葦浦迷宮案内09






踝は一番近くにいたを楯に取り、この場から立ち去るつもりのようだ。


の首元にはナイフが当てられている。
冷たい感触がリアルで、突然のことに上手く頭がまわらなかった。


思えば、仕事でこのように危ない目になど遭ったことが無いのだ。
初めての事態で気も焦り、折角習っていた護身術も使えない。
もっとも今にも切られそうなほどに咽元にナイフを当てられていれば、身じろぎすら危ういのだが。


(あ〜もうどうしよう!私の王子福武さん、さっそうと私を助けて〜!!)


いつ福武はそこまで昇格したんだ。
とにかくこんな時にも奇妙な余裕のある思考。


「そこをどけ!どかないか!!」


踝が階段をふさいでいた福武・米神・飛座に向かってナイフを振り上げる。
もちろんを片手に捕まえたまま。


「なにしてるんですか、そんなことやったてどうせ警察に捕まりますよ」


自分に刃物が向いたところでようやく飛座が踝をなだめようとした。
嫌な奴だが飛座の言う通りだ。警察をなめてはいけない。
ただ罪が増えるだけで逃げ切れるなどとそんな甘いことは無い。
もちろんそれを踝が聞くはずも無く、さらにナイフを向けて逃げ道を確保しようとする。


「ひっ!」


助けを求めた福武はというと、踝の第一声で小さく身をかがめ、真っ先に道を譲っていた。


(王子、使えね〜〜〜〜!!)


は心の中で舌打ちをする。
なんかもう1回じゃ足りず、5回くらい。


「ほら、さっさとどけ!どかないとこの女の首を切るぞ!」
「ぎゃー!もう本気で嫌だ!もとはといえば須根さんが道を間違えたから」
「ははは、でもそのおかげで事件も解決したしね」
「してないですよ!おかげさまで、今まさに人質に取られてんですよ!?見ろ、ちゃんと見ろ!」
「うるさい、ぎゃーぎゃーわめくな!」


踝は、の咽下に突きつけたナイフに力を込める。


「・・・・・・仕方ないな」


須根が呟く。










そして、再び踝がナイフを進行方向の人物に向けた瞬間―――









「須根キ―――ック!!」
「えええ―――ッ!?」












つま先で思い切り踝のスネを蹴りました。













踝は突然の激痛に、ナイフを落とし、体勢を崩した。
その隙にの腕を引いて自分の方に寄せる。
助けられたは一瞬の事に驚きつつ、しかし危険である踝から視線は外さなかった。


痛そうにスネを押さえている。


「なんか盛り上がりに欠けますよ・・・スネって・・・地味〜に痛そうだ・・・」
「はっはっは、須根とスネを掛けてみたんだよ!!」
「いやいやいや、この状況で何ひと笑い狙うんですか?!面白くないし!」


とゆーか、犯人に背中を向けてまで説明してこないで!!とは叫んだのだが。


向けられた無防備な須根の背中に、踝はナイフを構えなおして突っ込んでくる。
須根さん危ない!という布久萩の声が建物に響く。


「僕は争いごとは好まないんだけどね」


だからスネを狙ったんだよ。


そういいつつも冗談めいた風体は消え、にやり、と口元に笑みを浮かべる。


そのまま後ろでに踝のナイフを持った手をつかみ、一本背負いで踝をかわした。
踝は綺麗な弧を描いて地面に叩き落される。





踝は意識を失った。
















それからその日の午後には雨は弱まり、
須根のタイヤのパンクを直しに来たJAFのお兄さんによって警察が呼ばれ、
踝は連行されていった。




残った人々はため息をつく。




きっとこれからいろいろと事情聴取をされるのだろうと思うとどっと疲れが出た。
まぁ、踝を裁く為に色々情報を集めるのだろうが。


「もう、ほんと須根さんのせいですよ」


がむすっとして呟いた。

お目当ての宿でのんびり出来なかったのも、
結局あと一日ある有給もこの事件の後始末で消えそうなのも、
人質に取られて怖い思いをしたのも、


全部元はといえば須根の車に乗ってしまったからだ。



あれ、車に乗ったのは自分だ。じゃぁ、私が悪いのか?

などと、おかしな方向に考えが逸れる。


「悪かったって。今度昼飯でもおごるからさ」
「わ・・・・・・割に合わない!!一ヶ月、毎日、ビックパフェ付でおいしいレストランでお願いしますよ」
「あれ、は一ヶ月も僕と一緒に昼食を取りたいのかい?」
「ハッ!!」
「知らなかったな、がそんなに僕と一緒にいたかったなんて」
「やはり今のはナシで!!いろんな意味で胃が持ちません!!」


激しい誤解を解こうとする。須根は多分確信犯だ。わかっていて言っている。

でも、とは思う。

自分が人質に取られたとき、須根はちゃんと助けてくれた(地味なキックで)。
多分それが自分でなくても同じように助けていたとは思うが、それでもなんとなく嬉しかったし、
頼りになるのだということを実感する。


(おっと、須根マジックにはまるところだった。危ない危ない、用心せねば)


一瞬でもカッコ良かったなどと思ってしまった自分をかき消すように、
額の傍で掌を振って不吉な感情を追い払う。






そんな自分にちょっと笑っていられるのは、


青梅の地元警察へ行くはずの、が乗った須根の車が











何故かお台場についてしまうまでだった(結構遠いな)。










途中で気付け。








                    
   終わり。


 あとがき・・・というか反省。
 適当でスイマセン。本当はもうひと騒ぎ起こすつもりだったのですが、
 脳みそがついていきませんでした。
 読んでくださった方、ありがとうございました。



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