086:だらだら




「…マルスー?」

シーツの上から、ゆさゆさと身体を揺する。
ついさっきまでうるさく鳴っていた目覚まし時計は、耳障りだから切ってしまった。

「マルスー、マルスってば! 朝だぞーっ」
「……ん…、」

耳元で大声を出しても、マルスは一向に瞼を開けようとしない。
それどころか、一層深くシーツを被って、ごろんと寝返りをうつ。
きっぱりと背中を向けられ、ロイは面白くなさそうに顔をしかめた。
ますますムキになり、ロイはマルスの身体を揺する。

「おい、マルス! …マールースーッ!!」
「…ロイ……、……?」

ようやっとぼんやりとした声が聞こえたかと思うと、
マルスは薄く開いた瞳を、また閉じてしまった。

「マルスッ!! 折角起きたのに何また寝てんだよ!!」
「………」
「…マルスってばっ、さっさと起きねーと、カービィに朝メシ取られるぞ!!」
「………うるさい…、」
「うるさくて悪かったなー。…ほら起きろって!!」

強行手段に出ることにしたらしい、マルスの被ってるシーツの裾を引っ掴み、
思いッ切り引っ張ってシーツを引きずり出す。
ぶわさぁあっっ、とマントのように広がる白いシーツ。
シーツのぬくもりを奪われたマルスが、少しだけ寒そうに、身じろいだ。

ちょっとかわいそうとも思うが、ここで引いたら負けだ。
普段そこそこ寝起きが良いだけに、たまに二度寝をすると、お昼過ぎまで起きてこない。

肩を掴み、再びゆさゆさと揺する。
顔を近づけ、大きな声で、何度も名前を呼んだ。

「マルスー、マルスーッ!? 起ーきーろーっっ!!」
「……んー…」

ごろん、と寝返りをうった後で、マルスは右手で、閉じたままの瞼をこする。
長い攻防戦の末、ようやく起きてきそうだ。
が、最後まで油断は禁物。
ロイはマルスの右手首を掴むと、マルスの上半身を引っ張り起こした。
反動で前に倒れ込む身体を、やんわりと手で支える。
寝起きでぼーっとしているらしい、マルスの顔を覗きこんだ。

「………」
「起きてる?」
「………」
「……。…起・き・ろーっっ!!」
「………、」

うつらうつらと、マルスがいかにも重たそうに瞼を開ける。
藍い瞳は、まだ眠そうだ。
マルスがここまで気の抜けた表情を見せるのはかなり珍しく、
ああ可愛いなぁ、なんて呑気なことを思っちゃったりもしたが。

「マルス。おはよう」
「………ロイ…、」

下を向いたままのマルスの目の前で、ひらひらと手を振るロイ。
マルスはその手をぼーっと見つめた後で、ゆっくりと視線を動かした。
ようやく、ロイと視線が合う。

が。

「………、」
「…って、マルス!? マルスってっ…、」

また、ふっと目を閉じてしまうマルス。
咎めようと、口を開きかけたところで、

「……っっ…!?」

ロイは、ぴた、と喋るのをやめた。

「……眠い…」

…マルスが、ロイの肩に、ことん、と頭を置いた。
普段のマルスじゃあ、天地がひっくり返っても、間違っても絶対やらないであろう行動。

「…ちょ…、…ね、寝ぼけてんだろあんた!! 起きっ…」
「……後5分〜…」
「……う…。…い、いいから起きろってマルス!! 朝メシ食えなくな…」

「……………何やってんの、ロイさん」

寝ぼけているとはいえ、突拍子も無い行動に、珍しくあたふたと慌てるロイ。
それでもちゃっかりマルスの身体を抱きしめながらおろおろしていたところに、
爽やかな朝から冷え切った声が聞こえた。

驚いて振り向くと   そこにいたのは、明らかに軽蔑の眼差しを向けている、
黄色い、愛らしい電気ねずみ。

「ピカチュウ…!?」
「…遅いなぁーって思って来たんだけどさぁ…、……こんなことになってるなんてねぇ」
「…! ち、違っ、誤解だソレ!!」
「……寝込みを襲ったようにしか見えないよ、ロイさん。
 どーせロイさんのコトだから、そんなとこでしょ?
 出なきゃマルスさんが、ロイさんに抱きしめられて大人しくしてると思えない」
「違う!!! 誤解だって、これはマルスが寝ぼけてっ…」
「…確か一週間前も、おんなじこと言ってたねぇ…」

一週間前。
…その時は確か、マジで寝込みを襲ったんだった。
眠ってるマルスが妙に可愛くって、つい。
若いっていいねぇ。

「………!!」
「…じゃあ、朝ゴハンは持ってくるから。
 ……あんまり、無理させちゃかわいそうだよ?」

ピカチュウはさらりとそんなことを言ってのけると、
さっさと部屋から出ていった。
気を使ったのかただの冷やかしなのか、きっちりと扉を閉めて。

「………」
「………」
「……! あ、おいマルス!! あんた何でまた寝てんだ、こら!!」

ピカチュウにすっかり気を取られている間に、
長い攻防戦が、水の泡になってしまった。

「マルス、…マルスーッッ!? 寝るなって、起きろーっ!!」
「………」
「マルスってば、……マルスっっ!!」

腕の中で穏やかに寝息をたてているマルスに、ただひたすら怒鳴り続けるロイ。

ロイの苦労なんてまったく知ろうともせず、
マルスは相変わらず、再び手に入れたぬくもりの中で、気持ち良さそうに眠っている。



だらだらいちゃいちゃ。…ラブラブです…か?
寝ぼけているとはいえ、振り回されるロイというのはどないなものかと思いまして。
でもロイマルです。ロイマル。