「くそっっ、あいつひと言くらい謝れねえのか! てめえの非も認めねえやつが正心を語るなっつうんだ」
「ああ、文次郎は謝らんなあ」
独語に応えがあったのでギョッとした。
庭からひょっこりと生首が生えている。
が、さすがに六年もの付き合いとなれば留三郎も慣れっこだ。
「一年生が見たら泣くぞ小平太」
「金吾は泣かん!」
七松小平太が塹壕から首だけ出したまま笑った。そりゃお前のとこのは慣れてるとしてもな、と言い募るより先に、小平太が言葉を継ぐ。
「私もあいつに謝られたことはないなあ。随分迷惑かけられてんのになー」
「……おめえの場合は両成敗って気もするけど」
文次郎が小平太にかける迷惑とその逆と、どちらが多いかと言えば、どちらかといえば逆の方なのではないかと思う。ただし気に食わなさでは文次郎の方が上なので、そのあたり倍掛け等号ということにしてやっても留三郎としては一向構わない。
「まあ、相手が誰だろうと謝らねえ奴が一番ダメだからな。そこらへん一回思い知らせてやる必要があるってことだ」
いい大義名分ができた。よーしありがとう小平太いっちょ揉んでくるわ、と笑顔で踵を返そうとした留三郎に、
「謝られたいのか?」
すとん、と問いが投げられた。
なぜか産毛が逆立つような心地がした。
振り向く。
生首小平太は奇妙に読めない表情をしている。
「あいつは、自分と同等以上だと認めた相手には絶対に謝らない奴だ」
それでもか、と目が問う。
「だから私は、あいつが悪いと思ったら何が何でも叩きのめすことにしている。それを詫びの代わりと思っている。……人の礼儀としては最低だけども、気付いてしまったら、もう謝られるのも腹が立つじゃないか」
おまえはどうする。