終わりの夢の続きの日
「ぅわーーーっ!! おいそこのへたれ勇者っ、どけーーー!!」
「は? ……っうわっ!?」
よく知った声につられて振り向いた瞬間、走ってきた少年に勢い良くぶつかられて、
リンクは盛大に声を上げてしまった。
その場に踏み止まって何とか転ぶことだけは防いだ背中に、一つに結えた長い金髪が流れる。
青空によく似た色の瞳で、
ぶつかってきた少年 体重の差からか、こちらは思いきり尻餅をついていた を見下ろして、
リンクは衝動そのままに声を荒げる。
「ロイ! お前な、何の恨みがあってオレにぶつかってくるんだ!?」
「ぅうるっせぇな! どけっつっただろ!?」
「あんな至近距離で叫ばれて、咄嗟に動けるわけないだろーが!」
「はっ、お前でもそんなことがあるのか! やった、俺の勝ちー!」
「勝ちー、じゃないだろ! ったくっ……!」
リンクはロイの開襟シャツの首根っこを掴んで、ぐい、と引っ張り起こしてやる。
結局こういう親切心をはたらかせてしまうところが、
甘いのだへたれなのだと散々に言われる理由なのだと、知っていながら。
引っ張られた襟元をそれなりに正してから、ロイはリンクに視線を向けて、
ありがとな、と言った。
窓ガラスの向こう、風に揺れる青葉を視界にいれつつ、
廊下はあんまり走るなよ、と笑って言って。
そしてリンクはロイに尋ねる。
「そんなに急いで、どうしたんだ?」
「え? あ、そうだ! 購買!」
「購買? ……珍しいな。弁当、忘れたのか」
「いや、あるんだけど。だけどさあ、マルスがさあ」
「マルス?」
ロイの一つ上の学年、リンクの一つ下の学年。
高等部生徒会会長、他様々な理由により、高等部の有名人である、ロイの誰よりも愛しい恋人。
ロイの唇から出た名前は、やはりというか、何と言うか、
彼にとっての最優先事項である、その人のものであった。
「マルスがさー。コロッケパンって、何? って聞くんだ」
「……ああ」
その一言で、リンクは全ての物事に合点が行った。
「だから!
あの購買、さっさとしねーと、いろんなものが売り切れるし」
「はは、そうだな。確か四時間目、どっかのクラス、体育だったし。
……ごめん、引き止めた」
「ん。いーよ別に。ぶつかったの、俺だしな」
じゃあな、と肩の横をすり抜けて、ロイは再び駆け出した。
さっき廊下は走るな言ったばかりだろうと叫んだら、
大目に見ろよマルスのためだから、という答えが返ってきて。
「ロイ!」
「んー!?」
廊下の窓を開けながら、リンクはもう一度声を上げる。
一番奥の曲がり角で、立ち止まった少年に。
「アップルパイ! ……ピカチュウに、買ってきてくれよ!」
「おう! りょーかーい! 後で金払えよー!」
夏の日差しと涼やかな風が、カーテンの裾を舞い上げる。
遠ざかっていく上履きの足音を耳にしながら、リンクは笑いながら手を振った。
学園パロ。
日記に書いたものを再録しました。