バレンタイン過ぎたのでオチをつけるのを放棄しました…




こたつの上に、一、二、三……ちょうど十箱、色とりどりの小箱が置かれている。ピンク色のハートが散りばめられた可愛いやつだったり、黒地に銀の刻印が押してあるシックなやつだったり、デザインは色々だけど、中身は全部チョコだ。
さっきから骸が、これはどこの店のなんとかいう果物を使っているチョコで云々、一々説明しながら、片っ端から開封している。説明している相手は、俺と獄寺くんと骸、それに彼女自身も入れて四人分のお茶を入れているクロームだ。しかし何故チョコレートに番茶なんだろう……。
「……で、本当はこのお店のチョコレートチーズケーキが買いたかったんですが、残念ながら売り切れでしたので、トリュフになったんです」
「確か、三十個限定……」
「だったらしいですね。やはり下調べをしてから行くべきでした」
残念そうな顔をして、クロームと二人うなずき合う。
「待て、もしかしてこのチョコ全部お前が買ったのか」
獄寺くんがものすごく嫌そうな顔をして聞いたことは、オレも聞きたかったことだ。てっきりクロームが買ってきたんだと思ってたのに。
「ええ。だって自分で選びたいじゃないですか」
そんな思いっきり当然そうな顔されても……。
「本当はこんなに買うつもりはなかったんですが、色々と目移りしてしまって」
骸は恥ずかしそうに苦笑したが、照れるところはそこじゃないだろ。
「日本のバレンタインを経験するのは初めてですが、本当にチョコレートのお祭りですね。軽い気持ちで覗いてみたんですが、あれだけチョコと女性が集まっている光景は圧巻でした」
骸の脇に置かれているのは、駅前の有名デパートの紙袋だ。確か催事場で世界のチョコレートフェアをやっていたはず。そこに男一人で突入して、あまつさえこんなに大量のチョコを買ってきたのか。呆れるを通り越してちょっと尊敬の念が生まれてきた。
「注目されなかった?」
「されましたよ?」
それでケロリとしてるあたりが、コイツなんだよなぁ……。
けど、なんとなく想像できる。『バレンタインのチョコ売り場に男が一人』っていうことへの奇異の目線は、どこぞの貴族みたいな優雅な物腰と、ちょっと浮世離れしたお綺麗な顔、更に、僕が世界の中心ですみたいな堂々とした態度を見て、すぐに羨望の眼差しに変わってしまうんだろう。この人が女性に贈るのかしら素敵、とか、チョコ好きなのかしら可愛い、とか、全部肯定的感想を持たれるんだよきっと。もしオレが同じことをしたら……想像するだに恐ろしい。
「綱吉君と隼人君の分は、ちゃんとこれとは別に買ってますからね」
「いらねぇよ!」
「じゃああげた後返してください。僕が食べますから」
「それオレらにくれる意味なくねぇ?」
「様式美ですよ、様式美」
「様式美って言うんなら、そもそもバレンタインデーって女の子が男にチョコあげる日であって……」
「ボス、イタリアでは男の人が女の人にプレゼントする日らしいよ」
「どっちにしろ男同士じゃん……」
「そんなことより早く食べましょうよ。溶けます」
「テメェがこたつの上に広げたんだろーが!」