002:空




「…空に、届いたらいいのにね」
「……は?」

リンクの頭の上で空を見上げるピカチュウが、ぽつりと呟く。
意識して言ったというよりは、思わず口にしてしまった、というような言い方だった。

「…あ、…うん、ごめん」
「……?」

だからピカチュウも、謝った。
聞かせる気は無かったらしい。

「…ごめん、ね…。……ちょっと思い出しちゃっただけなんだ」
「……。…そっか」

ピカチュウを頭の上から落とさないように、視線だけ、ゆっくりと空に上げる。
どこまでも広い、青く澄みきった空。
薄く伸びた白い雲が、風の流れを描いている。
その空は、ただ青く、青く   見ていれば吸い込まれそうな。

黒い蝶が、ピカチュウの少し上を飛んでいった。
ピカチュウの黒い目が、それを追った。

「……ねぇ、リンク…」
「ん? どうした?」
「……死んじゃったひとに、会いたいって、思ったことある?」
「………」

ピカチュウの目が、もう一度空を見上げる。
   その向こうに何を見ているのか、リンクさえも知らない。

少しだけ考えて、ふと、ピカチュウの表情が気になった。
何を見ているのかは知らないが、何を考えているのかは、大体わかる。


失ったものの記憶。
守りきれなかった記憶も。

「…実はさー、」
「……うん?」
「…そんなに大切な人を、なくしたこと、無いんだ。オレ」
「……ふぅん…」
「基本的に、皆助かってるんだよな。…あのさ、ピカチュウ」
「なぁに?」

今度はピカチュウが、リンクの顔を覗きこんだ。
頑張ってその小さな身体を前に持ってくるピカチュウの頭を、ぽん、と撫でる。

「……お前は…会いたいと思うのか?」
「………」
「……なくした、大切な誰かに…」
「………ううん、思わない」

もう一度ピカチュウの頭を撫でると、ピカチュウはそう、答えた。
思っていたよりもあっさり、答えは返ってきた。

「…だって会っても、きっと、ごめんなさいしか言えないから。
 …折角、あの子に会うのに、ごめんなさいしか言えないなんて、嫌だよ」
「………」
「…それにさ、リンク」
「…んー?」


頭にぺったりとくっついていた気配が消える。
ピカチュウが身体を乗り出して、また空を見上げていた。

どこまでも、どこまでも高い、広い青空。
どんなに高く身を乗り出しても、けっして届くことの無い。


「……そんなに簡単に会えちゃったら、きっと、無くすことが怖くなくなっちゃうよ。
 そしたら、強くもなれないし…、
 …強くなれなきゃ、また無くす。…でも無くすのは怖くないから、繰り返し」
「………」
「……いつだかね、誰か、言ってたんだ。
 『失くしたものは元には戻らない。だから余計に愛しくて、守ろうって思う』」
「………」
「……ねえ、でもね、リンク」
「………」

「無くしちゃうのはやっぱり怖いんだ。…あんな思い、二度としたくないから、
 …リンクは、強いままで、それで、…急にいなくなったりしちゃ、嫌だよ」
「………」
「…命張って守ってもらっても、嬉しくないんだからね」
「……ああ、」

リンクが、顔を上に上げる。
何の気遣いもなくそうしたせいで、ピカチュウが頭から落ちそうになった。
文句を言うピカチュウを慌てて拾い上げ、もう一度頭に乗せる。

ここが、彼らのベストポジション。

「…わかってるよ」
「……ん。」


いつものように、芯の強い微笑みで返事を返すと、
リンクはまた、歩き出す。頭に、ピカチュウを乗せて。


「…でもね、リンク」
「何だ?」
「…やっぱりね、会いたい」
「…そう、だろうな。…でなきゃ、空を見上げたりはしないもんな…」


地上にいるうちはきっと永遠に届かない、あまりにも高すぎる、空の下。



これだけじゃ、何が何だかサッパリですねぇ…(汗)ごめんなさい…。
リンクとピカチュウのなれそめ話、実は事細かに決まってたりします。
オリジナル色満載過ぎなので、出そうかどうか迷っているところです。…嗚呼。