至近距離

壁にマルスの背中を押しつけて、ロイは下から真っ直ぐに瞳を覗き込んだ。
まだどこか不安げだが、絶対に嫌いでは無い、そんな色。
ロイはいつもの通り背伸びをして、マルスにそっとキスをする。

「……ん、」

指をからめて唇を舐めてみれば、返ってきたのはわずかな身動(じろ)ぎ。
そんな反応に気をよくしたロイは、ついその先まで進みたくなってしまったが、
マルスは手でロイの胸を押し返して、そんな欲求を思いきり拒んだ。

「何だよー。夢が無い」
「何が夢、だ! ……こんな昼間から、お前っ……」
「どうせ夜でも嫌がるくせに。いいじゃんたまには明るいうちからでも。
 マルスのあんな感じとかこんな感じとか、明るいところで見てみた」
「黙れッ!! ……ッ、それに、しても」

ロイの頭をべしっと叩いて、マルスはまじまじとロイを見下ろす。
いかにも興味深い、というふうな瞳で見られるのは珍しくて、
ロイは思わず一歩、後ずさるようにたじろいだ。
この目で見つめられるのは嬉しいし、いつもこんなふうに見て欲しい、けれど。

「……な、何だよ」
「うん……。……いや、お前。
 ……背、伸びた、と思って」
「…………はい?」

目をまんまるに見開いて、驚きをいっぱいに表す、ロイ。
その口から紡がれたのは、はたして怒るべきことだったのか、
それとも。

「……伸びた?」
「ああ。伸びてる」
「本当?」
「だから、伸びたってば。……その、」
「うん」

輝いた視線で見上げれば、マルスは頬を僅かに赤く染めて、顔を横に逸らしてしまう。
それでも言葉の続きが聞きたくて要求すると、本当に小さな声で、
マルスは、言った。

「目の位置っていうか、……だから……。背伸び、するだろ。お前」
「ああ。まあ、しょうがねーだろそれは」
「……それが、その……。近く、なった、から」
「……。」

思いきり言いにくそうだったが、声ははっきりと、ロイの耳に届いた。
それは、つまり。

「……あんたさ、結構、恥ずかしいこと、言うよな……」
「なっ、……お、お前が言えって言ったんだろ!?」
「いや、それはそうなんだけど、うん……」

下からのキスをする時に、同じだけの背伸びをして、
目と目の位置が、近くなっている、ということ。
それは、つまり、マルスにしかわからない、変化だ。
近い関係に無ければ、到底そんなことはわからないのだから。

「まあ、いいんだけどさ」

にっこりと笑って、ロイはマルスに抱きついた。
相変わらず、抱きしめるではなくて抱きつくなのが悲しいけれど、
今はとりあえず、良いだろう。
……背は伸びている、と、他でもないマルスが認めてくれているわけだし。

「で? 背が伸びたらかっこいい? 惚れ直した?」
「……。そんなわけないだろ。バカ」

調子に乗ってそんなことを言ってみれば、返ってきたのはそっけない答え。
愛が無い、と返してみれば、そんなもの元から無い、と、いつもの返事。

それでも、現状は、何も問題無く平穏だった。



吉でーす。

ロイ様はかっこよく成長なさるのでは、とは思いますが、
小さいままの方がネタとしてはおいし…… いえ何でも。
背が伸びればロイ様的には吉!? というわけでどうか一つ。
おみくじの結果に沿うものなのかよ、という。

読んでいただいた方、ありがとうございました。

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