夏祭り






人が、それぞれの思惑通りに流れていく。どこかから、笛と鼓の音が聞こえる。
流されてしまわないように気をつけながら、マルスは、ロイが帰ってくるのを待っている。

……が、いつまで経っても、ロイが帰ってこない。

「……」

何かあったのだろうか   と最初のうちは心配していたマルスだったが、
時間が経つにつれ、段々腹が立ってきた。
犬でも「待て」と言えば待っていられるのに、犬以下かあのバカは、なんて思ったり、
確かに遅くなった自分も悪かったけど、……なんても思う。

「……追いかけた方が……良かったのかな」

手の中のりんご飴を握り締める。
割り箸は四角い形をしているので、握ると少し痛い。

「……いつも、無駄に僕の近くにいるくせに……」

どうしてこんな時に限って、目の前から姿を消すのだと。
悪態をついても、それでもロイは現れない。

暇潰しにと、りんご飴の袋を剥いで、一口かじった。
思っていたよりも甘かった。


「……マルスさん?」
「……?」

ロイの声ではなかったが     名前を呼ばれた。
振り向くと、見知った顔が、二つ。……同じ柄の浴衣を着た、ポポとナナだった。

「ポポ……、……ナナ」

当たり前のように仲良く寄り添う二人が、少し羨ましかった。
そんなマルスの心の中なんて知るわけもないポポが、少し驚いた顔で言う。

「やっぱりマルスさんだ。……ピンク色なんて着てるから、人違いだと思ったよ。
 一人で来たんですか?」
「いや……。……ロイと来てたんだけど、はぐれちゃって」
「はぐれたの? どこか、待ち合わせとかした?」
「……してない、な。……というか、はぐれたって言うよりは、
 あいつが勝手にどこかに行った、ていう方が正しい」

事のあらましを大分簡単に話すマルス。
その大体を理解したポポとナナは、一度顔を見合わせると、言った。

「マルスさん、……もしかしたら、ロイがいるかもしれない場所があるんだけど」
「……え?」

今度は、マルスが驚く番だった。

「ロイがどこにいるか……知ってるのか?」
「うーん、知ってるって言うか……もうすぐ、花火が上がるからね。
 毎年皆で見てるらしいじゃない。だから、そこに行けば、もうロイ君もいるかもって」
「……」

りんご飴を持ったまま、しばらく考える。
確かに、迷子をどこかに送りに行ったにしては、遅すぎるような気もする。
帰ってくる途中で誰か……例えばフォックスとかに会ったとか。
それで、花火を見る場所に行ってるとか。
……でも、自分を置いて?

「……」
「どうする?」

小さく、ポポとナナにばれないように、溜息をつく。
   もう、考えるのも、待つのも探すのも、億劫だった。

「……連れて行ってくれるか? ……その、花火を見る場所に」

苦笑を漏らしながら言う。

ポポとナナは、じゃあついてきて、と言いながら、二人で並んで歩き出した。
その後ろを、マルスが黙ってついていく。

適当にかじり続けたりんご飴は、気づいたら半分になっていた。


着いた場所は、川原だった。



   ****** ******



「……あ、ねえ来たよ最後の三人!! ポポ、ナナーッ、マルス!!」

川原の一箇所に大きな敷物を敷いて、スマデラ屋敷の一行は、そこに固まっていた。
親父やら美女やらポケモンやら恐竜やらいるせいで、とにかく目立つ。
水色の浴衣を着たネスが、歩いてくる三人を見つけ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、
大きく手を振っている。
ナナは手を振って答え、ポポは笑いかけた。

敷物の側にある柳の木に寄りかかっているロイを見つけ   マルスは、表情を強張らせた。

丁度同じ瞬間に、ロイがマルスを見つける。
柳の木から身体を起こし、ロイがマルスをそのまま見つめた。

「……マルス、」
「……」

居た堪れない顔をしたロイを直視することができなかった。
ロイから視線を逸らしたまま、それでも、ロイの近くに行った。

「……マルス、……あの、」
「……知ってるよ。……迷子を、どこかに送ってやってたんだろ?」
「……。……そう……なんだけど、……その……」

物言いが、つい冷たくなってしまう。
耳を垂れた子犬のように落ち込んだロイが、マルスの隣で立ち止まり、マルスを覗き込んだ。
……視線が、どうしても合ってしまう。

「……ごめん」
「……」
「……その子を送っていった途中で、カービィに会ってさ……、
 ……もうすぐ花火だよって、それで、マルス迎えに行こうとしたんだけど、
 ポポとナナがさっき、マルスのいる方に向かったよって……」
「……別に、いいよ」
「……でも」
「……いいから、……別に、怒ってないよ」
「……嘘ばっかし……」

ぼそ、と本音を言う。
マルスに鋭く睨まれて慌てて口を押さえるが、マルスの顔は仏頂面のまま。
美人が台無しだ……なんて冗談も言えない。
あながち冗談ではないが。

「……本当、……ごめん。」
「……」

ロイが、マルスの浴衣の袖を軽く引っ張る。
マルスはそれを一瞥すると、さりげなくロイの手を払いのけた。
驚いた顔をするロイ。

「……僕は……、」

マルスが何か言うために、口を開いた。

   その時。


「……あ……、」



ドォンッ         ……


……耳をつんざく、大きな音が空いっぱいに響く。
何事かと空を見てみると、

「……」
「……うわ……、」


   大きな花火が、夜の空に美しく上がっていた。

「……」
「わぁー……っ、すごいすごい、きれいきれいーっっ!!」
「綺麗だねぇー……」

ヒュウウゥ、と掠れた音が、次々に聞こえ、
大きな花が破裂する音が、同じ数、……それ以上聞こえる。

紅、翠、青、金。
色んな色が、続けざまに上がっていく。
たくさんの色が黒い空を彩るたびに、まわりからは歓声と、感嘆の声が上がる。
ゆらめく川に、花火が映る。

   ずっと、それを見続ける。



「……」
「……置いていかれたかと思ったんだ……、」

大きな音に混じって、マルスが呟く。

「……え?」

そのかすかな声を拾い、ロイはマルスの方を向いた。
白い肌が、上がる花火の色に合わせて、次々に色を変えていく。

「……偶然が重なったんだ。だろ? ……だから、怒ったりはしないけど」
「……」
「……もう、二度と……置いていったり、……するなよ」

ぽつり、ぽつりとマルスが告げた言葉。
……はっきり言って信じられなくて。思わず、目を大きく見開いた。

「……マルス……」
「勘違いするな。……お前がどっかに行くと……、余計な心配しなきゃいけないから……」
「……」

花火を見続け、マルスが言う。
何でもなさそうな顔をしているくせに、声は心なしか震えていた。

ロイの顔が、ほころぶ。
その顔に、満面の笑みを浮かべて。

「……心配してくれるんだ、へぇー」
「……」
「ありがと。……うん、もう、置いていったりしないよ」
「……」
「……なぁマルス、それ一口貰っていい?」
「……別に、いいけど」

マルスの両手に握られたままの、りんご飴。
食べかけだよ、とマルスが言うと、別にいいよ、とロイは言った。

マルスの手を両手で取って、反対側から一口かじる。

「……あんまりおいしくないな、コレ」
「そうか? ……僕は結構好きだけど」


用意された分だけの花火が終わるまで、それからずっと、何も喋らない。

夜空に次々と咲く花を、周りの歓声に囲まれながら、並んで見ていた。










エンディングは3つ、これはその中の1つです。
進み方によっては、教えられた場所とは違う場所で花火を見た、
……なんていう方がいるかもしれませんね。
ロイマル要素よりリンマル要素の方が強かったんじゃあ、なんていうこともあるかもしれません。
……私の力不足です。すみません。
一応、どこに跳んでも話は通じるよう設定したはずなんですが……どうなるでしょうか。

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