○ 金平糖 ○




小さな袋に詰められていたそれを、一つ、指で摘んで取る。
それはとても小さな、かわいらしい形の砂糖菓子。名前は忘れてしまった。
別に甘いものが好きだというわけではなく、
そもそも本当は自分は、ものを食べなくても生きてはいけるのだが。
とある人物から、お裾分けだと言われてもらったそれを、
突き返すわけにはいかず、かといって誰かにやる気にもなれなかったので、
先程から、ちまちまと食べているというわけだ。
部屋のベッドに腰掛けて、窓からずっと、庭の様子を見ながら。

何でこんなもの寄越したのかは知らないが、食べられないわけではない。
とりあえず貰い物なので食べ切ってしまおうと、袋に指を入れてみたところ、
どうやらようやく最後の一粒になったらしく、
指にはそれ以上、何かがぶつかるということもなかった。
摘んで取り出して、まじまじと見てみる。小さな、不思議な形の砂糖菓子。
淡いピンク色をしていたが、そんな感慨に浸れるような心は持ち合わせてはいなかった。

最後の一粒の観察が終わったところで、それを口に放り込む。
      

「……ダーク? いるか?」
「?」

かちゃ、と、部屋の扉が開いた。
ノックも無しの、ほぼ事後承諾のような訪問だったが、気にはならない。
砂糖菓子を舌に乗せたまま、ダークリンクはそちらを向いた。

「……勇者」
「あ……、」

そこにいたのは、声の通り   リンクだった。

「…………」
「…………」

ダークリンクが部屋にいたことがそんなに意外だったのか、
それとも別の理由があるのか。
リンクは扉を開けたところに立ち尽くしたまま、
どこか居心地悪そうに、ダークリンクを見ている。

「……勇者?」

用事があるのはそっちだろう   そう言うと、
リンクはようやくこちらへ向かってきた。やはりどこか、居心地の悪そうな顔で。
……リンクとダークリンクは、けっして仲が良いとは言えない。
というより、むしろ仲が悪いと言った方が正しい。
そんな状態で、部屋を訪ねるのもどうかと思っているのだろう。リンクだけは。
そんなことにまで気が回らないダークリンクは、普段通りだが。

ダークリンクが腰掛けているベッドの手前で、リンクは立ち止まる。
そして、

「何か、用があるのか?」
「ああ……、……あのな、ピカチュウが…… ……?」

さくっと用件を言おうとした先で、リンクはふ、と言葉を止めた。
やや、驚いたような表情で、ダークリンクをじっと見ている。
何故そんな顔をされるのかわからず、ダークリンクは少し首を傾げた。
どうしたんだ、と訊いてみると。

「……お前、何か食ってる?」
「? ……ああ、」
「何か、甘い匂いがするから……」

どうやら、砂糖菓子を食べているのが、ばれたようだ。
別に隠していたわけではないから、ばれたというのはおかしいが。

「……何、食ってんだ?」
「……。……、」

純粋に疑問を覚えたのだろう、リンクのそんな問いかけを受けて、
ダークリンクは唇に指を寄せた。……名前を思い出せない。
しばらく考えてみても、忘れたものはどうしようもない。
訊かれたことだから、答えた方がいいとは思うが、どうしたものか。

「…………」

訊かれて無言になったダークリンクを、少し怪訝そうに見ているリンク。
そんなリンクを横目でちら、と見ながら、ダークリンクはさらに考えた。

「…………、」

そして。
何か考えついたのか、ダークリンクは、急に立ち上がった。

「? ダーク?」

今度こそ、何を考えているんだこいつはという顔をするリンクに、
無造作に右腕を伸ばす。
驚きを表すリンクの首の後ろに腕を回して、そのまま強引に引き寄せて、

「…………っっ!!?」

ダークリンクは、リンクに、唇を寄せた。
それは、口づけ、というそのままの行動。
青い目を大きく見開くリンクの唇を割って、口の中に、舌と一緒に押し込んでやる。
……ちょっぴり溶けかけていた、砂糖菓子の、最後の一つを。

「……っ、」
「……名前を、忘れてしまった」

ダークリンクは、目的を果たすと、すぐに唇を離した。
視線の間2.5センチの距離で、ダークリンクは言い訳をするが、
顔を真っ赤にしたリンクには届かなかったようだ。
伸ばした腕も下ろして、後はいつも通り無言になるダークリンクを、
リンクは口を押さえながら、かつかなり動揺しながら、見つめる。

「なっ、お前っ……、……って、甘っ……!!
 これ、何…… ……っ何、するんだよお前は!!」
「……何を言っている?」

とりあえず、思いついたことを言っている、という状態のリンク。
はっきり言って、何を訊きたいのかわからない。ダークリンクは首を傾げる。
ただ、自分の行動が何を示していたのかだけはわかったので、
ダークリンクは、ぽつり、と言った。

「だから、それの名前は忘れてしまったんだ。
 お前は、訊いただろう?」
「……これの、名前……?」
「ああ。……だから、実物を渡すしかないだろうと思ったが、
 それが最後の一つだったんだ」
「…………。」

手の中に残った、小さな袋を見ながら言う、ダークリンクは。
きっと、自分の行動が、一般的に何を表すのかわかっていないのだろう。
ああ、やっぱり俗世間についても教えておくべきだった   と、
リンクは激しく後悔するが、もう遅い。

口の中に広がる、無駄と言わんばかりの甘い匂い。
砂糖をそのまま食べたような感じだ。
甘いものなんか、大嫌いなのに。

「……これって、」

そこまで思い立てば。
後は、早かった。

「……金平糖……?」
「……ああ。……そんな名前だった、そういえば」

いかにも言われて思い出した、というような顔のダークリンクは、
どこまでも自分の行動に対して、感心を持たない。

ああ、興味なんか持たなければ良かった   と、
リンクはやはり激しく後悔したが、やっぱりもう、遅い。
真っ赤な顔を片手で隠しながら、ダークリンクにこんなものを渡した、誰かを、
めいっぱい恨むことに決めたが。

ダークリンクに金平糖をあげた「誰か」が、
リンクの嫌いな人物であることを、リンクが知ることは、無い。
……たぶん。



ダーク×リンクっていうか、別にリンダーでも通じる気が……。

……とりあえず、ダークさんの行動が攻めな感じ? ってことで、
詐欺まがいでごめんなさい。
うちのダークさんで攻めというのは無理があったみたいです(汗)。

ダークさんに金平糖をあげた「誰か」は、ご想像のままに。


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