月光


カイルは心の中で、自分自身に舌打ちをした。こんなに自分が、心の狭い人間だなどと今まで考えたことも無かった。これだけ誰かに、執着したこともなかった。改めてそれを、カイルは今思い知った。

目の前では、アルジャン王子がベルクートとダインを相手に、剣談義に花を咲かせている。王子の操る武器は三烈棍で、主な攻撃方法は殴りつけること。斬るのが主体の剣とは似ても似つかぬものだからか、あるいは各種武器に興味があるのか、先刻からアレコレとふたりに問いかけている様子だった。

ちょうど偽王子事件が一段落してセーブルへ戻ってきたところだ。行きの少し追い詰められたような緊張感が消え、アルジャンも屈託の無い笑顔をふたりに向けている。それがカイルは面白くないのだった。

剣のことなら自分に聞けばいいのに。そう思ったはものの、カイルが操るのは片手剣。一方ベルクートは両手剣、ダインは大太刀を得意とし、カイルとはまた違った知識や技術を持っているようだった。

賢い王子は、いろんなことを聞いて吸収したいと思っているのだろう。ひとつ面倒な事件が解決した、つかの間のホッとする時間に、いつもより弾んだ気持ちになるのもわかる。

わかるけれど、カイルは面白くなかった。周囲には隠しているけれど、カイルと王子はいわゆる恋仲だ。自分の恋人が、自分ではない男たちと話に夢中になり、カイルの大好きな満開の笑顔を向けている。もちろんアルジャンが浮気をしているとか、しそうだとか、そんなことを疑いはしないけれど、割り切れるほどカイルは大人ではなかった。

カイルは静かに席を立つ。今は何とか自分を抑えていられるが、このままここに居るとアルジャンに身勝手な怒りをぶつけてしまいそうで。あるいはベルクートとダインの二人に、意味も無い八つ当たりをしてしまいそうで、怖かったから。

話に熱中している三人が気がつかないようにそっと。カイルはその部屋を滑り出て、ラウルベル邸の中庭へと出た。三日月が天には引っかかっていて、柔らかな光を地表へ投げかかけている。

カイルは小さくため息をついた。いくら自分が彼の恋人であろうと、彼がこの国の王子であることは変わらない。自分ひとりのものにはできないことぐらい、理性では良く理解できている。感情がついていかないだけだった。

「情けないなー」

ぽつりと呟いた言葉は、夜の闇に溶けて消える。アルジャンが他の誰かと談笑することさえ嫌だと思ってしまう、心の狭い自分が心底情けないと思った。自分だけを見て、自分のことだけを考えてくれればいいのに、とさえ思ってしまう。

「……カイル、どうしたの」
「え? ……王子!?」

ぼんやり物思いに耽っていたカイルは、当のアルジャンが間近に迫っていたことに気がつかなかった。不意に声をかけられて、びっくりして振り返る。柔らかな月の光を一身に纏った恋人は、酷く心配そうな顔をしてカイルを見上げている。

「あんなに盛り上がってたのに、どうかしたんですか?」
「だって……カイルが居なくなっちゃったから」
「えっ……気づいて……?」
「うん。だからベルクートとダインには断って、追いかけてきちゃった。……ねえ、カイル。もしかして、ぼくがふたりと話をしていたから怒ったの?」

真っ直ぐな蒼い瞳は、泣きそうな色をしてカイルに向けられていた。唇を噛み締め俯くと、長い銀の睫にまで月明かりが煌いた。

「王子――」
「ごめんなさい。ぼく、カイルが嫌なら誰とも話しないから。誰も見ないから。だから……黙ってひとりで行かないで。ぼくを置いて行かないでッ」
「王子ッ」

カイルはたまらなくなって、肩を震わせる小さな身体を抱き締めた。こんなにも彼は自分を思ってくれているというのに、自分は情けない嫉妬で胸を一杯にして、彼の心を考えてやることさえしなかった。

ぎゅっとしがみ付く腕の強さ。必死に想ってくれるこの気持ちに、全力で応えなくては恋人ではないとさえ思う。

「すみません。悪いのはオレなんです。情けないですね、王子があのふたりと仲良さそうに話しているのを見てたら、嫉妬してしかたなくて。あのままあそこにいたら、酷いことを王子やふたりに言ってしまいそうだったから、こっそり抜け出したんです。でもちゃんと王子に、言えば良かった」
「カイル」
「怒ってなんかいません。ただオレの心が狭かっただけなんです。……許しを請うのはオレの方です」
「カイル。ぼくは何も」


腕の中で見上げてくる恋人の、白い頬にそっとカイルは唇を落とす。

「城に戻ったら、もっとちゃんと謝らせてくださいね。一晩かけてたっぷりお詫びさせていただきますよー」
「え、ええええ!?」

その意味を理解したのか、アルジャンは白い頬を赤く染めた。それでもカイルの腕の中に閉じ込められたままで居てくれる愛しい人に、カイルは二度三度と口付けを繰り返す。もっと広い心で彼を愛したいと、そう願いながら。




END


post script
ベルクートとダインとカイルをパーティにいれるのが好きです。紋章使うより、ガンガン直接攻撃するのが好きってのもあると思いますが。そんなこんなで、一途な王子に思われるカイルは幸せだと思います。





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