爪を切っていたら、マーフィーが爪やすりを持ち出した。
銀色のスチールの爪やすり。
俺はこれが嫌いだ。
「爪切りは爪を傷めるんだよ」なんてしたり顔で言ってくるマーフィーを無視して
頑なにペンチのようなごつくて切りにくい爪切りを使っている。

パチン!パチン!
電設工事人がワイヤーを切るみたいに、足の爪を飛ばしながら切る横で、
シュ……シュ……
マーフィーが手の爪を熱心に研いでいる。
お前は指先のお手入れを欠かさない有閑マダムかってんだ。

俺がとっくのとうに20本の爪を切り終わっても、マーフィーはようやく左手の爪が研ぎ終わり、
手を掲げたり裏返したりして仕上がりを念入りに確認している。
その様は熟練の職人のようで、とても清清しく静かなものだったが、俺は嫌いだ。
1本、1本、爪の長さと丸みを目と指の腹で確認し、それでも飽き足らずに、尖りがないか、唇に寄せて確かめていくんだ。
そして紅い唇に爪を滑らし、見上げてくるマーフィーが嫌いだ。

「コナー、右手研いで」
マーフィーは左手では上手く研げないからって俺に右手をやらすんだ。
だけど、俺がこんなもの、上手に器用にできるわけないじゃないか。
マーフィーの右手の中指を掴み、震える手でやすりを当てるものの、
「痛っ」
やっぱりマーフィーの肉を擦っちまう。

「上手に研いでくれないと、痛い思いをするのはコナーだよ?」

下手ながらもどうにか右手を研ぎ終わると
右手の中指を口の中に突っ込まれ、舌で、爪をなぞらされる。
「痛くない?」
聞いてくるマーフィーが嫌いだ。


ほら、マーフィーが笑ってる。
器用に綺麗に短くした爪を舐めながら笑ってる。
あの、爪やすりで整えた指先が、次に俺のどこを触ってくれるのかなんて考えちまうのも嫌いだ。

憎たらしいマーフィーをベッドに押し倒すために、大嫌いな爪やすりを奪ってテーブルに置いた。



                                   END