○ ベイビィ・キッス ○




「やーーーっほーーー。」
「…………?」

屋敷の庭の隅、四角い花壇には、色鮮やかな花が咲き誇っていた。
そんな花達を、特にやることもなさそうに見ていたダークリンクの元に。
何かが、走り寄ってくる。   正確には、飛んできて。

飛んできた、何か、は。
ダークリンクの周りを、くるくるまわる。
どこまでが顔なのか知らないが、顔いっぱいに笑顔を惜しまずに。

「やっほー、元気ぃー?」
「…………」
「元気ー? 返事してよー、ねぇ〜、ダーリンっ!」
「……。……それは、俺のことなのか?」

あくまでもいつもの無表情を崩さないダークリンクは、
気の抜ける声で喋っているそれに、ようやく目を向けた。
ふよふよ飛びながら、その何か、は。
ピンク色のまるい身体で、くるん、と地面に着地した。

「そうだよー。ダークリンク、だからダーリンっ。
 ねぇ、そのまんまでしょー」
「……そうなのか?」
「うん、だいじょうぶだいじょうぶ〜っ!
 だからー、ダーリンも、ボクのことちゃんと呼んでよ、ね〜?」
「…………。
 ……カー、ビィ……?」

自信が無いのか、単に忘れていたのか、それとも覚えていなかったのか。
語尾を思いっきり疑問形にしながら、ダークリンクは、
相変わらずのん気なそれ   カービィの名前を呼んだ。

「うんー、そうそうー! 嬉しいなあー」
「…………」

そうそう、ということは、どうやら間違ってはいなかったようだ。
このまるいのはカービィ、と、ダークリンクは頭の中で復習すると、
今度はダークリンクの周り、地面の上をころころ転がっているカービィに、
ぽつり、と疑問を投げかけた。

「……うれしい?」
「えぇー、だぁってぇ。ダーリンがボクの名前呼んだんだもん〜」

それは、自分が言えと言ったのだろうに。
そんなつっこみを入れられるような者は、
残念ながら、この場にはいなかった。

「……名前を呼ばれると、うれしい、なのか?」
「う〜ん、ちょっと違うなぁ。嬉しいのはボクだけだしぃ。
 てゆっか、ダーリン限定? だから違うと思うー」
「…………??」

カービィはゆっくり喋るが、一度喋りだすと止まらない。
だからカービィの話し相手をするものは、
こちらも畳み掛けるように話をしないと会話にはならないのだが、
ダークリンクはそれを知らなかった。
カービィの、カービィにしかわからない言い分は、
やはりダークリンクには通じなくて。

頭の上に疑問符を浮かべ、小さく首を傾げるダークリンク。
それを見て、カービィは首……というよりは身体全体を傾げる。
傾げるというよりはやはり傾ける、の方が正しいが。

「あぁそうかぁ、ダーリンこういうの、わかんないんだよねぇ」
「…………」
「そーんなに、むずかしく考えなくても、いいような気がするけどー。
 いちいちそんな、ヘンな理由なんかつけなくってもさぁ」

くるん、と地面の上で、片足で回って、カービィは。
音のズレた鼻歌を歌いながら、花壇の中に、ひょいっと入って見せた。
そして、ダークリンクを見上げて、にぱっ、と笑う。
春の花、夏の光。そんな言葉が、似合うような。

「ダーリン今、お花見てたでしょぉ?」
「……ああ、」
「お花見たいなぁ、って思ったら、それが綺麗っ」
「……きれい……、」

花と花との間を、するりするりと、踊るように移動しながら。

「おどりたくなったら、それが楽しいー、でぇ」
「……たのしい……、」
「お花が枯れちゃったぁ〜ってなったら、悲しい、でー」
「……かなしい……。」

カービィの言葉を、ダークリンクはゆっくりと繰り返す。
当然、カービィの言い分が、わかるはずはない。

「お花折っちゃって、マルスがコワイ顔するのが、怒る、でぇ」
「…………おこる……?」
「そのあと、子供みたいなカオするのが、さみしい、でー」
「……さみしい……。」

ふらふらと花壇の中を歩いていたカービィは、ふいに足を止めた。
ふわり、と、その場から、浮遊する。花の間からやってくる、カービィは。
ダークリンクの元にまっすぐ飛んで、そして。


「……   


ダークリンクの唇に、ちゅ、と、子供みたいな、キスをした。


「これが、キス」
「………………」
「で、それが、びっくり!! ね、簡単でしょ〜」

何をされたかわかっているのかは知らないが   多分わかっていないとは思うが。
ダークリンクは何も言わずに、ただその表情を、少しだけ、変えていた。
目をまるくしてカービィを見ているダークリンクの顔を見て、カービィは、ふふふ、と笑う。

「こんなコト、ボクにだって教えてあげられるんだから、」
「…………」
「あんまりいろいろ、考えなくてもイイと思うよぉ?」

ねっ。
と、相変わらずのん気な調子で、カービィはダークリンクの周りを、くるくる周る。
ひとしきり周って、満足したのか、飽きたのか、
カービィはふわり、と、ダークリンクから離れた。

「……カービィ?」
「コワイひとが来たから逃げるっ。
 じゃあねぇダーリン、また今度ねー」
「……こわいひと?」

視線でカービィを追うダークリンクに手を振って、
カービィは飛んで、逃げていった。
その場に、一人取り残されるダークリンク。
やがて。

「……ダーク?」
「……勇者……」

カービィが逃げた方とは反対の方角から、リンクがやってきた。

「何やってるんだ? そんなところで」
「…………。
 ……勇者、」

不思議そうに首を傾げるリンク。
カービィの、「こわいひと」、とはどういうことだろう、と、
頭の隅でこっそりと考えながら、

「……キス、とは、何だ?」

ダークリンクはリンクに、一言、尋ねた。



ダークさんのファーストキスを奪っていったのは、カービィでした……(……)。

というわけでカービィ×ダーク、でした。
擬人化というのは、見て楽しいものだから、小説ではいいかな、という独断で、
カービィはそのまんまです。……だったらほのぼので済むかなと思って。

ところでダークさんにこんなこと教えたら、次の日からダークさんは、
挨拶代わりにキスをするような人になると思うんですけどね、どうでしょう(笑)。
こういうことをすると人間は驚くのか、みたいな。
そりゃあ驚くだろう、という。

とても久しぶりに可愛いカップル(……?)を書いた気がして、楽しかったです。


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