界でその男の表情が見えず、
それに何故か安堵した。








 感情を殺しそれを表に出さぬよう努めたつもりだったが、
ある時、一つだけの眼は皮肉にもそれを瞳の光として浮かべたらしかった。
他人事のように眺めていた片眼が不意に覆われた。
「見ないで…下され……」
何と痛々しい声を出すのだろう。
そう思ったのはただの侮蔑を含んだ哀れみに過ぎないが、
そう思うことが不可思議だった。
 片眼を覆っていた手が不意に右の眼帯にかかる。
咄嗟に顔を背けるのは虚しい反射で、
しかしその手は躊躇なくそれを追いかけ、失われた右眼を隠す鍔を掠め取った。
意識が一瞬真っ白になり、気付けば手加減無しにその男を蹴り飛ばしていた。
我に返り、未だ右目に引き摺られている自分に愕然となった。
ただの過去の事実なだけなのに。
「…政宗殿…」
腹を押さえ呻いていた男が再び顔を寄せてきた。
右の爛れた皮膚に触れられ鳥肌が立つ。
「やめろ…っ」
顔を背け身を捩りその手から逃れようと、最初の陵辱以来の抵抗を見せ、がむしゃらに暴れる。
縄が腕に食い込み、身体を捻った拍子に戦で負ったらしい腹の傷と共に痛みを訴えた。
それに歯を食いしばって痛みを堪え漏れそうになる声を抑える。
動きを止めた隙に、顎を掴まれ背けた顔を再び向けられた。
「…んっ…ぅ」
唇に押し付けられた口から舌が入り込み、中を侵していく。
拒絶し逃げる舌を執拗に追いかけ、熱い舌が絡まってくる。
しつこく吸い付かれ、端から零れた唾液さえも舐め取られ、
その舌が右目に辿り着いた時、ビクリと身体が震えた。
仮にそれに労りや慰めが含められていたとしても、舌で抉られているようにしか感じられず、
そこに触れられる恐怖が身体を竦ませ、抵抗する気力が抜け落ちていく。
首筋から背中を指でなぞられ、続いて喉に噛み付かれ、ヒク、と喉が揺れた。
腰まで下りてきた指は腹へと移動しそこを撫でるとそのまま更に下り、反応を見せ始めた付け根の熱を掴んだ。
「…いっ…」
加減の分からぬ力に快楽と共に痛みも走り、それでも扱かれていく内に次第に快楽の割合が増してくる。
だらしなくビクビクと反応し翻弄されていると、不意に視界が暗くなった。




それからは、鍔ではなく布が両目ごと覆うようになった。

























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続きます。