本当は、気付いていた。
どんなに抱き合ったとしても、一つになんてなれないのだと。
手を伸ばして、指を絡めて、口づけて―――体を繋げても、結局俺達は独りなのだ。
お互いを慰めるために触れただけだった。その筈なのに、この行為がまた新たな切なさを生む。
お前の悲しみや孤独が俺の中に流れ込んできて、俺は苦しくて苦しくて泣きたくなる。
その度、もう二度と触れるものかと誓うのに、俺はいつの間にか、またお前に触れている。
「ゴルベーザ」
部屋を出て行こうと扉の前に立つ、その背中に呼びかけた。
彼は振り返ると、仕方が無いな、という表情でこちらに来て、俺を抱き締める。
名前など所詮、ただの記号でしかない。そう思っていた。
なのに、彼の名前だけは特別だ。
彼の名前には意味がある。呼ぶだけで心が酷く落ち着く。
「ゴルベーザ…」
背に回された手が細かく震えていて、どうしていいか分からなくなって、俺はもう一度彼の名を呼んだ。
こんな気持ちのままセシルの元へ帰ることなど出来ない。洗脳が解けても、俺の心はこの男に縛られたままなのだ。
彼の手が俺の後頭を両手で掻き抱いた。
甘い口づけに、頭の芯が熱くなる。舌を弄る舌は、俺の意識を奪おうと激しく口腔を愛撫する。
薄く目蓋を開いて彼を見た。
長い睫毛が微かに揺れていて、泣くのかもしれないと思う。彼の泣くところは一度も見たことが無いけれど。
(…こんなことをしたって、俺達は孤独だ)
思いつつ、彼の首に腕を絡ませる。
「……自分の部屋に、戻るんじゃなかったのか……?」
耳元で囁く。
「…気が変わった」
切羽詰った彼の声。
いつか、この身を離さなければならない時が来る。
(そうしたら、俺達は孤独に溺れて死んでしまうのではないか)
馬鹿げた考えを押し込めて、彼の首筋に口づけた。
End