048:独り言
「………あ」
「………っ」
リビングを出ようと、ドアをくぐったのと同時に、
リビングに入ろうと、ドアをくぐった人の、細い腕を捕まえた。
「………」
「…ロイ?」
見慣れた青い髪が見えたから、思わず手が出ていたけれど、
さて、これからどうしたものだろう。
別に彼に用事があるわけでもなければ、自分は特に急いでいるわけでもない。
とりあえず腕は掴んだまま、あれこれ考えていると、
怪訝そうに、彼が見下ろした。じろ、と睨んでくる。
「…ロイ」
「え。…あ、ゴメン」
「僕に、何か用事か?」
「いやー? 何でもないんだけどさ。
マルスが見えたから、ちょっと捕まえてみたくなっただけv」
「……。…バカか」
うっとうしそうに腕を振り解くと、彼ははあ、と溜息をついた。
そんな仕草を見、子供めいて笑う。
「バカ、はないだろバカはー。
俺だって、これでも色々考えて…」
彼の肩をぽんぽんと叩き、
ふ、と何気なく、彼を見上げた。
「………」
自分よりずっと高い位置にある横顔。
手を置いた、肩の位置。
深く考えずにのんびりと笑っていたその顔から、
すっと表情が消える。
「…マルス」
「? 何だ?」
自分の足元に目を落としたまま、彼の目を見ずに、問う。
「…マルスさ、身長、いくつくらいだっけ?」
「は? …身長? …最近測ってないからわからないけど…。
……百七十……二、くらいじゃなかったっけ…」
「…172センチ? …へえ…」
彼の肩に置いていた手を、彼に気づかれないように、
自分の額、少し上の辺りに動かした。
自分の背丈と、彼の肩の位置とを確かめて、
にっ、と、口の端を上げる。
「……後、10センチ」
「…え?」
自分だけに聞こえるように、口の中でぼそっと呟いた。
「…何か、言ったか? ロイ」
「ん? ああ、いや? 別に何も」
彼の肩を、ぽんぽんと叩く。
やたらと嬉しそうな自分の顔を、彼は少し不思議そうな目で見たけれど、
やがてその手を払った。
何か、紙袋 多分、新しい本でも買ってきたのだろう を持って、
リビングの奥、ソファーまで歩いていく。
「…いつか、」
その、背の高い後姿を見送って、また、呟いた。
「…追いついて、追い越して、メロメロにさせてやんだからな」
歌うように、また。
上機嫌に笑いながら、リビングを出る。
「…覚悟しとけよ!!」
誰に聞かせたいというわけでもなく、高らかに言った。
その、見下ろす角度とか、嫌いではないけれど。
可能性は、ゼロじゃない。
…たぶん。
書いていたようで書いてなかったネタ。
ロイ様はその身長の低さが売りですが(違います)、
まあたまには伸びてみたりもするんだよということです(笑)