「・・・あっ・・・。」
引き抜かれる感覚に、は切なげな声を発して身体から力を抜いた。
というよりも、体力の限界が近づいていて、もう身体に力が入らなくなってきている。
生理的に零れた涙で頬は濡れ、何度も噛みつかれて唇は真っ赤だ。
汗や蜜で湿った互いの身体が密着している。
至近距離にある彼の隻眼はひどく熱を帯びていて、胸の奥が震える。
きつく絡めた指に更に力がこめられて、はさすがに眉をしかめた。
「政宗さ、も、無理・・・けほっ!」
「水飲むか?」
「は・・っごほ、・・・はい。」
さんざん鳴かされたせいですっかり枯れてしまった喉が潤いを求めている。
政宗はの背中に手を回して起き上がるのを手伝ってやり、枕もとの水差しを手に握らせた。
それにすぐさま口をつけて、は思う存分水分を体内に取り込む。
「・・・はあ、美味しい。」
不思議なもので、水を摂取すると僅かに身体が楽になったような気がした。
そんな少し落ち着いた様子のの手から水差しをとりあげ、
政宗は再びを布団の上に押し戻す。
さすがのもこれには疲れを忘れて声をあげた。
「や、だからもうこれ以上は無理ですってば・・・!」
「・・・・・。」
小声でどれだけやったと思ってるんですかとごにょごにょ呟くを、
政宗は愛しげに、けれどどこか苦しげに見つめた。
そのいつもと少し違う様子の政宗に、が気がつかないはずがない。
「・・・どうしたの?政宗さん。」
「Shit・・・なんでもねえって言っても信じないだろうな。」
「そりゃ、伊達に政宗さんの奥さんやってませんから?」
鈴が転がるように軽く笑って彼の頬に優しく触れると、政宗も苦笑して、の首元に顔を埋めた。
「らしくねえのは分かってるんだがな。
 ・・・今日満月だろ、お前が未来に帰らないかそればかり考えちまう。」
ぎゅっと細い肢体を抱きしめて、政宗は小さく息をついた。
彼女の気持ちを信じていないわけではない。
それでも夜空に輝くあの金色は、出会いの象徴であると同時に別れの象徴でもある。
ぬくもりは確かにこの腕の中にあるのに。
ふいに、その形容しがたい儚さに気持ちが焦れる。
彼女の『帰るわけありません』という言葉を待っている。
「政宗さん・・・。」
「・・・なんだ。」
「今日って満月だったんですか。」
――――・・・。」
柄にもなく、政宗はちょっとした衝撃にかたまった。
今のは空耳か。
神妙な面持ちで顔を上げた政宗と対照的に、はあっけらかんとした顔であははと笑った。
「いや〜、こっちに戻ってきたばっかりの頃は日数をカウントしてたんですけどね。
 いつの間にか正確には分からなくなっちゃって、まあいいか、って。」
「おまっ・・・毎晩とは言わねえが夜に月は見ないのかよ!」
「夜にゆっくりお月見する時間をくれないのはどこの誰ですか!」
顔を赤くしたが困ったような顔で政宗を見上げる。
それにしたって・・・いや、彼女はこういう人間だった。
勝手に考え込んでいた自分があまりに間抜けで情けなくなってくる。
「もう・・・何でもちゃんと口で言ってくださいよ?
 満月の度にこうだったら、私の身体がもちません。」
「悪ィ・・・。」
珍しく素直に謝罪の言葉を口にする政宗に、はくすりと笑いを漏らす。
こんな一面を見てさえどうしようもないくらい彼が愛しくて、
言葉では伝えきれないからぎゅっと抱きついた。
首に腕をまわして、少し色素の薄い髪に鼻先を埋めると、男臭かった。
「誰に何を言われようが、政宗さんが求めてくれるなら、私はここにいます。
 勝手に帰っちゃうかもなんて考え込まないで下さいよ。」
「悪い。」
「もう謝らなくていいです。」
「・・・いや、そういう意味の悪いじゃなくてだな。」
「?」
きょとんとするの下腹部に、固いものが当たる。
それが何なのかわからないはずもなく、の顔がかあっと赤くなる。
「ままま政宗さんっ!!」
「付き合え。」
「か、勘弁して下さいよお〜〜〜!」

・・・そんなの悲鳴が甘さを帯びるのは最早時間の問題で。
その夜が満月を目にすることはなく。
明け方近くまで離してもらえず、翌日はなかなか起き上がれず。
むすっとしている妻の機嫌をとるために、政宗が上等の甘味を取り寄せさせて。
伊達家当主もその妻も、結局はただの夫婦である・・・という話。









元気いいなあ、政宗様。←
ちなみに「月華」=「月の光」です。