好きじゃない。 好き? 嫌いじゃない。 嫌い? 好きじゃない。嫌いじゃない。 好き? 嫌い? 嫌いじゃない? 好き? 桜ノ見ルユメ もう随分前から、顔色が悪いな、とは思っていた。 もともと色白である彼ではあったが、 さすがに、あの顔色の悪さは異常だろうと。 だが、自分から遠ざかったのに、 それでいてまた自分から近づくのは、 何だか格好がつかないと思った。 「…………」 それに、顔色が悪い、てことくらい、他の誰でも気づけるだろうと。 それに、具合が悪いなら、さっさと眠るでも、なんでもすれば良い。 わざわざ自分が、気にすることでもない。 「…………」 そう思った。 だから、また彼の横をすり抜けて、入れ違いに屋敷を出る。 閉められる扉の音。 少し、心を惹かれるけれど。 「……で、どうしたんだよ? 今度は」 「え……」 門のところに、リンクがいた。 肩に、ピカチュウが乗ってる。 ……会わないように、できるだけ避けていたのに。迂闊だった。 とくにこの、黄色いねずみ。 その、ほやっとした見掛けによらず、よく人を見ていて、 感情の変化を感じ取るのが、誰よりも得意だ。 気づかれると、いろいろまずい。 緑色の服を着た、金髪の青年だって、妙にするどいところがあるし。 「何がだ?」 「何が、じゃねーだろ。……大概、お前の方が突っ走ってるんだから。 さっさと、仲直りでもなんでも、しろよ」 「……別に、そんなんじゃ、ねーよ」 あからさまに、不機嫌になった顔をしてみる。 それを仕方なさそうな顔で見て、 リンクと、その肩に乗ったピカチュウは、 自分の隣を通って、屋敷の中に戻っていった。 ほっと胸を撫で下ろし、 近頃よく行くようになった、場所へ向かう。 街にある広い公園。 その大分奥の、端にある、なだらかな丘。 そのてっぺんにぽつんと生えてる、 一本の桜の木。 そういえば、ピカチュウが何も言ってこなかった。 ……大概、言ってくるのはピカチュウの方なんだけど。 リンクは、人に話しかける、という行為が、 苦手みたいだから。 めずらしいこともあるものだ。 そう思ってロイは、その『場所』へ向かった。 「……言う程のことでも無いよ。あーもう、バカみたい」 「……お前、最近本当キツイのな……。……何なんだろうな、今回」 「……知らないよ。また、ロイさんが勝手にどーにか思ったんじゃないの? 相手にしてくれないーとか、他の人には優しーとか」 「……でも、さ」 「知ってるよ。……なんか、いつもと違うって言いたいんだろう?」 「……ああ……」 「……でも、僕とか、リンクとか……。他の人が口出しすることじゃないと思うよ。 こーいうのは、……二人で解決するもの、……なんじゃなかったっけ?」 「……ああ……」 「リンクはさ、……そーいう余計な心配してるからだよ」 「何がだ?」 「恋のライバルにさえ気を使っちゃう程の、上にバカがつくお人好し」 「……。……ピカチュウ」 「なぁに?」 無邪気、可愛い はあぁ、と深く息をつき、リンクは言った。 「……言葉を選んでくれ。……ほんの少しでいいんだ、頼むから」 ****** なだらかな、丘の上。 少し下れば、子供達の声が聞こえてくる。 見上げれば、広い、青い空しかない。 そして、そんなところにある、 一本の、桜の木。 少しずつ、少しずつ花はほころび始め、 地面にも、何枚かの花びらが、落ちている。 「…………」 その下で、桜を見上げる。 花びらが、くるくる回って、自分の横を落ちていく。 満開になった頃に、また来ようか。 それとも、また、明日 ふ、と微笑み、背を向ける。 ……と、肩に、一枚の花びらが、落ちてきた。 「…………」 それを、手に捕る。 絹のようになめらかな感触が、指に。 薄い色をした花びらを捕る指の力を、緩めた。 風にのって、花びらはどこかへ飛んでいってしまった。 青い空の下を、青い髪の青年は、帰った。 耳に、子供達の声が届いた。 ****** さく、と草を踏む音。 ちょっと前までは全然、興味も惹かなかったそれの真下で、 立ち止まった。 満開一歩手前の桜の、花の下。 下にいっぱい花びらが落ちているのに、 桜はまだ満開ではないようだ。 「…………」 ここにいると、心が落ち着く。 何も聞こえない。 聞こえるのは、風の音。 それに合わせて、ざわめく桜の花びら達。 自分は、静かに花を愛でるような人間では無い。 どちらかと言わずとも、この下の公園で、 延々遊び回ってるような性の人間だ。 「……歳とると、それなりに変わんのかな」 とは言っても、自分はまだまだ遊び盛りの十六歳だけれど。 ふ、と自嘲気味に笑い、ロイは桜に背を向けた。 「…………」 風が、吹いた。 強い、追い風。 桜の花びらが、横を通り過ぎる。 「…………!」 ばっ、と、勢い良く身体ごと振り返った。 視線の先に、桜があった。 「……いや……、」 そんなはず、無いのに。 それなのに、鼓動は確実に早まっている。 「…………」 この胸騒ぎは、なんだろう。 晴れそうで晴れない、おだやかじゃない。 不安定な気持ちを抱えたまま、ロイは帰路に着いた。 ****** 「……ッ!!」 がたんっ。 後方から音があがって、思わず全員、そっちを振り向く。 ……マルスが、左腕をテーブルについて、右手で顔を覆っていた。 息が、少しあがっている。 イスから立ち上がった瞬間、よろめいたらしい。 「ちょ、ちょっとマルス! 大丈夫!?」 「……っ……、だ、大丈夫……です。……すみません」 ちょうど反対側に座っていたピーチが、慌てて立ち上がる。 右腕を軸にテーブルを跳び越え、マルスの目の前に下りた。 なんて、お姫様らしからぬ行動であろう。 マルスの右手を払って、自分の右手で、マルスの前髪を上にやる。 自分の額をぴたりとあてて、難しそうな顔をした。 「うー……ん。熱は、無いみたいねぇ……」 「……大、丈夫ですから……。……ほっといても」 「大丈夫じゃないだろ。どうしたんだ?」 マルスの後ろから、ファルコンが声をかけた。 額から、目を通り頬まで達している顔の傷が、 いつ見ても痛々しい。 本人は、気にしないでくれと笑っているが。 「……何でも、無いです……。……ちょっと、立ち眩みがしただけで」 「……ったく、……お前は」 ファルコンが溜息をついたかと思ったら、 次の瞬間、マルスの身体が、ファルコンに担ぎ上げられていた。 「え? ……ち、ちょっ……。お、下ろしてくださいっ……!!」 「立ち眩みだろうが何だろうが、具合が悪いのは確かなんだろ? ……随分、顔色悪いし。 ……じゃあ、俺マルスを部屋に運んでくるから」 「あぁ、まかせたなー」 「マルス君、後で夕飯、部屋に持っていくからね」 ファルコンが軽く手を振って、リビングを出て行く。 皆が目線で、それを見送った。 プリンとピチューを膝の上に乗せて、 柄でも無い本の読み聞かせ、なんていうものをしながら、見ていた。 「…………」 「……めずらしいね?」 ふ、と後ろから声がかかる。 振り向くと、そこにピカチュウがいた。 プリンとピチューが膝から下りて、 本の続きのページを捲った。 「それとも、好きじゃなくなっちゃった?」 「……。……そんなんじゃ、……ねぇよ」 そんな見かけにくせに、人の心を見透かすのが、何より得意だなんて。 「ふぅん。……じゃあ、嫌いじゃない?」 「……」 立ち上がる。 怪訝そうに見下ろしても、ピカチュウは、何処吹く風で見上げてくる。 「……元からだよ。そんなの」 「……」 「……ちょっと、気にならなくなっただけだよ」 そう言った。 その時の自分が、精一杯告げられた、その言葉。 格好悪い。 ……言った直後に、そう思った。 リビングから、出た。 その足で、屋敷からも出る。 またあそこに行きたくなった。 あの、桜の。 「……好きじゃない? 嫌いじゃない?」 ぽつり。 「……じゃあ、嫌いなの? ……それとも、」 好き? ****** いなくなった。 「……あぁもう、何でこの街こんなに広いんだよっ!!」 ……いなくなった? 「落ち着いて下さい、皆さん。……落ち着かないと、 見つかるものを見落としますわ」 「でも、ゼルダ!! じゃあ、どこにいるかわかるの!?」 「そうじゃないですけど、……でも……」 「くそっ……、……何、考えてるんだ……!!」 それから、いなくなった。 急に。 あの場所から帰って来る時、 開いてる窓からカーテンが覗いて、 あぁ、窓閉め忘れてるなぁ、と思った。 いっそ、そのまま風邪でもひいてしまえと、 そんなことも思った。 別に、やましい気持ちも無く、 なんとなく。 よく、窓から抜け出した。 そこそこの高さの木のてっぺんまで飛び降りて、 そのまま地面に。 この屋敷に住んでるものなら、そんなこと造作も無い。 女の人だろうが、子供だろうが、 男なら、言わずもがな、だ。 大概そんなことやるのは、 やんちゃで無鉄砲な子供か、 玄関まで遠回りをするのがめんどくさい、 自分とか。 あの人はめったにやらなかった。 だから。 あんな身体で、抜け出すなんて、思わなかったんだ。 ****** 桜が、呼んでる。 おいで。 おいで。 行くと、誰か、いる。 背を向けて立ってる。 それが誰か、 自分も、よく知ってる。 おいで、 おいで、 こっちへ。 そう、呼んでる。 声じゃない。 でも、呼んでる。 間違いなく。 近づく。 すぐ、近くまで。 手が届きそうで、だから伸ばす。 今まで何してたんだよ。 今までどこいたんだよ。 あんたでも、みんなに、こーいう面倒かけるんだな。 ふっと笑って、腕に触れる。 その時の自分は、ひどくおだやかな気持ちだった。 その人が振り向く。 「……」 藍い瞳が、うつろに見つめてる。 ……見つめてる、と言うのだろうか。 「……」 ふわりと、その人が倒れた。 どさ、と音がたつ。 細い身体が、ガラスの人形みたいに、きれいで。 たおやかな腕が、無造作に放り出された。 青い髪が、シーツの上で見るみたいに、散らばってる。 「……、」 その姿を追った直後、 その人は、いなくなった。 風の音と一緒に。 ざぁ、て。 「……!!」 どういうわけだか、声が出ない。 その人の身体があった場所には、 無数の桜の花びらが散らばっていた。 ****** 「……!!」 そこで、目を覚ました。 今のは…… 「……ゆ……め……?」 夢。 今のが、夢? 「……そんな……」 部屋を、見渡す。 今日で彼が見つからなければ、今日は、彼がいなくなって、四日目となる。 がばっと毛布を捲り、スプリングを利かせてベッドから降りた。 慌てて着替える。 まわりの迷惑も考えずに、音をたてて廊下を走り、階段を下りる。 「 ばんっ、と、リビングの扉を荒々しく開けた。 中にいたリンクが、驚いて自分を見た。 「……お、おはよう、ロイ。……珍しいな、こんな……朝早くに」 「リ、リンク……」 中を見渡しても、彼の姿は見当たらない。 「……早く……て、……何時だ? 今」 「……六時だけど」 「……六時……」 ひどく、不安にかられる。 鼓動が、早まっている。 窓の外を見た。 真っ白で、何も見えない。 「……寒いな、今日は……」 「……」 「……霧のせいかな。……早く、あったかくなるといいんだけど」 「……」 真っ白い世界。 その空気は、ひどく冷たい。 「……あの人、は……」 「ん? ……何か言ったか?」 「……見つけなきゃ……!」 「……え……、」 窓を、乱暴に開け放つ。 玄関になんて、回っていられない。 庭を突っ切ってった方が、早い。 「お、おい! ロイ!?」 声に追われた。 気にしてなんて、いられなかった。 朝の冷たい空気が、まとわりつく。 呼んでる。 桜が、呼んでる。 「……何なんだ、一体……」 呼んでる。 桜が、呼んでる。 声じゃない。 でも、こんなにはっきり。 胸の鼓動が、早まってる。 早く、早く。 桜の、その。 「……あー、寒っ……」 小言を漏らしながら、リンクは窓を閉めた。 ****** おいで。 おいで。 さあ、早く。 夢にならないうちに。 さあ。 ****** 「……ッ……、」 朝の公園には、誰もいない。 その代わりに、白い霧が、辺りを全部包み込んでいた。 「……あっちだ……!!」 ここ最近、向かっていた方も、この霧の中じゃよくわからない。 それでも、こっちだとわかる。 そっちの方に、向かった。 息もあがっていたし、胸も苦しかったけど。 俺なんかより。 「……」 霧の中を、必死に走った。 草を掻き分ける音がする。 自分が起こす、静寂を切り裂く音達。 あの、桜の。 桜の、その。 「……」 広い、場所に出た。 そんな、気がした。 ゆっくり、ゆっくりと近づく。 呼ぶ声のする方へ。 声じゃないけど、確かに聞こえる。 おかしくなってしまったのだろうか、俺は。 そんなの ゆっくり、ゆっくりと近づく。 白い世界が、だんだんぼんやりと、 向こう側が、だんだんぼんやりと、 見えてきた。 何も無い草原。 そこだけ違う空間みたいに、音のしない。 聞こえるのは、風の音。 それにともなって聞こえる、桜の声。 「……」 誰かが、いるのが見えた。 立ってない。 ……倒れてる。 「……マルス……」 ゆっくり、ゆっくりと近づく。 彼である保障も、確信も無いのに。 ぼんやりとした空間が、 見えてきた。 一本の、桜の木。 満開の、たくさんの花びら。 くるくる回っておちた、草の上の。 その中に寝ている、一人の。 「……マルス……」 腕を、のばして。 「……」 仰向けに、倒れて。 花びらに、うずもれるように。花びらに、抱かれて。 瞳を、閉じて。 シーツの上で見るように、青い髪が、散らばっている。 白い、肌の上を。 無造作に放り出された、たおやかな腕を。 花びらが、散らばって。 「……ッ……!!」 目を見開き、駆け寄る。 その傍に座り、肩を抱え、慌てて抱き起こした。 「……マルス!!」 どのくらいぶりかの、彼の名前を。 できるかぎりの声で、呼んだ。 何度も、何度も。 肩を揺すって、長い睫毛の、閉じられた瞳の前で。 「マルス、マルスッッ!!」 冷たい。 気のせい、 肌が異常に白かった。 青白いと、言えるかもしれない。 冷たい。 支えるその肩が、異常に。 掴んだところから、凍っていきそうだった。 胸も、全然上下しているように見えない。 息は、しているのだろうか。 「……!! ……マルス、マルスッ!!」 呼んでる。 桜が。 好きじゃない、嫌いじゃない。 嫌い、好き。 桜が、呼んでる。 自分を。 心の奥を、見透かすように。 「マルス!! マルス、マルスッ…… 「……、……ん……」 ぴくん、と。 肩が、動いた。 「!!」 「……、……。……僕……は、」 微かに、掠れた声が聞こえた。 慌てて、顔を覗き込む。 藍い瞳が、自分を視界に入れた。 「……ロイ……?」 「……、」 「……どう、……して」 「……マルス……ッ!!」 何の遠慮も無しに、 自分の腕で、 彼を、ぎゅう、と抱きしめた。 冷たかった。 ……氷なんかよりも、遥かに。 「……ロイ?」 「……マルス……、……マルスッ……」 「……どうして……、……どうしたんだ?」 「……どうした、……じゃねぇだろっ……!?」 言って、急に愛しさが込み上げてきた。 抱きしめる腕に、力を込める。 彼の身体が折れてしまっても、構わないと思った。 抱きしめたかった。 気の済むまで。 「……こんな……、どうして、こんなとこ……こんな、今まで何処いたんだよっ……!」 「……」 「……こんな……、……身体、冷たくしてッ……」 「……ロイ、……いた……い、……放せ」 「……やだよ。……絶対、放さないから」 「……そんなに、言うことでもないだろ……」 「……俺にとっちゃ、相当重要なんだよっ……」 顔が、泣きそうに歪むのを、隠したかった。 肩を抱えて、顔が見えないように、唇を半ば無理矢理に重ねる。 ……どれくらいぶりだろう。 この体温も、何もかも。 「……っん、……」 「……、……どこ……、……行ってたんだよ……」 すぐに離れて、 訊ねる。 どこに行ってたか、なんてどうでもいい。 問題は、その真意だ。 どんな理由で、何の理由で、『どこか』へ行っていたのか。 「……行くなよ、……いきなり、いなくなったりすんなよ……」 「……」 「……嘘……だから、あんなの」 ただ、いつもの意地を張っていただけなんだ。 あんたが、俺を見てくれてないのが、なんとなく悔しくて。 癪にさわって。 俺は、こんなに思ってるのに。 あんたは俺と同じくらい、俺を思ってくれてない? 理不尽な、わがままだ。 ただの。 好きじゃない、なんて言ってみたのも、 頭のいいあんたなら、わかってくれると思ったからなんだ。 ちょっと、困らせてみたかったんだ。 ……嫌いだなんて、言わないから。 頭の中で浮かんでは消える、自分の確かな思いと、苦し紛れの言い訳。 「……だから……」 「……」 冷たい身体を抱き寄せる。 強く強く。 声が震えるのを必死で抑えて、彼の肩口に顔をうずめる。 唇で触れた肌は、やっぱり冷たい。 「……別に、……特に、理由があったわけじゃないけど……」 「……?」 「……同じ、……だよ。……困らせてやろうと思った」 腕の中で、彼が笑った気がした。 ……腕の力を緩め、彼の顔を覗き込む。 「……悔しかったんだ……。……だったら、僕がいなくても平気だろう、て……。 ……自分の“世界”に帰ってた。……それで」 「……」 「……昨日の夜、ここを通ったら、魔物に襲われたんだよ。 珍しいことだったから、驚いて……」 「……」 「……倒した後で、疲れて、ちょっと寝ようかなって……、」 「……寝ようかな、て……。 ……ここで、……?」 「……そうだけど」 それ以外に何がある、と言った目で、見つめられた。 ……怒りと、呆れと。 何が何やらわからない気持ちで、見つめ返す。 「……ば……、っかだろ、マルス!」 「……え」 「春だっつっても、まだ夜寒いだろーッ!! なのに、そんな……っ。 ……あぁもう、だからこんなに冷たいんだな、マルスっ!」 がば、と、半ば抱きつくように抱きしめる。 背中や腕を、かなり乱暴にさすってやった。 覗く白い首筋に唇を押し付け、そこが、熱を持つように、と。 そこから、身体全体があったまってくれればいいのに。 そんなこと、なるわけがないけど。 「ッ……、ちょ……っと、……ロイッ……」 「何? マルスが悪いんだろ、……こんな、心配かけてッ」 「……。……うん、そうだな。 ……ごめん」 「……へ……」 間の抜けた声で返すと、マルスが苦笑混じりの顔を返した。 思わず、目を合わせる。 桜の花びらが、くるくるまわる。 落ちて、そこだけ、やわらかく。 「……あ……、……そ、の、」 「……何だ?」 「……ごめ、……ん……」 「……ああ」 さらりと、頬に冷たい何かが触れた。 マルスの青い髪が、触れていた。 静かに、目を閉じて、やわらかく笑っている。 「……あったかいな、……ロイは」 「……」 桜が、見ている。 心の奥底を、見透かすように。 一本の桜の木の下で。 また、かけがえのない、思い出と、愛しさが生まれる。 かかっていた霧はすっかり晴れていて、 上には、青空が広がっていた。 サイトを作ろうなんて考えもしていなかった頃、 桜が待ち遠しかった二月の終わりに書いたもの。……だった気がします。 ぱーっと構想が浮かんで、ぱーっと書いて、 珍しく、思っていたのと寸分も違わず書けた……のでした。当時は。 こういう、地に足が着かない感じの変な文体が、楽なのです。 内容については触れないことにしておきます…… |