Stay with You


「おーじー、ちょっといいですかー?」

ノックをしたはものの、返事も聞かずにカイルは中へと踏み込んだ。彼が部屋にいるのはわかっていたし、下手をすると居留守を使われる恐れがあったからだ。部屋に鍵はついていない。そのことが幸いだとカイルは思った。

「ッ……カイル」

寝台でうとうとしていたのだろう。旅装は解かれていたものの、夜着には着替えていない。それだけ疲れているところに押しかけて、自分の心の安寧のために時間を割かせようとしている。その傲慢さに内心辟易しながら、けれどカイルは久しぶりに見るアルジャンの姿に、胸が熱くなるのを止められなかった。

「すんません、疲れてるみたいなのに」
「……」
「でもオレ、どうしても王子と話がしたかったんです」
「僕は……話すことなんかないよ」

突き放されて、カイルは熱くなった胸に氷の刃でも差し込まれたような痛みを覚えた。もうこの少年は自分を、必要としてくれないのだろうか。綺麗な蒼い瞳に、自分を写してくれることさえないのだろうか。

「王子。どうして……最近オレを避けているんですか」
「避けてなんか」
「嘘です。あれから一度もオレ、王子のお供を言い付かっていない。オレが太陽宮を出て王子たちに合流してから、オレが王子のお供をしなかったことは一度も無かったのに。どうして、ですか。女王騎士として、オレでは貴方の役に立てない?」

半ば感情的に言い募る。すると息を呑む気配があった。ゆっくりと背けられた瞳が、カイルに向けられた。泣きそうに歪む表情に、カイルは胸が苦しくなる。自分の何が、彼をこれほど苦しませているのだろう。

「違うよ。カイルは何も悪くない。ただ、僕が」
「王子が?」
「……一緒に行くと、僕を守らなくちゃいけなくなるでしょう? それが女王騎士の義務だから」
「……義務、なんて、そんなオレは」
「カイルが……怪我したらイヤなんだ……なんて、きっとそれは言い訳。本当は僕は……カイルが……女王騎士だから仕方なく僕を守っているのがイヤで」

ぎゅっと握られた拳。俯いてしまって表情は見えない。けれど細い肩が小さく震えていて、それがひどく切ないと思った。抱き締めたいと、衝動的に思った。カイルはその衝動に逆らわなかった。寝台の上に乗り上げると、アルジャンの細い身体を腕の中に抱き寄せる。

「ッ」
「そんなわけないでしょう」
「……カイル?」
「オレが貴方を守るのは、オレが女王騎士で貴方がファレナ女王国の王子だからじゃありません。ああ、そうか。あの時オレ、女王騎士だから王子を守るのは当然って言ったんですよね。あれはね、そうでも言わないと貴方は、オレが怪我をしたのをずっと気にするでしょう?」
「カイル」
「オレはアルジャン王子だから、守りたいんです。オレに懐いてくれて、傍に置いてくれた、大好きなかわいい王子だから、守りたいと思うんです」

その瞬間、そうだったのかと初めてカイルは自覚した。彼と会えなくて、一緒に居られなくてこんなにも苦しかったその理由。この自分が仕える少年に、恋をしているからだったのだと。

「か、か、かわいいってっ」
「ホントのことですよー。かわいいって言っちゃイヤですかー?」
「……だ、だって」

耳まで真っ赤になって俯くところがまたかわいいとカイルは思う。そして同時に、腕の中に大人しく納まっていてくれるということは、可能性があるのかなーなんてことを考えた。

「王子、お願いです。次からオレを、連れて行ってくれますか?」
「……うん」
「ずっと、傍に置いてくれますか?」
「え――あ……ずっと……居て、欲しいよ」
「嬉しいですー」

耳元に囁くとひくりと小さく身体が跳ねる。そんなアルジャンの頬に、カイルは小さく音を立てて口付けた。本当はもちろん唇にしたいのだけれど、まだ自分も自覚したばかりで、そしてきっと王子の方も良くわかっていないだろうから。

「か、カイルッ」
「ずっと貴方を守りますから。一生傍にいますから」
「ん――」

真っ赤になりながらも頷いてくれた、かわいく愛しい自分の主を、カイルはぎゅっと強い力で抱き締めた。いつかちゃんと言葉にして伝えようと、そう思いながら。




END





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ふたりの恋の自覚編、といったところでしょうか。ちょっと王子が幼い感じですが、まあ、箱入り息子だと思うので(笑) 結局勝手に拗ねてただけという話も(!)