― 鏡 ―


鏡を見るのは、毎朝起きた後。
普段から好き勝手にはねている髪は、別に今更、鏡を必要とすることもないのだけれど。

そして、鏡を見るたびに思う。

自分のこの、赤い色の髪のことと、対を成すように青い色の髪の、彼のこと。


彼は、言った。

「お前のことを、好きにはなれない」、と。


彼にはこの、どこにでもあるような赤い髪が、炎の色に見えるらしい。
彼の故郷を焼き、彼を故郷から追いやり、彼の故郷を奪った、忌まわしい炎。
そしてその時流した、血の色。

この「赤」とう色は、彼にとって、因縁の深い色、らしい。
毎朝、飽きる程見慣れている、この赤い色なのに。



「……ワガママ、だよな…」

ぽつり、と、呟く。
自分を間違い無く映し出している、鏡にそっと手を伸ばして。
彼に触れたいと思うこの指も、
彼を見てたいと願うこの瞳も、
彼が嫌いだと言ったこの髪も、
これに映っている以上、間違い無く自分のものだ。

彼がこれを嫌いだと言うならば、自分は彼の傍にいるだけで、彼を傷つけてしまうのだろうか。
なら自分は、彼の傍にいない方がいいのか?

      …でも…。

「……俺は…、」

好きで、彼の嫌いな色を持って生まれてきたわけじゃない。

   ワガママ、だと思う。彼も、自分も。



彼を傷つけたくはない、ならば彼の傍にはいない方がいい。
でも彼のことが好きだから、だから、彼の傍にいたい。


彼が大切だという、中は同じ。
なのにその方法は、まったくの逆で。

鏡に映ってる、姿は同じ。
なのにその姿は、左右反転、まったくの逆で。


彼に、自分は、映らないのだろうか。
「俺」は、確かにここにいるのに。



「ザマアミロ」と、鏡の中の自分が、笑った気がした。



白銀水也〈SILVER SNOW