005:落ち葉




赤、黄色、茶色。
見上げた空は青く、その空を彩るように、木々の葉があざやかに色づいている。
秋が深くなるにつれ生命力が色褪せて、代わりに命の色を持つもの。
それとも葉が命の色を持つから、秋が深くなるのだろうか。

「あれがもみじで、」
「………」
「あれがイチョウで、」
「………」
「あ、向こうのあれは桜だね。桜、覚えてる?」

秋の香りの深い並木道を、ピカチュウはぽてぽてと歩いていた。
右隣に、彼の親友の半身を伴って。
ピカチュウの小さな歩幅に合わせながら、ゆっくりと歩くダークリンクは、
茶色に染まった桜の葉を見上げながら、ぽつりと答えた。

「……さくら…。……王子の…?」
「うん、そう。
 春はいいよねえ、桜のあるところに行けば、マルスさん、見つかるから」

探す手間が省けて良いよね。と、ピカチュウはあっさりと言う。
もっと楽なのは、適当にでまかせを言ってロイさんに全部任せちゃうことだけど、とも。
ピカチュウの言っていることの半分くらいは聞き流して、
ダークリンクは、並木道をぼんやりと眺めた。
赤、黄色、茶色。
青い空を彩る、秋の深い香り。

黒い服の上に、銀色の髪をさら、と流して。
ダークリンクは、尋ねる。

「…どうして…、」
「?」
「…どうして、いろが、変わるんだ?」
「え? ああ、色…。何でだったっけ。
 理由はもちろんあったと思うけど…。」

ピカチュウは、辺りをぐるりと見渡した後、うーん、と可愛らしく小首を傾げた。
夕焼け色のとんぼが二匹、目の前を横切って消えていった。

「何かね、前、マルスさんがそういう本、読んでたんだよな。
 おひさまが当たらなくなるから、葉っぱはいらなくなって、
 木がエイヨウを送らなくなって、色が変わる、とかなんとか…」
「………?」
「むずかしくて、ぜんぜん覚えてないんだけど。
 あ、でもね、僕が棲んでいた森ではね   

赤、黄色、茶色。
とりわけ目立つのは、赤い葉っぱ。
紅葉、という言葉があるくらいに。
赤い色が、秋を象徴する。

「僕達の中にもね、真っ赤な命が流れてるんだって」
「………」
「木はね、冬の寒いのが苦手で。
 だから、いきものの命を吸い取って、生きるんだって。
 命のあたたかさで、冬を越すんだって。
 だから冬は、寒さのせいで、たくさん命が無くなるんだって」
「………」

春はめざめ、夏は生命。
秋はみのり、冬は眠り。

「僕達、秋にはお祭りをするんだよ。
 すべての命を吸い取らないでくださいって、神様にお願いするんだ」
「かみさま…?」
「森は、僕達のすがたを隠してくれる、神様だから」

神様、また僕達を守ってくれますように、いくつかの命をあげるから。
だから、どうか、すべて奪わないで。

以前ピカチュウが、人間にはわからないことばで、そんな歌を歌っていた。

可愛らしい顔で、にっこりと。
ピカチュウは、笑う。

「だからね。
 葉っぱが赤いのは、いきものの命を吸い取っているから。
 守ってくれる神様のための、ささげものの色、だって」
「………」
「そういう、むかしばなし。
 マルスさんに聞いたら、本当のことがわかるよ。きっと」

帰ろうか。
ピカチュウはそう言って、おなじ顔でにっこりと笑った。
その顔をじっと見下ろして、
真っ赤な瞳で、ダークリンクは問う。

「…でも、」
「なあに?」
「…人間は…」
「お祭りはしないのに、滅びないだろう、って。
 そうだね、いいんじゃない、人間は。
 人間は、森を壊して、僕達を殺す、秋そのものだもの」

ダークリンクの顔も見ずに答えた、ピカチュウの声は。
いつもの変わりはしなかったけれど、氷のように冷たかった。
これは僕達のむかしばなし、だから、と。
きっぱりと、言って。

並木道の真ん中でくるんと身体の向きを変えて、ピカチュウは歩き出す。
屋敷へ帰るのだと理解して、ダークリンクは後を追う。
小さな歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩きながら、ダークリンクは。
後ろを振り向いて、道を見た。
果ての無い回廊のように、遠くまで、道の両脇には木が並ぶ。
赤、黄色、茶色。
夏までは確かに緑色だった葉を、面影の無い色に染め上げて。

「………」

ピカチュウの言ったことの、半分の意味もきっと、本当はわかってはいない。
だけど、ダークリンクは。
色づく葉を、空を彩る葉を、落ちて道に消えていく葉を、
赤い色を、見ながら。

確かに、綺麗だ、と。

そう思った。



でも確か、黄葉、っていう言葉もあるにはありますけど。

落ち葉を見て綺麗だなあ、と思うダークさんの成長記のはずだったんですが、
何か途中で路線を違えたみたいです。
読後感の悪い話で申し訳ありません〜。