043:確信犯




人の気持ちは、量(はか)ることも、完全に理解することも、できないと思う。



「……悪いかよ、」
「悪いなんて言ってないだろ? …そんなに怒らなくても」

ベッドに腰掛け、クスクスと笑いながら、ロイを見上げるリンク。
人の悪い微笑みが気に喰わなくて、ロイはリンクを見た。


もちろん、誰が誰を好きになろうが、そんなの人の勝手で。
それ故に、「好きな人」が一緒になってしまうこともある。
そして、その人の一番近くに、隣にいたいから、
自分以外の誰かを蹴落としにかかるのも、当たり前の行動。
…なのかも、しれなくて。

人は人との間で、争いながら生きている。
誰かが幸福を手に入れれば、誰かが不幸に陥ってしまう。
自然界の法則だ。
奪って奪われ、勝って負けて。
些細なことでも   大げさなことでも。



「ただ、そこまで自信が持てて、凄いなって言っただけだろう?
 本当に自信があるんなら、オレなんかの言葉じゃ揺るがない」
「………」
「本当に守りきれる自信があるのか?
 アイツの居場所は、永遠にお前の隣だって   本当に思えるのか?」
「……黙れよ…、」

低い声が、感情を押し殺そうともせず、言葉を紡ぐ。
その、決して揺るがない碧の瞳に、殺気に似た怒気をたぎらせ、
ロイはリンクの、冷たい青い瞳を睨みつける。
リンクの顔から、微笑みが消えた。無表情にも似た、冷たい表情。

「…俺はあの人が大事だ。他の、誰よりも」
「それは、オレも一緒だよ」
「…あの人も…、俺が好きだって言った。
 そこは…そこだけは、お前とは違うよな?」
「……。…だろう、な」


その方法は、例えば。

誰かをわざと煽ってみたり、弱味につけ込んでみたり。
「その人」を   自滅覚悟で傷つけてみたり。

自分以外の誰かが、傷つけばいい。
ほんの一瞬だけでも、優越感を得られれば。
それだけだ。
…それだけ。



「…俺は、あの人が大事だ。他の、誰よりも…。
 …あの人を壊そうとする奴は、許さない。容赦も情けもかけねえ」
「………」
「…お前があの人に、何を言ったかは知らない。
 …でも俺は…あの人が許しても、お前を許さない」
「………」


恋人という立場も、
親友という立場も、

等しく、ずるい立場だと思う。

その立場を利用して、いくらだって「その人」を傷つけることができる。
「その人」が自分を嫌わないのを知っているから、癒すことさえできる。



「俺は、あの人が大事だ。だから、あの人を壊そうとする奴は許さない。
 あの人を守る為なのなら、   死ぬこと以外はなんだってやる」
「………」


その選択が、間違ってるのか、間違ってないのか、知らない。


「……じゃあ、オレを殺してみろよ。オレはアイツの『親友』だぜ?
 アイツはオレを、『親友』だと言った。アイツを傷つけるのか?」
「………」
「……それとも、許さないだけか? …カッコ悪ぃ」
「……。…それは、お前も一緒だろ?」

二人の顔から、一切の表情が消える。
何が、どう喰い違ったのか。
どうして自分達は、こんな風に言い合っているのだろうか。

触れないようにしていた、認めたくない事実


「本当は…、あの人を傷つけるなんて、できないだろ。
 お前だって、本当は、俺と一緒のはずなんだから」
「………」
「…出来もしねーことを、口にするもんじゃねーぜ?」
「……お前もな」


似たもの同士だから、反発しあう

ちょっとした、こころざしの違いだけで。

「…せいぜい、大切なオヒメサマを攫われないようにするんだな。
 オレは、アイツが好きだ。
 アイツの隣にいたいのは、本当だからな」
「…わかってるよ。俺だって、あの人の気持ちを知りたいから、傍にいるんだ」

お互い、意地の悪い笑みを浮かべる。
瞳に、殺気のような感情を宿したままで。


「………」

ロイが、重い空気の支配する部屋から出て行く。
その背中を睨みつけたまま、リンクは深く溜息をついて   



たまにはダークな雰囲気のものも書こうかなと思いまして。
素晴らしくリンクが別人ですね…!!
ウチの子リンクが成長すると、きっとこんな人になります。