そんなあなたに恋してる☆
「元親ーーっっ!!」
自分の名前を叫びながら、政宗がすごい剣幕でこちらに突っ込んできた。
それはもう、斬りかからんばかりの勢いで。
というか、刀は既に抜かれている。
「な、何だぁっ!!?」
奥州にいるべきはずの人間がどうしてこんなところにいるのだとか、
何故にいきなり突進してきたのだろうかとか、
疑問は尽きないが、
もう間近の政宗に、実際、刀を振り下ろされたものだから、
元親は身体を捩り、すんでの所でその一撃を避けた。
つい今し方まで元親のいた場所を見れば、それはそれは深く抉れていた。
避けられなかった時を想像して、少し背筋に寒気が走った。
兵法の基本を思い出し、情けないが部屋の壁まで後ずさる。
もちろん政宗も追いかけるので、逆に追いつめられた。
「ど、どうしたってんだ、政宗?」
声音にも寒気が移ったのか、少々どもりながら、
元親は、刀身を煌めかせ、こちらを見下ろす政宗に尋ねてみた。
「あぁん?どうしただと?」
とりあえず、何だかすごく怒っていることは分かった。
とにかく、頭の血管が切れる音が聞こえそうなくらい、怒っている。
怖い。
はっきり言って、かなり怖い。
ていうか、逃げたい。
一瞬そうよぎったのが災いしたのか、
そのことに気をとられたのがまずかったのか、
耳のすぐ隣の壁に刀が突き刺され、
元親はひぃっ、と辛うじて心の中で悲鳴を上げた。
「…この、浮気者がぁっっ!!」
刀で斬られはしなかったものの、
理解不能なことを叫ばれ、同時に腹に思いっきり拳を打ち込まれた。
息がつまったというか、中身吐き出しそうになり、
続けざまに二、三回胸元を殴られ、
トドメとばかりに頬まで殴られて、その勢いのままに元親は倒れた。
倒れたのは刀と反対方向だったので、斬られはしなかった。
しかしダメージは大きい。
倒れた元親に乗っかかって、政宗は元親の胸ぐらを掴んだ。
「なめた真似しやがって。
てめぇなんざ、富嶽の大砲に詰めて、海にぶっ放してやる!!」
「ちょ、ちょっと待て、俺が一体何した――」
「まだしらばっくれるか、この野郎!」
しらばっくれるも何も、今どうして自分がこんな仕打ちを受けているのかすら分からない。
だって思い当たる節もない。
しかし政宗の独眼は怒りに満ちていて、とても話など聞いてくれる状況ではない。
とりあえず、身の安全のため、折れることにしよう。
このままだと、本当に海に沈むことになりそうだし。
鬼だけど、まだ退治されたくないし。
「政宗……」
意を決して(どんな意だか知らないが)、
元親は政宗の腕を掴み、政宗を上に乗っけたまま身体を起こした。
「お、俺が悪かった……」
「……」
「もう二度としねぇ。誓ってしねぇ」
何をだよ、と心の中で自分に突っ込んでおいた。
「……」
心の中は置いといて、それでも表情だけは真剣そのものだ。
生きるか死ぬかがかかっている。
「だから、許してくれ……」
政宗はしばらく憮然とした顔のまま、元親を見下ろしていたが、
拗ねたように顔をそらした。
「アンタはいっつもそれだ」
え、何か脈あり?
政宗の怒りが幾分和らいだようなので、少し希望が見えてきた。
「…そうやって、真面目な顔で誤魔化そうとするんだ」
ならばここは押すべし。雰囲気にのせて、己ものるべし。
「誤魔化しじゃねぇよ。俺はいつだって本気だ」
政宗の顎を掴んで、それた顔をくいとこちらに向かせた。
見れば頬が少し朱に染まっている。
よし、ここで殺し文句を。
「俺は、お前一筋だ」
「元親……」
感激したのか、政宗の瞳が少し潤んできた。
とにかく、命は繋いだようだ。
むしろ、逆にこのままもつれ込めそうな展開だ。
それもまた良し。
しかし、不意に政宗の唇がニヤリと笑みの形を作る。
それはもう、ニヤリとしか形容できない程に、嫌味な笑みだ。
「Hey、楽しめたかぁ?」
「へ…?」
いきなりの政宗の変貌ぶりに、しばし呆気に取られる。
そんな間抜けな様子に政宗が笑い出した。
「ただのjokeだぜ。It's a joke!
それを、アンタ……」
先程のやりとりを思い出し、明智もビックリな笑いっぷりを見せている。
「……」
ジョークって、今までの全部!?
っていうか、ただの冗談にあそこまで本気で殴るか!?
痛かったぞ、マジで。
ホントにマジで。
「まぁ、たまにはこういうsituationもいいだろ、新鮮で」
題して、
浮気発覚、堪え忍んだ妻の怒りがついに爆発。その時、夫は……
とか、付け加えられた。
いや、堪え忍んでないし。
お前、そんなキャラじゃないだろ。
むしろ逆だろ。
その前に、妻でも夫でもない。
ツッコミどころを間違えた元親の心中のツッコミも気にせず(心の中だから)、
政宗はまだ爆笑し続けていた。
「……」
このやり場のない怒りとか、脱力感をどうすればいいんだ。
元親は笑い続ける政宗を上に乗っけたまま、
盛大にため息をついた。
体勢はいいのにね。