金糸のように煌めく髪の先端を、摘み上げる。
 良い手触りだ、とゴルベーザは思った。
 カインを部屋に呼び寄せたのはつい先刻のことで、そのカインを抱きしめたままベッドに転がったのも、つい先刻のことだった。
 部屋を照らすのは、月明かりだけだ。
 ひんやりとした月光が、カインの青い瞳と金の髪を暗闇に浮かびあがらせていた。
「……ゴルベーザ……様……?」
 カインが、ベッドに座っているゴルベーザの胸元に縋りつくようにしながら顔を上げる。晴れた空のように澄んだ青に射抜かれ、ゴルベーザは微かに肩を震わせた。
 金属のように、硬質で冷たい美貌だ。
 程良い高さの鼻梁、心持ち薄めの唇。長い睫毛は影をつくり、瞳を飾りつけている。
 氷の彫刻。
 そんな言葉が、浮かんで消えた。
「ゴルベーザ様……ご命令を…………」
 ごくりと唾を飲み込んでから、カインは問うた。部屋に呼ばれた理由が何なのか、知りたがっているようだ。
 カインの潤んだ瞳と色づいた眦を見て、ゴルベーザの胸が大きくはねる。青年は、期待に震える目をしていた。
 背筋をつうっと撫で、滑らかな手触りを楽しむ。
 カインは鎧を装備していない。装備しているのは、いつも鎧の内側に身に着けている服だけだ。
 さらりとしているようなつるりとしているような、吸いつくような感触が、堪らなく心地良い。
「抱くためにお前を呼んだわけではない」
 言えば、青年は小さく目を見開いた。当然の反応だろうとゴルベーザは思い、カインがあまりに思い通りの反応を返してきたために笑いだしたくなった。
 夜中にカインを自室に呼んで、手を出さなかったことは一度もなかった。その為、彼の反応は当然とも言えた。
 青年の頬に朱が走る。淫らな行為をするものだと思い込んでいた自分を恥じたのだろう。身を起こし、戸惑いの顔を見せた。
「……抱いて欲しかったのか?」
 ゴルベーザがからかって訊く。
「…………分かっていて、訊いておられるんでしょう」
 拗ねた声で返される。
 今にも頬を膨らましそうな幼い表情に、ゴルベーザは微笑まずにはいられなかった。
 カインの腕を引き、抱き寄せる。耳元で囁いた。
「たまには、抱き合うだけというのもいいだろう?」
 互いの存在を、体温で確かめ合う。カインはゴルベーザの背に腕をまわしてから、そっと胸元に耳を寄せた。
「――――早い、ですよ。すごく早い」
 気持ちよさげに目蓋を閉じて、うっすらと微笑む。
 甘い表情に心惹かれて髪に口づけると、ふわり、青空の匂いがした。


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