失う金貨

たくさんの物事を並べてみて、ロイは一人溜息をついた。

勝手に想いを寄せていたのは自分だし、想いというものは基本的に一方通行だ。
想いに応えるという時点で、光の遠さを思い出すくらいの奇跡だと言えるくらいに。
ついで、どこかの世界には、何十億という数の人間がいるという。
果たしてその数がこの世界にも当てはまるのかは知らないが、
それでいえば、お互いの名前を知っている、という時点で、何十億分の奇跡。
現に、名前も知らずに斬り捨て殺した敵という名前の人間が、
自分の過去の中に、たくさん存在するのだから。

それなのに、どうして。
出会っただけでは駄目なのだろう。想いを寄せるだけでは、見ているだけでは。
知り合いじゃなくて、戦友じゃなくて、友達でもなく、親友でもなく。
どうしてそれ以上を求めるのだろう。それ以上の名前は、恋という名前の。
お互いにお互いを独占するような、満たすように奪う、不安定な関係。
今のままの方が、ずっと平穏だとわかっている。それなのに、どうして?
考えて答えが出るくらいならとうに理解も出来ているはずで、
つまりは考えるだけ無駄なのだ。
自分なんかが考えなくても、もっと昔の人が、もっと考えているであろう、そんなこと。

窓の外に目を向けてみれば、そこには二人の人影がある。
庭の真ん中、手作りのブランコに座る一人。
そのすぐ横に立って、紐を握って。木洩れ日によく似たやわらかな視線を落とす、もう一人。
どうしてそこに立っているのが、自分では駄目なのだろう。
   胸の中の閉塞感に耐え切れず、ロイは窓から視線を逸らす。

男同士。そんなことを含めても、二人は良く似合っていた。
二人の想いが通じたことがわかった時、ロイの顔に浮かんだのは笑顔だった。
貼り付けた笑顔。二人の前では、二度と剥がれなくなった、それ。
嘘だけを言うようになった唇。良かったな、喧嘩なんかするなよ、なんて?

嘘だ。本当は、ずっと思っている。
無理矢理にでも奪いたい、許されないことでも、この腕に攫ってしまいたい。
二人の不幸を願っている。正確には、片方だけの不幸を。
自分がずっと想っている一人を不幸な目に遭わせるわけにはいかないのだ。
自分は、マルスが好きなのだから。

わかっている、たくさんの物事を並べても。
現状は何も変化しないし、自分はいつまでも不幸なまま。
一体何を基準に幸福と不幸を決めればいいのかわからないが、
少なくとも、たった一つの恋が叶ったのか、というものを取ってみれば、
未だに、自分だけが不幸なままだった。

恋が一つ叶わなくても、特に不幸にはなり得ない。
恋以外のたくさんの物事を並べれば、自分はきっと幸福な人間となるだろう。
だけど、足りない。たった一つだけが。
そのたった一つが満たされれば、嘘もつかなくなるだろうに、自分は。

窓の外を見下ろしてみる。前髪に落とされる、やわらかな口づけ。
違う、違う、そんなものは。
その場所にいるのは自分だったら良かったのに、許されたのは向こうだった。
自分は許されなかった。
向こうを呪いたかったけれど、大切な想いがそれを拒んだ。

結局、自分を不幸にしているのは、自分なのだろうか。
   そんな馬鹿なことを信じたくなくて、ロイは再び視線を逸らす。

たくさんの物事を並べてみても、ロイは結局不幸なままだった。
溜息を落としても幸福になることは無く、現状は何も変わらない。



凶でーす。

凶っぽい話ですみません。おみくじのくせに湿っぽい!
ロイマルというかむしろリンマルなのもごめんなさい。
あ、一応そうです、お相手はリンクを想定しています。
話としては誰でも困らないのですが、やっぱりリンクがいいかなと。

読んでいただいた方、ありがとうございました。

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