コイビトのうたうウタ |
「……ッ、お前ッ、」 「何だよ、いいだろ別にこれくらいー」 「良くない! ……くっ、つく、なッ……!」 「だって寒いんだもーん。いいじゃんー」 「だから、良くない! ……ッ離れろ!」 ごすっ。 「…………」 「……おーい。大丈夫か? ロイ」 「大丈夫でしょ。それくらいじゃ死なないって」 マルスの華麗な肘撃ちを喰らって床に頭を打ったロイを覗き込みながら、 リンクとピカチュウは、各々そんな言葉をかけた。 少し離れたところで荒い息を繰り返すマルスは、鬼のような形相でロイを見下ろしたままだ。 ちょっと触ろうものならそこから大火傷になりそうな、 怒りとも、もっと他のものとも取れる空気を纏って。 「……ッひっでぇな、何すんだよマルス!」 「うわっ」 「ほら。起きた」 がばっ! といきなり飛び起きたロイは、 心配そうな目を向けていたリンクなど眼中にも入っていない様子でマルスに向かう。 反射的に身体を下げたリンクの頭の上で、ピカチュウは、 ああまた始まるなあ。と、のんびりそんなことを言っていた。 マルスの目の前で低い背をけんめいに伸ばしながら、 ロイは愛しい恋人に喰って掛かる。 「くっついただけで、殴ることないだろ!? 愛が無い!!」 「そんなもの、最初から無い!!」 「ああっ、ひどい!! マルスは俺のことが嫌いなんだーっ! あんなに繰り返した愛の言葉は全部嘘だったんだな! 弄んで捨てる気なんだろ!!」 「何、恥ずかしいこと言ってるんだ!! ……ッ、誰が、誰を弄んだってッ……!」 「……おい。すごいこと言ってるぞ」 「また泣き落としのバリエーションが増えたねえ。すごいすごい」 もう少し冷静になればもっと気の利いた喧嘩が返せるだろうに、 マルスはロイのあんまりな言葉に、その勢いだけで顔を赤くした。 王子様という身の上である以上、おそらく言葉の一番奥までは理解していないだろうが、 ひとまずロイにとって、そんなこと今はどうでもいい。 「俺はこんなにマルスを愛してるのに! 俺の愛が一方通行だなんてっ」 「……ッ、だからっ」 「俺はマルスの為だったら、料理裁縫洗濯掃除まで何でもできるのにっ」 「へえ。ロイさんって亭主関白だと思ってたけど、違うんだ」 「そこのねずみは黙ってろ。なあ、マルス。俺のこと、嫌いじゃないだろ?」 「……う……。」 「リンク。ロイさんに、カミナリ落としてもいい?」 「……マルスが喜ぶだろうし、いいんじゃないか?」 ロイがないがしろにしているうちに、何だかこっちでもすごい会話が繰り広げられているが、 そんなことはともあれ。 子犬のような目で可愛らしく マルスが一歩後ずさりながら、さっきまでとは違う理由で顔を赤らめる。 別にロイの似合わない可愛さに悩殺されているとかでは無いわけだが。断じて。 後、もうひと押しだ じりじりと壁際に追い込んだマルスの肩に手をかけて、ロイは歌うように囁く。 「な? マルス」 「……」 「あんただって、俺のこと、ちゃんと好きだろ……?」 「……ッ……。」 その場にリンクとピカチュウがいて、こっちを見物していることは、 ロイにとっては何の問題も無いのだろう。問題がありすぎるほどに。 圧力をかけるように背伸びをして。吐息が絡むほどに、唇の距離を近づける。 「……っ、イ、のっ……」 マルスが低く何事かを呻いたのには気づかない様子で。 ロイが、もう片方の手のひらで、そっとマルスの額に触れた、 瞬間。 「……ッバカ 「ごはあッ!!」 「……あ。」 がすっ!! と素晴らしいほどにすがすがしい音が鳴り響く。 ロイの、まったくムードの無い悲鳴(?)と共に。 殺人的な勢いで、ロイの頬に平手打ち、否、固く握った右ストレートが繰り出される。 マトモに喰らったロイはその勢いで床に倒れて、またしても後頭部を強打した。 そんなものを心配するそぶりはまったく見せず、マルスは顔を真っ赤にしたまま、 昼のリビングから逃げ出した。 ロイのことなら多分大丈夫だろう、という確信があるのかどうかは定かではない。 「……今日のはまた、すごいダメージがありそうだったな」 「うん。マルスさんって、剣より、拳の方が強そうだよね」 「……うーん。でも、マルスは非力だからなあ……」 「……っ、ってぇー……」 「あ」 リンクがさりげなく失礼なことを言っている中、ロイがゆっくりと意識を取り戻す。 頭を押さえながら上半身を起こしたロイを見下ろす、一人と一匹。 視線に気づいて見上げたロイは、リンクを見てわずかに瞳を瞬かせた。 「……ああ、リンク。いたのか」 「……。……いや。いいけど、別に。大丈夫か?」 「ん? あー、ああ。平気だよ。こんくらい」 「ねえ、リンク。カミナリ、いい?」 「……このタイミングで、かよ……」 やっぱりピカチュウは、何と言うか、怖い。 と、リンクが思ったかどうかはともかく。 「なあ、ロイ。お前さあ」 「何だよ?」 「マルスを怒らせるようなこと、あんまり、しない方がいいんじゃないのか? ちょっと、かわいそうだろ」 「んー……」 頬にぱりぱりと電気を溜め始めたピカチュウをなだめながら言ったリンクに、 ロイはほんの少しだけ考えるようなそぶりを見せる。 ふざけるように抱きしめるのも、それによってぶっ飛ばされるのも、 ロイにとっては、いつものことなのだけれど。 「別に、」 ぶつけた頭をまだ押さえながら、ロイは答える。 それ以上でも、それ以下でもない言葉を。 「あの人も、本気で嫌がってるわけじゃないし、俺は殴られるくらい構わねーけど? マルスが殴ったり蹴ったりするのは、ほら、愛の証だからさ」 |
中吉でーす。 要するにいつもの日常。ってことです。 何かだらっと書いていたら話が変な方向に湾曲しましたが、 吉が上がるたびにエロ度が上がるわけではないです。けっして。 自信無くなってきたけど。 読んでいただいた方、ありがとうございました。 SmaBro's text INDEX |