「行って参ります」
そう言って、彼は笑った。兜に隠されていて口元しか見えなかったけれど、彼は確かに笑っていた。
心なしか、槍を握りしめている手、そして指先までもが喜びに満ちているかのように見えた。
「鍛錬をすることが、そんなにも嬉しいのか」
ベッドから下りることも面倒で、ただただ身を起こしてそう言うと、彼は朝日を浴びながら頷いた。
満たされた表情。竜騎士であることを心から誇りに思っているのだ。
夜とは全く違った表情を見せる彼に惑わされる。
私の元に歩み寄って来て顔を近づけ――そこで初めて、“口づけをするには兜が邪魔だ”ということに気がついたのだろう。ぴく、と体を揺らし、静止してしまった。
「口でなくてもいいだろう?たまには、こちらでも」
笑い、彼の竜を模した兜の鼻先に口づけを落とす。指先で触れた彼の頬は熱く火照っていて、兜の冷たい感触とはまるで対照的だった。
指先を滑らせ、兜を持ち上げる。覗いた彼の瞳は微かに潤んでいて、困り果てたようなその表情が愛おしくて、唇に笑みが浮かぶことを堪えられなかった。
「……いつもは、問答無用で押し倒すのに……今日に限って……」
何故こんな柄にもないことをするのだ、と言いたいのだろう。空いている方の手で真一文字になった唇に触れると、それはやわらかく綻んだ。
兜を取り去ってやれば、おずおずと口づけてくる。甘い息を小さく漏らす唇に甘噛みを与えながら、鎧に覆われている体を抱き寄せた。
「う、わ……っ!」
私を押し倒す形になった彼は焦り、槍を握ったまま私の腹の上に跨っている。
小さく息を詰めて、カインは眉を顰めた。細い腰が、僅かに震える。
「……痛いのか?」
知っていながら問うと、「貴方は意地悪だ」と彼は目を逸らす。
愛撫を待っている場所に手を伸ばすと、カインは首を横に振った。
「もう、行かなくては」
「このままで行くつもりなのか?」
「……これは……ゴルベーザ様が……っ」
「私は、お前の頬に口づけただけだ。……口づけだけでこんなにしているのはお前だろう?カイン」
下腹部を覆っている布を外す。
下着のみになってしまえば、勃ち上がってしまったものは隠しようもないほどになっていて。
「……貴方は、本当に意地悪です」
くやしそうな顔をしながら言う、彼の声音が堪らなく愛おしい。
「もう少ししてから行けば良い」と言いながらその場所に触れると、白い喉が仰け反った。
彼は喘ぎを押し殺したまま、愛撫に身を委ね始める。
竜騎士であることを誇りに思っている彼を、好ましく思う。だがそれと同時に、そんなものには構わず私のことだけを考えていて欲しい、という浅ましい思いが頭を支配し、脳裏を埋め尽くす。
他のことは考えず、私の腕の中にいて欲しい。
美しく跳ぶその体。獣のようにしなやかな足を折ってしまいたい。
もう、どこにも行くことができぬように。
「……ゴルベーザ、様……っ」
乱れた衣服、唇の端を伝う唾液。蕩けた瞳を潤ませて、彼は秘部に私のものを銜え、腰を揺らす。
結合部から響いてくる濡れた音に耳を塞ぐように、彼は顔を伏せ、目蓋を閉じた。
End