01. 好きって言って。 / 02. 離れたくない



01.好きって言って。
「うまいな」
口の端を舐めながら見上げると、ヒューバートは得意げにお玉を鍋に戻した。
六人分たっぷりと作られたカレーは、まろやかな甘さをしている。母の味に似ていた。いつの間に彼は作り方を覚えていたのだろう。同じ家に暮らしていたのに、自分はこの味の出し方を知らない。
「母さんに教わったのか?」
何気なく聞く。すると彼はぴくりと眉を寄せ、顔を俯かせた。いいえ、とか細い声が聞こえる。
「そう、なのか…」
「ええ」
「そうか…」
ヒューバートが黙り込んでしまったので、口を噤んでスプーンを動かす。
こうやって彼の傷を広げてしまうことが、再会してからはよくあった。七年間の間に彼が何を見、何を感じてきたのか自分は知らない。もっと分かり合いたいと思っても、昔のように他愛ない会話を交わすことさえままならなかった。黙々とカレーを頬張る。それでも何も言わないままではいられないと思い、散々悩んだ末に口を開いた。
「俺はお前の作ったカレー、好きだな」
ぐるぐると無意味に鍋をかき混ぜ続けていた手が止まった。
もう一口ゆっくりと咀嚼して、味わって飲み込む。
「うん、好きだ」
ヒューバートはこちらを振り向いて、ぼんやりと瞬いた。そして溜息と共に顔を逸らす。
「前にも聞いた話ですね。母さんが一番でシェリアが二番で、今度はぼくが三番ですか」
「お前は違う。別枠だ」
「どういう意味だか、よく分かりません」
「うーん、特別ってことか?」
「…何故疑問系なんですか。兄さんはいつもそうやって適当なことばかり言いますよね」
辛辣な言葉に下を向いてカレーをつつくが、でもまあ、と彼が呟くのが耳に入った。顔を上げる。ぼそりとこぼした彼の頬は、見間違いでなければ多分少し赤かった。
「兄さんがどうしてもと言うのなら、また、作ります」

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