夏祭り
笛の音、鼓の音が、神社に響く。
慣れない下駄、慣れない浴衣、得意とは言えない人込みの中を、
マルスは少し早めに歩く。
目的は一つ、ロイを見つける為、それだけ。
「……ロイ……、」
手には、りんご飴をしっかりと握って。
マルスが神社に来たころより、人は遥かに多くなっていた。
ああ、そういえば、花火がどうこうとか言ってた気がする。
その所為か と、自己完結した。
あの赤い髪と、青い浴衣を探す。
人の間をくぐって、
石段の鳥居の距離を確かめて、
「お姉さん、一人?」 ……なーんて声をかけてくるどっかの兄ちゃん達を蹴り飛ばして、
マルスは、教えられた、石段の方を目指す。
空はすっかり、夜の色に覆われていた。
提灯の灯りが、ぼんやりと空を明るく照らす。
鳥居が、もうほとんど目の前にせまってきたころ。
……マルスは、人込みの中で立ち止まっていた。
「……、」
すっかり暗闇に覆われた今、花火大会がもうじき始まるのだ。
そのせいで、人はぞくぞくと詰めかけ、
自分の進行方向と反対側に流れる人込みの中で、立ち往生。
そんなわけだ。
「……もう少し、……なのにっ……」
恨みがましく鳥居を睨んでも、何の解決にもならない。
手の中のりんご飴を、わけなく握り締める。
「……ロイ、」
ふ、と口から出たのは、探す彼の名前。
……彼が、答えてくれることを願って。
「……ロイ、いるのか? ロイ、……ロイ!!」
笛の音、鼓の音に掻き消されないように、必死で叫ぶ。
人の波に逆らって、立ち止まったりなんてしてたから、華奢な身体は、倒れそうになった。
「……っ!!」
その瞬間だ、
「 マルスッッ!!」
急に手首を掴まれて 引き寄せられたのは。
******
「……っはー……良かった、見つけたぁ……」
「……ロイ……」
肩で息をしながら、疲れた笑みを浮かべるロイ。
ロイは、鳥居の柱に背中をあずけ、引き寄せたマルスの身体を抱きしめていた。
ロイの腕の中で、マルスはただ、驚いている。
声が、届いたのだろうか。
「……ロイ、」
「……ごめん……、マルス、人込み苦手なのに。……探してくれたんだな……」
「……」
「……迷子の女の子を……さ、送りに来たんだ、ここまで。
で、戻ろうと思ったら、マルスの声が聞こえて……、……、……マルス?」
反応の無いマルス。
マルスの肩を軽く押して、マルスの顔を覗きこむ。
「……」
泣いてた、……わけじゃない。
でも今のマルスは、何だか、泣きそうな顔をしていた。
「……マルス……、」
「……見つけて、くれた……のか……」
「……? ……うん、……そうだよ」
「……こんな人込みだったのに」
「……マルスだったら、どこにいても見つけるって」
「……ごめん……、」
マルスが、ロイの身体に寄りかかった。
マルスがこういう行動をとるのは、かなり珍しかった。
「……なんで、マルスが謝るんだよ」
「……、……少し……不安だったから……、」
「……不安?」
「……置いて、いかれたかと思ったんだ……」
ぽつ、ぽつとマルスは告げる。
ロイは、マルスの髪を、あやすように軽く撫でながら、それを聞く。
そして、思わず苦笑が漏れた。
「……置いていったりしないよ。……俺、マルスのこと好きだから」
「……」
「……ごめん。……勝手にいなくなって」
「……ああ……、」
マルスが、身体をゆっくりと起こす。
ちょうど、ロイと見つめ合っているようなかたちになった。
それが今更気恥ずかしくなって、慌てて視線を、手の中のりんご飴にずらす。
ロイも同じように、りんご飴に目を向けた。
「ふぅん……、見てみると、結構おいしそーだな、それ」
「食べるか?」
「いや……、……あー、どうしよ。じゃあ、マルスが食べてから」
「……わかった」
くす、と軽くロイに微笑みかける。
流石のロイも、人のものを貰うのに、最初の一口を貰うのは何かあれだなぁ、などと思うらしい。
何だよそのカオ、とロイが面白くなさそうに言う中で、
マルスはりんご飴の袋を取る。
一口目をかじった。
思っていたよりも、ずっと甘かった。
「……前から言ってるだろ。……あんまり、食べてるところを見るな」
「他にどこ見てろっつんだよ」
「……空でも提灯でも鳥居でも何でも」
ロイから視線を逸らし、二口目。
二口目を口の中に入れたまま、マルスは手に持ったりんご飴を、ロイに差し出した。
言葉にはしないが、一口いるだろ? ということらしい。
ロイが、ありがとう、と言いかける。
それは、一瞬の攻防。
「……っ……?」
差し出された手ごと、ロイは引っ張った。
ぐらついた身体を支え、 ついでに、唇を重ねる。
りんご飴を持つ手が、少しだけ震える。
「……っん……ッ、」
閉じていた唇を無理矢理こじ開け、ロイの舌が、マルスの口の中に侵入する。
何か、味を確かめるかのように、口内を丹念に探り、
マルスの口の中にあった、りんご飴のかけらを取り去って、
すぐに放した。
「っは……、」
「……ん、ゴチソウサマ」
途端、口を手で押さえ、真っ赤な顔をするマルス。
してやったり、な顔で、ロイが笑う。
「なっ……、……ロイッ、こ、んなとこでッ……!!」
「大丈夫だよ、誰も見てないって。祭りなんだしさ」
にぱ、と快活に笑うロイ。
……反論する気にも、逆らう気にもなれなかった。
掴まれたままの手首が、少しだけ、熱い。
『 まもなく、花火大会が行われます。会場のご案内を ……』
「……花火……、」
二人を引き戻したのは、神社という場所には不似合いな、こんなアナウンスだった。
二人揃って、顔を見合わせる。
「……そうだ! そーいえば何か、花火がどうこうとか言ってたな、マリオさん!
なあマルス、俺場所聞き忘れたんだけど……、どこか知ってるか?」
「え……? ……花火の場所……、」
花火を見る場所、知ってますか?
→知ってる:http://haruka.saiin.net/~silversnow/smbr/nov08/********.html
「********」の部分に、その場所をローマ字で入れて下さい。
→知らない:http://haruka.saiin.net/~silversnow/smbr/nov08/shiranai.html
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