○ 二つの剣 ○
「……だああぁっっ!!」
「っと、まだまだっ!!」
東区の公園の奥は、小高い丘になっていた。
青い空。薄く伸びた白い雲に、穏やかな風。そして、ざわめく風。
丘の頂上では一本の樹が、ゆったりと枝を広げており、
涼しい木陰と、綺麗な木洩れ日を作ってくれている。
ゆえに丘公園と呼ばれているこの場所は、青い王子のお気に入りの場所だった。
そんな、穏やかな場所で、今は。
読書会と剣の手合いとが、同時に行われていた。
「……そこだ!」
「わっ、……っくそ、やらせるかっ!!」
真剣を持ち合って、闘志をぶつけあっている、ロイとリンク。
そこから少し離れた、丘の頂上、樹に寄りかかって、
ロイの愛しい恋人と、リンクの小さな親友が、和やかに読書をしていた。
平和で、穏やかで、とても優しい時間。
リンクの反撃をぎりぎりで回避し、ロイはリンクに斬りかかる。
「はあッ!!」
「……はあぁっ!!」
威勢の良い掛け声、風を切る音。
そして。
ギィン 、と、高い高い音が、辺りを支配した。
「……っ!!」
「……良し、486連勝」
草原に、仰向けに倒れるロイの顔の横に、リンクは自分の剣を突き刺した。
呆然と見上げるロイに、リンクは勝気に笑ってみせる。
遠くから、ぱちぱちと、二人ぶんの拍手が届くと、
リンクはそちらを向いて、今度はやわらかく、苦笑した。
やがて、拍手がやんだころ。
リンクはロイに、自然な動作で手を差し出す。
「……あー、くそ。また負けた」
「でも、斬り返しは良かったぞ」
悔しそうに上半身を起こしたロイは、素直にリンクの手を取った。
リンクの力に助けられながら、ロイは立ち上がる。
遠くに弾き飛んだ剣を拾い、少年らしい負けん気で、リンクをぎっ、と睨んだ。
「ったく、何だっけ、486連敗か? 何でそんなに強いんだよ、お前は」
「……さあ、どうだかなあ」
「あー、マルスの前でかっこ悪ぃ……、
たまには負けてくれたっていいだろー!」
遠くで微笑み、こちらを見ている、恋人に目を向けながら、
ロイはこんなことを言っている。
そんな言い分に、当たり前のように、リンクは答えを返す。
「そんなことしたら、お前、怒るだろ」
「当たり前だろーがっ!」
先程と明確に発言が矛盾しているが、ロイはそれには気づいていないらしい。
子供らしい、素直な負け惜しみ。
この真っ直ぐな気持ちはきっといつか、ロイを今よりもずっと、ずっと強くするだろう。
それを知っているリンクは、ロイを見て、苦笑して、
自分の剣を、鞘に戻した。
「俺の実力で勝たなきゃ、意味ねーし。
マルスにも、お前にもな」
「そうだな。でもそれは、オレも同じだからな」
剣を自分の手に返して、ロイとリンクは、真っ直ぐに立つ。
お互いの瞳を、睨むように見つめながら。
風が、ざあ、と吹いて、髪を同じ方向に流す。
「……ピカチュウと、約束したからか?」
「お前だって、マルスに、約束したんだろ?」
ロイは、愛しい恋人に、ずっと傍にいることを。
リンクは、小さな親友に、勝手にいなくならないことを。
二人とも、剣に誓った想いは、違うけれど。
「……それじゃあ、もう一戦っ」
「……え。まだやるのか?」
好戦的に剣を振り回すロイに、リンクはちょっぴり疲れたような顔をする。
太陽が少し傾いたこの時間は、昼寝にはちょうど良い時間で、
昼寝が趣味の一つであるリンクにしてみれば、実はそろそろ、休みたかったのだが。
「何だよー。年寄りくせーなー」
「…………。……悪かったな」
どうでもよい軽口を叩き合う。
好敵手、という言葉が、そのまま当てはまる二人の姿を、
愛しい恋人と、小さな親友は、微笑みながら見つめて。
平和な午後。優しい風。
剣の音がなくなり、穏やかな寝息が聞こえるようになったのは、
ずいぶんと時間が経った後だった。
ロイとリンクは、とても書きやすい人達です。
って、自分の好みで書いてるのだから、書きやすくて当然かもしれませんが(笑)。
暴走気味のロイと、必ず理性がはたらくリンク。
テンション的にも、ちょうど良いのかもしれません。
そんなわけで、ロイ+リンクでした。