ちょっと痛めな描写注意
「ぃ、う……っ!」
喉の奥から、引きつるような悲鳴が漏れる。既に声をあげる体力もなかった。
「うーん、やっぱり骸くんって、体は普通の人なんだねー。つまんないな」
「ぎ……っ、ぁ、が……!」
「や、でも、普通の人じゃなかった方がつまんないか」
湿った音を立てながら、ゆっくりと白蘭の指が沈んでいく。
「そうじゃないと、こんな反応見れないかもしれないもんね」
満足に動かない体は、それでも白蘭から逃げようともがいた。
「ふふふ、可愛いなぁ。君みたいな子って大好き」
「……、……っ」
可愛い、大好き、愛してるよ、と、甘く柔らかい言葉が部屋の中に散らばっていく。
骸の悲鳴は、糸が切れる寸前の弦楽器のように、鈍く途切れ、消えていくだけだ。
「……っく、ふ……」
「……ん?」
眼孔で遊んでいた白蘭が、ふと指を止める。悲鳴に一瞬混じった別の声が、彼の手を止めさせた。
「ふふ、くふふ……っ」
「あれ、やだなぁ、壊れちゃったフリ? 骸くんの中身が頑丈なの、僕知ってるんだよ?」
「……違い、ますよ……」
一語舌に乗せるだけで、ぜいぜいと雑音が混じる。肺を絞るようにしてなんとか紡いだ声であることは明白だが、それでも、笑みの気配が感じられた。
「君と僕は、全然違う、なぁ、と、思いまし、て」
「えぇー、そう? 結構似た者同士かなっと思ってたんだけど」
骸はその言葉を待っていたかのようだった。
気を失いそうなほどの激痛を感じているはずなのに、にっこりと、これ以上なく優雅に笑って見せる。
「僕はね、本当に愛している人にしか、愛してるって言わないんですよ」
一気に言って、骸は大きく息をついた。空々しい睦言に満ちた部屋の中で、その吐息だけが、ただ一つ真実であるかのように存在感を放っていた。
彼こそが幻だというのに!
「ふぅん……」
現実であるはずの白蘭は、面白くなさそうに眉をしかめる。
「確かに大違いだね。それだと、骸くんには愛してる人がいるっていう風に聞こえる」
それは少し違う、と、骸は胸の内だけで呟いた。
――――正確には、『いた』んですよ。