――お願い、だ?」
政宗は口につけかけた湯呑みをおろして、隣に座っているへと視線をやった。
その視線を受けて、はおずおずと続ける。
「あの、はい、かなり言いづらいことなんですけど・・・。」
「cakeが食いたいとかか?」
「すぐ食に結びつけるのやめてくれませんか。・・・っと。」
瞬間的にヒートアップした脳内を慌てて落ち着ける。
こちらはお願いする立場なのだから。
「えーとですね、最近私、自分のお部屋をいただいたじゃないですか。」
「なんだ、何か部屋に不満があるのか?
 改まって俺に言うくらいだから余程のことだろ、遠慮なく言えよ。」
今度こそお茶を口にしてから、政宗はなんでもなさそうに答えた。
も軽くお茶をすすって喉を潤す。
「いえ、お部屋に不満があるわけじゃないんです。
 ないんですけど・・・以前使ってた庵にも自由に出入りする許可が欲しいんです。」
「庵って・・・あの客用の庵か?」
「はい。」
言わずもがな、が最初にこちらの世界に来たとき寝起きしていた庵である。
途中から政宗の隣の部屋(つまり最近改めて貰ったの私室である)に移ったのだが、
結構な期間をあの庵で過ごした。
「お客さんがいないときだけでいいんです。
 一日中いたいとかそういうわけでもないですし・・・だから」
「俺の傍にいるのは嫌か?」
「え?――おわっ!」
素早く湯呑みを取り上げられ、ぐっと抱き寄せられた。
驚いて見上げると、思いがけない真剣さで隻眼が自分を見ていた。
さっきよりもずっと近い距離にほんのりと頬が色を帯びる。
「そ、そうじゃなくて!」
「なら今までどおり俺の傍にいろよ。」
こめかみに軽く口づけられて、一気に体温が上昇する。
この人はやることなすこと言うことが大概キザだ。
・・・こちらに戻ってきてからは四六時中政宗の傍にいる。
以前のように、政務を行っている政宗の隣では絵巻物を読んだり昼寝をしたり、
休憩時間になったら一緒にのんびりお茶をすすったりしている。
というか、実際今もその真っ最中である。
小十郎やその他の重臣たちが重要な話をしに部屋にやってきても、
極端に長い時間がかかる話や、血なまぐさい話のとき以外は、
に席をはずさせることもなく、一緒に話を聞かせてくれる。
それらは政宗の自分に対する愛情や信頼や気遣いだと分かるし、嬉しくも思う。
けれどさすがにこうもべったりでは、事実はどうであれ、
彼の仕事の邪魔になっているのではないかとが不安になるのだ。
それならが貰ったばかりの私室にいればいいという話なのだが・・・。
「でも、あそこで過ごした時間ってそれなりに長かったから愛着が湧いてるし、
 政宗さんとの思い出が多いでしょう・・・?
 そういうの、大事にしたいんです。」
あの庵で、あらゆる感情を味わい、政宗の色々な感情を受け止めた。
一緒に庭で遊んだり、美しいものを見て胸を震わせたり、のんびり昼寝をしたりもした。
奥州筆頭としての政宗と、ただの青年としての政宗、両方と出会った。
彼と味わった喜びも悲しみも恐れも切なさも、忘れたくない、大切なものだから。
「・・・いいぜ。あの庵、にやるよ。」
「はい? いえ、別に庵ごと欲しいとまでは言ってないんですけど。」
さすが城主というか、気前が良すぎてはぽかんとする。
自分で今間抜け面をしているんだろうなと思いつつも政宗を見ると、
なぜかニヤニヤと意地悪げに笑っていた。
なんだろうか、この嫌な予感は。
「いや、あの庵はお前にやる。――ただし。」
政宗は一層笑みを深くして、の耳元で囁いた。

「俺がpresentしたくなるように、可愛く強請ってみろ。」

「・・・ゆすってみろ?」
「可愛くゆするってどういう状況だ。ねだると読め!」
いつものようにばしっと額を叩かれての首がのけぞる。
痛ー!ちょっとした冗談じゃないですか!!」
「庵が欲しいなら、そうやって吼えるんじゃなく、可愛く鳴いてみろっつってんだ!
 Ha!いっそ出入り禁止令でも出してやってもいいんだぜ?」
「なにそれ酷い!話がこじれてきてるし!!」
「欲しいんだろ?なら素直にねだれよ、。」
「なんだその破廉恥なセリフは―――!!!」
「それを破廉恥だと感じるお前が破廉恥だってえの。オラ、どうすんだ?」
最近の穏やかな生活でうっかり忘れていたが、この男はこういう男だった。
心の中でいつかと同じように『戦国時代のSの化身め!』と悪態をつく。
ちなみにあのときのように口に出す勇気はもうない。
しかしここで引き下がるのも非常にくやしい。
。」
どこまでも魅力的な笑みを浮かべた政宗に、強く抱き寄せられる。
鋭い光をたたえた瞳がすぐ近くにある。
きっと今の自分は耳から首まで赤くなっているのだろう。
彼には、逆らえない――


「おねがい、政宗。」


そのまま恥ずかしさに震える指先を彼の頬に添えて、
唇のごく近くに掠めるようにキスをした。
どうしようもない羞恥心に、すぐさま政宗の肩口へ顔を埋めてぎゅっと抱きついた。
「な、何か反応してくださいよぉ・・・・・・・・・う゛っ!?
次の瞬間、それはもうものすごい力で抱きしめ返された。
「いだだだだだ!!!潰れる!!骨が砕ける!!」
「くっそ・・・お前マジ可愛いな・・・!
 上出来だ、思った以上だったぜ。」
「褒めてるわりにまるで拷問のように力強い抱擁ですね!!」
本気で痛くてバシバシと政宗の背中を叩くと、やっと腕の力が緩んだ。
ほっとしたのも束の間、ぐいと顎を持ち上げられる。
竜の目がを映して優しく細められた。
「ご褒美だ、。」
「えっえっえっ―――っっっ!

・・・そのまま唇に大変なご褒美をいただきました。
ええ、さすが城主様は気前がよすぎです、はい・・・。
まあ翌日庵は貰えたし、愛する旦那様の嬉しそうな顔が見られたので良かったですとも。
そりゃもう、心の底から・・・。









つまりはただのバカップルです。