再録A*H



ねこまっしぐら!(2010.3)
毛だらけになってしまった軍服を洗濯へ出し、代わりに兄の部屋着を羽織る。
猫は彼に言われて街の中へ放してきた。野良といっても、ほとんど餌を貰って住み着いているようなものなのだ。無闇に外へ出て危険な目に遭うことはないだろう。
ベッドの縁に腰かけ、読みかけの本を捲くる。腰にはアスベルの腕が巻きついていた。
「何読んでるんだ」
後ろから手元を覗き込んでくる。答えずに本の表紙を見せると、うわ、と嫌そうな声が耳にかかった。
「お前よくそんなの読めるな」
「兄さんはもう少し勉強してください」
「してるさ。ただお前のレベルに追いつかないだけで」
人の肩に顎を乗せ不貞腐れる。
「なあ、本なんかいつでも読めるだろ」
「最近は忙しくて、まともに休みも取れなかったんです」
「こっちに帰ってきてまで読まなくてもいいじゃないか」
「あとちょっとですから」
「待てない」
「んー……」
次第に文字に没頭してきて返事がおざなりになる。気づいた兄が体重をかけてくるが、軍服を脱いだ薄着の身体では、温かく心地のいいものにしか感じなかった。
「なあ、ヒューバート」
甘えるような声音が耳に染みる。頬をすり寄せられると眼鏡のフレームがずれた。顔を横へやって避けても追いかけてくるので、諦めて溜息を吐く。けれど心から兄を迷惑だとは思っていなかった。なあ、なあ、と、構ってくれと言わんばかりにくっついてくる姿は、弟の自分から見ても愛らしい。元々甘えられるのは嫌いではないのだ。それが兄となれば尚更だ。
「折角急いで仕事終わらせたんだぞ?」
押し当てられる唇に、そっと笑みをこぼす。本を読むのをやめれば彼も離れてしまうだろうから、下を向いたまま無意味にページの端をいじった。
「……ヒューバート」
くに、と耳に歯を立てられる。じゃれつくようなそれに身を捩ると、腹の辺りにあった手が胸へと上ってきた。柔らかくもない胸板を撫で回し、顎を捕らえて唇をなぞる。かさついた指に、ぞくりと背筋が震えた。
「兄さん」
唇の隙間に挟まる指を食み、緩く噛みつく。上着の裾から滑り込む手のひらがひどく熱かった。執拗に腹の割れ目をさすられ、半身を丸める。すると背中に覆い被さってきた身体に抵抗を封じられた。
そのままぬめりとした舌が耳を這う。胸を指の腹で擦られ、小さく膝が跳ねた。荒い呼吸が鼓膜を低く震わせる。腰に押しつけられた下半身が揺れているのも、きっと気のせいではないだろう。
唇から溢れそうになった唾液に気づいて、兄の指に吸いつく。より深く差し込まれるそれに舌を絡ませ、握ったままだった本を静かに床に落とした。
「ふ……」
ちゅく、と濡れた音が立つ。胸から下ろされた手が、太腿の内側へ伸ばされた。無意識に閉じようとすると、足を絡めて止められた。部屋着の柔い生地越しに内股をまさぐられる。手のひらに中心を握り込まれ、既にそこが濡れていることを自覚した。兄の指が動く度に刺激が生まれ、ぬるぬると張りついた下着が擦れる。
首筋に埋められた肌や、髪の柔らかさがくすぐったい。大きく開いた襟ぐりから首の根元を甘噛みされ、思わずベッドにかけた手に力がこもった。爪を立てて、眉を寄せる。下着の中へ忍び込んできた指が体液で滑るのが、恥ずかしくて堪らなかった。首から耳まで発熱したように熱くなる。






くだらないうた(2010.5)
残るのは鬱々とした感情だけだ。戻ってきたアスベルも冷静さを取り戻したらしく、どこか余所余所しい態度だった。運ばれてきたリゾットを含むが、味がしない。それでも間を持たせるために、黙々とスプーンを動かし続けた。金属の触れる音がいやに響く。
食べ終わって薬を飲んでも、アスベルは食器を除けただけで部屋から出ようとしなかった。
「ごめん」
「何がですか」
側に椅子を置いて控える兄を、ベッドに横になって眺める。
「俺のせい、だよな」
アスベルは俯いたままだった。重い前髪で隠れて表情は分からない。
「別にそんなことはありませんよ」
 自分が倒れたことを指しているのなら、それは単なる自惚れだ。そんな意味も込めて素っ気なく返す。
しかしアスベルは項垂れ、弱々しく首を振った。
「いや。俺もお前と同じように体調が悪くなったことがあるから……。ごめん、ヒューバート。避けたりして」
予想外の兄の謝罪に、ぐっと息が詰まる。つまり彼は、自分が弟に避けられていたときも、これと同じ経験をしたのだと言っているのだろう。だから俺もお前の気持ちが分かるのだと。
まるで当てつけのようにも聞こえるが、恐らく彼にその意図はない。心底罪悪感に苛まれている様子の彼に、追い討ちをかけるつもりはなかった。
痛む良心を抑え、長く息を吐き出す。毛布から手を出すと、冬の外気が肌を刺した。
「ヒューバート?」
目を丸くするアスベルの身体には、しっかりとブランケットが巻きつけられている。そのおかげか、今度は温かな手の温度を感じることができた。
こうしてちゃんと兄に触れるのはいつ以来だろう。順々に記憶を辿っていくと、子ども時代まで遡ってしまった。いつも無鉄砲な兄が危ない目にあわないように、遠くへ行ってしまわないように、自分より大きなその手を力いっぱい掴んでいた。きっと言葉にしているよりも、多くの修行を積んできたのだろう。剣を握るごつごつとした手は、あの頃と比べると随分大人びていた。
けれど兄の手であることは変わらない。
「兄さん、ぼくは……」
ん、とアスベルが優しく目を細める。
自分へと向けられるそれがあまりに久しぶりすぎて、言おうとした言葉が頭から飛んでいく。
「あの」
焦れば焦るほど混乱してしまう。口ごもる自分にアスベルが苦笑して腕を伸ばした。くしゃりと頭に柔らかな感触が触れる。薄い髪をかき混ぜる指に、硬い手のひら。ソフィの言っていたことは本当だった。ただ、効き目が大きすぎて心臓が軋む。
「……ぼくは兄さんとは違うんです」
歪んだ顔を隠すように横を向く。
「オズウェルの養父を見たでしょう? ぼくはあの人に、あの家で育てられたんです。兄さんのように、無条件に人を信じることなんてできない」
震える声で呟くと、止まっていた兄の手がまた動き始めた。
「教官とパスカルなら大丈夫だ。二人とも俺達を裏切ったりしないよ」
だからそう思うことができないのだと言っているのに、全く人の話を聞いていない。悔しくて唇を噛むが、このままでは堂々巡りになるのが目に見えているので、反論をすんでのところで飲み込む。代わりに意地の悪い質問を返した。
「もし裏切られたらどうするつもりですか」
言外にラントでの自分の行動を含ませる。
無邪気に再会を喜ぶアスベルを衝動のままに捻じ伏せ、故郷から追い出した。あのときのことについてアスベルが意見を述べたことは一度もない。実の弟に裏切られて、兄が何を思ったのか。鈍い兄がこの質問の意図を察することはないと踏んで、そっと本音に聞き耳を立てる。
いくら口では綺麗事を並べても、普通なら恨みの一つくらいは抱くはずだ。そう身構えていたら、アスベルは拍子抜けするほどあっさりと微笑んだ。
「そのときは、きっと何か理由があるんだと思う」
 相変わらず優しい指が、丁寧に髪を梳く。穏やかな表情の彼を見上げていたら、じわじわと喉の奥が熱くなった。





愛とか恋とか(2010.6)
「ヒューバート」
はっと顔を上げると、アスベルが困った表情をしていた。
「そんなに怖い顔するなよ」
「兄さん」
「今度は泣きそうだ」
苦笑してこちらへ手を伸ばす。指の背で頬を撫でられて、震える息を吐き出した。
「大丈夫だよ。ラムダが起きたとしても、俺が同化しなければいいだけのことだ。あいつには色んな世界を見せてやるって約束したしな」
体内に爆弾を抱えて、どうしてそんなふうに笑っていられるのか、自分には分からない。怖くないのだろうか。自分はこんなにも恐ろしくて気が狂いそうなのに。
頭を撫でる手が温かすぎて、思うまま叫び出しそうだった。ぎり、と自分の腕を抱き締める。
「精々ラムダに取り込まれないようにしてくださいよ。兄さんはすぐに感情移入するんですから」
「はは、手厳しいな」
兄の手のひらが離れていく。ふっと喪失感に襲われて、追いかけるように立ち上がる。ヒューバート、と不思議そうに自分を呼ぶ唇に口づけた。柔らかく湿ったそこを食み、何度も啄ばみながらより深く重ね合う。
舌を差し込むと仄かに紅茶の味がした。甘い。砂糖を数個入れるのが、昔からの兄の好みだった。そんなことを思うと一層兄の存在を感じて苦しくて死にそうだった。
「ん、んっ……」
肩に添えていた手をむき出しの首へ滑らせ、くしゃりと両側から頭を押さえる。
一旦顔を離し、片方の膝を兄の足の間に乗り上げる。彼の目には僅かに熱が滲んでいた。覆い被さるようにして首を斜めに傾ける。軍服を掴んでいた彼の手が、するりと背中へ回される。必死で絡めた舌を戯れに甘噛みされては吸われ、ぞくぞくしたものが背筋を駆け上った。息をするのも惜しいほどに交わって、ゆっくりと唇を離す。
「どうしたんだ、急に」
こちらを真っ直ぐに見上げる瞳に、咄嗟に何も言えずに口ごもる。視線を逸らしたが、兄は答えを待ち続けていた。間を埋めるように、目の前の唇に何度も触れる。自分に喋る気がないのを知ると、兄は思い当たる原因を挙げ始めた。
「向こうで何かあったのか」
「いいえ」
「母さんに何か言われた?」
「……いいえ」
「じゃあ、こっちに来る途中に悪いものでも食べたとか」
「兄さん」
最後のは冗談だったようだが、初めの二つには自信があったらしく、アスベルは頻りに首を傾げている。
自分にしてみれば何故これで察することができないのか不思議でならないのだが、ラムダの件はもう問題ないのだと信じきっている兄には無理もないことなのかもしれない。仮にラムダを取り込んだのが彼ではなく弟の自分だったとしたら、きっと同じ気持ちになってくれると思うのに、そういう考えには至らないのだ。
それは恐らく、彼が初めから自分一人で引き受けるつもりでいるからで、もし今の話をしたところでお前にはそんなことはさせないなどと返されるのは目に見えていた。ソフィが対消滅しようとしていたときにはあれほど怒っていたというのに、そんなところは本当に学習しない。どうして分かってくれないのだろうか。歯痒くてもどかしい。
ぎゅう、と首に腕を回して抱きつくと、宥めるようによしよしと肩を叩かれた。
「俺に会えなくて寂しかったのか」
笑みを含んだ声音で問われる。どうせこれも冗談のつもりなのだろうが、今までの中では一番本質に近かった。
兄がいなくなるのが怖い。
そうでなくとも、この人はもう自分だけの兄ではないのだ。自分の知らない兄が増えていく。離れていく。
「そうです、寂しかった」
アスベルの首に顔を埋める。え、と彼がうろたえるのが分かった。
「ヒューバート?」
こちらの顔を覗こうとしてくるが、頑なに縋りついて離れなかった。彼の白い上着を掴み、椅子に乗せた膝を前へ滑らせる。突き当たった下半身を緩く擦ると、か細く息をのむ音が聞こえた。そろりと顔を上げ、髪越しに兄の耳へ唇を押し当てる。吐息混じりに囁く。
「今、すごくしたいんです」
びくりとアスベルの身体が揺れた。
「……してくれますか」






あなたとふたり(2010.10)
「ヒューバート。あなた本当にどうしたの? 何かあったのなら、私に話してちょうだい」
彼の隣に膝をつき、そっと肩に触れる。
ヒューバートはやはり黙り込んでしまった。元より彼が素直に話してくれるはずはないと思っていたので、辛抱強く待ち続ける。そのうちにカシャ、と小さな音がした。見ると、彼の手の中で眼鏡のフレームが握り締められている。
「……兄さんが無事でよかった」
小さな声が届く。言葉の重さに何も返せずにいると、ヒューバートは更に俯いた。
「怖かった。兄さんが消えるんじゃないかと思って」
喋っているうちに恐怖が蘇ってきたのか、子どもの頃のようにしゃくり上げる。
「よかった、本当に、無事で」
「ヒューバート…」
自分だってアスベルが助かって嬉しかった。それなのに、どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろうか。
嗚咽を噛み殺すヒューバートに、普段の虚勢は残っていなかった。あれほど頑なな彼が、アスベルのためならそれを捨ててしまえるのだ。仮にラムダへ手を伸ばしたのがアスベルでなく自分だったとしたら、彼はこんなふうに泣いたりはしない。無事を喜んでくれた後に、どうしてこんな無茶をしたのだと怒るだろう。
今も昔も、ヒューバートはアスベルのことを第一に思っている。彼の中にいるラムダの存在など、意識から吹き飛んでしまうほどに。
これから時が経ち冷静になったら、ヒューバートも自分と同じ気持ちになるはずだ。恐らく自分よりずっと深く、複雑な感情に身を焦がすことになるのだろう。
「アスベルが好きなのね」
「……好きじゃありません」
「じゃあ嫌い?」
「嫌いでもありません」
「そう」
ふふっとふき出す。
「私には分からないわ。男の子の兄弟って、どこも皆こうなのかしら」
どこへ行くにも一緒で仲のいい二人が、自分には羨ましくて堪らなかった。幼い頃は病気で寝てばかりいたから、余計にだ。見舞いに来た二人が身振り手振りで冒険話をしてくれるのが、半分妬ましく、もう半分は愛しかった。
もし自分が大人になれなかったとしても、この二人は一生仲良く手を取り合っていくのだろうな。そう思っていた。
ヒューバートの頭へ手を伸ばし、ふわりと髪を撫でる。子ども扱いみたいで嫌がられるかと思ったら、意外にも彼は無反応だった。ぐす、と鼻をすする音が聞こえる。
「もう、いい加減泣きやみなさい! 私のハンカチ貸してあげるから」
昔のお姉さんぶった口調で、ポケットから取り出す。いつアスベルに渡す機会があるとも限らないと用意していた、綺麗なレースのついたハンカチだった。最初に使うのがヒューバートになるなんて、と苦笑する。
彼は目線を上げ、気まずそうにハンカチを受け取った。





書き下ろし(2011.10)
ともかく胸が離れてくれてよかった。ほっと一息つき、兄の方も今のうちに剥がしてしまおうと肩に手を添える。兄さん、と声をかけつつ距離を開けると、アスベルは物凄く不機嫌そうな顔をしていた。
「ヒューバート」
据わった目でじとりと睨まれる。
「お前、パスカルが好きなのか」
「はい?」
思わず素で聞き返してから、もうこの兄も相当酒がきているのだなと理解した。
酔っ払いに対して真剣になってはいけない。ここ数ヶ月で心から学んだことだった。
「そうですね。嫌いか好きかで言えば好きですよ」
よしよしと肩を宥めながら離れようとすると、ぶわっとアスベルの目に涙が浮いた。
驚いたのはこちらの方だ。今のやり取りで何故泣き出すのか、さっぱり訳が分からない。ただ自分が泣かせてしまったことだけは理解できた。あーあ、というパスカルの声が背に刺さる。マリクまでどこか自分を責める視線だった。
「ヒューバート……」
「な、何ですか、ぼくが悪いんですか!」
はあ、とマリクが溜息を吐く。
「自覚がないのも考えものだな。いいからお前はアスベルを連れて部屋に戻れ」
「マリク教官」
「俺には手に負えんと言っているんだ」
そうして二人して部屋を追い出される。アスベルはまだぐすぐすと鼻を啜っていて、何だか自分まで泣きたくなってきた。
手を引っ張って、自分達兄弟に宛がわれた部屋へ入る。とりあえずアスベルをベッドに座らせ、冷たい水を飲ませてやった。ごくごくと凄い勢いで飲んでいる。喉が渇いていたのだろう。パスカルとの喧嘩の様子を思い返すと、随分熱が入っていたように見えた。何をそんなに言い争っていたのだろう。普段の二人は姉弟かと勘違いされるくらい、仲がいいというのに。
「どうしてパスカルさんと喧嘩していたんですか」
空のコップを片付けつつ、刺激しないようにできる限り優しい声音で尋ねる。アスベルは真っ赤な目を逸らした。
「だってあいつが」
子どもの頃よく見た、ぶすっとした顔で黙り込む。つい懐かしくなって笑ってしまった。
「どうしたんですか? 言ってくれなきゃ分かりませんよ」
ふわふわとした髪に触れる。こうしていると昔に戻ったようだった。アスベルは頼もしい兄だったが、時々ひどく落ち込むことがあった。何となくアスベルがそういう状態になるのは自分の前でだけなのだという確信があったので、自分は誰にも言わずにそっと慰めていた。甘えられるのは嬉しい。必要とされているのだと思えた。
アスベルが、うう、と愚図る。綺麗で甘い顔立ちが顰め面になると、余計に可愛く見えた。
「兄さん?」
中腰になって覗き込む。アスベルがむっつりと口を尖らせた。
「だって、パスカルがお前のこと好きだって言うから、俺の方がお前のこと好きだし、お前も俺の方が好きだって、思ってたのに」
喋りながらまたじわりと泣き始める。
「あの、もう少し分かりやすく……」
「ひゅーばーとー」
「ああ、はい」
のろのろと伸ばされる腕を抱き返し、一緒にベッドに転がる。軍服が皺になるかもしれないが、こんな状態の兄を邪険にしたら後でもっと面倒なことになりそうだった。
アスベルの額が胸元に擦り寄ってくる。
何が悲しくて実の兄に腕枕をしなければならないのだろうか。明日になったら嫌味の一つでも言ってやらなければ気が済まない。早く寝てくれないかと思いながら、丸まった背中を撫で続ける。
「ヒューバート」
「はい」
アスベルの指が服にしがみつく。子どもを通り越して赤子に戻ったようだった。
「好きだ」
「はい」
「ヒューバートも、俺のこと好きだよな」
腕の中で散らばる赤毛を見下ろし、顔を埋める。
「ええ、好きですよ」
好きか嫌いか比べるまでもなく、さらりと胸の奥から溢れ出る。アスベルはしばらく黙っていたが、そのうちにもぞもぞと頭の位置を動かし始めた。
枕にしていた腕を乗り越え、ずいと至近距離まで顔を近づけてくる。
「じゃあ、いいか?」
熱っぽい瞳が、睫に涙を絡ませて瞬く。
「え?」

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