開けてはならない、と言われている扉があった。 『あの扉を開けるんじゃない』 ゴルベーザは言い、カインはそれに従った。 結果、その部屋は放置され、なんの動きも見せない――筈だった。 ***
「もう出かけられたのか」 目を丸くしながら、カインは呟く。視線の先にはルビカンテがいた。 「ああ、朝早く出かけられた。お前には、探し物を頼みたいとおっしゃっていたぞ」 「……探し物?」 「何でも、とある薬を探してほしいのだとか。紙を預かったから、これを見ながら探すといい」 言いながらルビカンテは懐から取り出した紙を手渡し、それから、マントを翻して消えてしまった。 予定では、今日はゴルベーザと調査に出かけることになっていた。 ゴルベーザは予定が変わることを嫌う。そのゴルベーザが変える位なのだから余程のことなのだろうとカインが紙に視線を落とすと、見慣れない薬の名前が飛び込んできた。はっきり言って、古代文字か何かで書かれていて読めない。 「……弱ったな…………」 ゴルベーザの紙によると、その薬は瓶に入っているらしい。瓶のラベルに、古代文字で名前が記されているのだとか。きちんと記されていれば問題はないのだが、ラベルが剥がれかけている可能性もあるらしい。 しかも、カインの記憶が確かなら、その瓶があるであろう部屋はぐちゃぐちゃである線が濃厚だった。 まあ、悩んでいても仕方がない。 よし、と気を引き締めて、カインは目当ての部屋を目指し始めた。 扉を開くと、予想通りの光景、いや、それ以上の光景がそこにはあった。 灯りをつけなくても分かる。 本棚から滑り落ちた本が床に散乱し、わけの分からない道具類が本と本の間を埋め尽くしている。棚は倒れ、あちこちで瓶が割れていた。 まるで、モンスターに荒らされた後のようだ。鍵をかけていた筈なのに、とカインは首を傾げた。 部屋が荒れているかもしれないと思ったのは、カイナッツォが以前、「あの部屋に置いてある本を何冊か借りていくからな!」と言っていたのを思い出したからで、こんな風に嵐の後のように荒れているのを想定していたからではなかった。 この様子であれば、もしかしたら、もう瓶は割れてしまっているかもしれない。 ふうと溜息をつき、それでも探すだけ探さなければとカインは灯りを点けることにした。 「コンピューター、灯りを」 声に反応して、部屋に明かりが灯る。 途端、目の前に現れたおかしなモノに、カインの体は静止していた。 壁に、肉色をした何かがめり込んでいる。ぴくぴくと震え、得体の知れない汁を垂らしていた。隣の部屋から突き出ていることは明らかだった。 隣の部屋。それは、ゴルベーザが『あの扉を開けるんじゃない』と言った、あの部屋だ。 思わず、カインは槍を構え、大きく息を吸っていた。 モンスターなのか、他の何かなのかも分からない。けれど、放っておくことはできなかった。 ゴルベーザ様がああ言うくらいだから、とても危険なものなのだろう。ならば、観察して報告する必要がある。 危険になったら逃げれば良い。素早さにはそれなりの自信があった。 そうっと、息を殺して近づいた。ああ、灯りは消しておいた方がいいかもしれない。そう思い、「灯りを消せ」カインは呟き、部屋は薄暗くなった。 おかしなモノは、カインの頭よりも少し高い場所で蠢いている。壁を突き破り、ひび割れさせ、醜い姿をさらしている。気味が悪い。近づけば、それは酷く青臭かった。 おそらく、モンスターの一部かそれに似た何かなのだろう。カインは判断した。部屋に閉じ込めてあったものが、何らかの理由で部屋を突き破ったに違いない。 自分一人の手にはおえそうにない。主は留守だが、ルビカンテは部屋にいるかもしれない。一度、相談してみることにするか。 踵を返し、カインは扉を目指し始めた。扉を開き、一歩外に足を踏み出す。途端、カインの腹を何かが捕えた。 「……っ!!」 とてつもない早さで、空中に持ち上げられる。何が起こったのか理解できず、カインは息を詰めるだけだ。ひゅっ、風の音がして、今度は壁に叩きつけられた。 まずい、という考えがカインの頭を過る。肉塊に絡めとられ、気付けば、身動きが取れなくなっていた。 絞め殺されるかもしれない。 槍が手から滑り落ちていることに落胆しつつ、体を捩って逃れようと試みる。 よくよく眺めてみれば、肉塊だと思っていたものは、巨大な触手だった。ごくりと唾を飲み込み、カインは体を震わせる。 丸腰で、身動きがとれない。つまりそれは、死を意味している。 こういうときは、焦ってはいけない。カインは抵抗することをやめた。様子を窺いながら、隙をつく機会を窺うことにする。全身の力を緩めると、心なしか触手の力も弱まったように思われた。 どこからか、細い触手が伸びてくる。何十本も伸びてきた触手は、カインの鎧の隙間に器用に入り込み始めた。 おぞましい。カインは頑是ない仕草で首を振った。 この触手の目的は何なのか。 ぴし、と小さい音が聞こえ、それは圧力で鎧が割れる音だった。触手は膨らんだり萎んだり、伸びたり縮んだりと形を変え、カインの体を徐々に支配していった。 割れた胸当てが、地面に落下する。守りのいなくなった胸元を、触手は啄ばむように探っている。 自由になる両手で触手を引きはがそうとするのだが、やはり敵わなかった。 赤黒い触手の先端が、カインの乳首を布越しに撫でる。 「あ……っ」 思わず漏れてしまった声に唇を噛みながら、カインは身を捩った。それでも触手は追いかけてくる。 触手の先端がぱっくりと口を開き、今度は胸に吸いつき始めた。 「ひぃ、あっ!」 快感が、電流のように走る。それが気持ち悪さと混ざり合い、カインの思考は混乱し始める。胸元の布を破られ、吸われすぎて乳首が赤くなる頃には、息も絶え絶えという風になっていた。 触手が分泌する透明な粘液が、カインの体を侵していく。 「は……あ、あぁ……あっ」 両足首に巻きついた触手によって開かされたカインの足の間で、何本もの触手が蠢く。割れた鎧と下衣の間を縫い、敏感な場所を舐めあげる。 信じられないほどの快楽に屹立しきったペニスの前で、触手が口を開いた。 「……そ、こは……っ、や、駄目だ…………っ!」 嘲笑うかのように、触手はそこに喰らいついた。カインは悲鳴をあげる。その悲鳴は部屋に響き渡ることなく、唐突に口に咥えさせられた触手の中に消えていった。 「んんぅっ、んっ!」 水音が、部屋を支配する。 カインは首を振った。暴れる頭を固定しようと、触手が追いかけてくる。兜が取り払われ、カインの顔が露わになった。 “助けを呼んだ方が良いのではないか”――――そんな考えが、一瞬、カインの中に芽生えた。 このままでは、死んでしまうかもしれない。逃げようにも、隙すら見つけることができない。 声を出すことすらできない自分が助けを呼ぶとしたら、あの人しかいない。 粘液に体中を犯されながら、カインは主の姿を思い出していた。 思念波を使う彼になら、強く思うことで、自らの思いを届けることが出来るかもしれなかった。 カインは、強く強く思おうとした。ゴルベーザ様、と呼ぼうとして、直前で思い留まった。 主にこんなみっともない姿を見せるのは避けたかったし、何より、主に守られよう助けてもらおう、という自分の考えに腹が立った。 主君に守られる騎士がどこにいる。 青い瞳を前に向け、思いを押し殺す。本当は叫びたかった。ゴルベーザ様、と呼びたかった。けれど、それはしない。 カインの心を支えていたのは、竜騎士としての自尊心だった。 「うう……っ!!」 細い触手がカインの後腔を抉じ開けようとする。昨晩ゴルベーザに弄られたせいで敏感になっているその場所に、赤黒い先端が押し当てられた。 生温かく濡れた感触に、カインの肌が粟立った。 口の中に、苦い粘液が溢れてくる。粘液はだらだらと流れ落ち、床に水溜りを作っていく。口を犯す触手が震え出す。カインは恐怖を感じ、硬直した。 「んんん……う……!!」 勢いよく、先端から液体が飛び出してきた。生臭い液体を吐き出したくてえずくと、白い液体を撒き散らしながら触手も同時にずるりと抜け出た。 カインはきつく目蓋を閉じる。触手が出す液体で、カインの体は白く汚れていった。 異形に犯されていながら、カインの体は反応し始めている。どうして、という思いで、カインは俯き、深呼吸をして昂りを逃そうとする。 形の良い鼻の先から、ぽたり、白い液体が滴った。 体が熱い。思考が纏まらない。 おかしな感覚の中へ堕ちていく。 視界全てが回転し、何に犯されているのかも分からなくなってくる。 カインの後腔に、何本もの触手が入り込み始めた。 「……ひ、あ、あああぁ…………っ!」 白い背がしなる。 入り込みやすいようになのか、触手はカインの足を更に広げ、奥へ奥へとその身を滑らせていく。 ぐるり、襞を引っかいてなぞり、カインの官能を引き出そうとするかのように優しい動きで内部を解す。 そうして引き抜かれる頃には、何も考えられなくなっていた。 無抵抗になったカインの体を床にうつ伏せにし、腰を持ち上げる。 「――――――っ!!」 何本もある触手達の中でも一際太い触手が、力任せにカインの体を貫いた。 あまりの衝撃に息も吐けぬまま、冷たい床に爪をたてる。痛みはなく、ただただ全身がびりびりと痺れている。細い触手が伸びてきて、尖った乳首をいやらしい動きで撫でた。 「うああっ、んっ……あ……っ」 涎を垂らし、目蓋を閉じる。額を床に擦りつけ、喘ぎを殺そうとする。 抽迭が始まる。カインは、昨夜ゴルベーザに抱かれたことを思いだす。彼の手は優しかった。手袋に包まれた指先は冷たかったけれど、気遣いの意思を持っていた。 けれど、この触手達は違う。カインの体を支配するためだけに、内部を引っ掻き回そうとしている。 ゴルベーザ様。 愛おしい主の名を口にしたくて堪らなくて、それでも瓦解の直前で踏みとどまる。 あの人に、足手まといだと思われたくない。モンスターに捕らわれている姿を見られるなんて、まっぴらだ。 複数の触手が、カインの全身に迫り来る。頬を撫でたり、太腿に絡みついたり、各々が自由自在に動き回る。そのうちの一本がペニスに巻きつき、カインは掠れた悲鳴をあげた。 先端から、甘い痺れが流れ込んでくる。粘液に何か媚薬のような成分が含まれているのかもしれない。快楽は増幅し続けていく。 動く速さを増す内部の触手。嬌声をあげるカインのことなど構いもせず、好き勝手に透明な液体を分泌しながら、赤黒く太いそれが、何度も何度も行き来を繰り返す。 「……あっ……ん……ああぁ…………あぁ……っ」 カインの顔に、苦痛の色はない。頬を紅潮させて、夢を見ているかのような、ぼんやりとした目をしている。 突然、触手達が動きを止めた。 「あ、あああ、あ…………!」 熱い液体が、後腔に注ぎ込まれていく。膝をついていることすらできなくなりその身を横たえたカインの体の中に、容赦なく穢れを吐き出す。 カインの後腔がひくつく。入りきらなかった液体が、行き場をなくして隙間から溢れてくる。 瞬間、カイン自身も白濁を放っていた。 「……ゴ……ゴルベーザ、さま、ぁ……っ」 白濁を散らしながら、無意識のまま呟いた。 カインの胸が痛いほど軋む。このまま殺されてしまうかもしれない、と思い始めていた。 触手の射精は止まらず、カインは熱い感触に小さな喘ぎを漏らし続ける。 「ゴルベーザ、さま……、も……う、しわけ、ありません……」 両足首を掴まれ、仰向けに転がされながら、うわ言のように口にした。 ***
――――ゴルベーザ様……! 細い声が、ゴルベーザの頭に木霊した。 思わず、「カイン?」と彼の名を呼んでしまう。一体、どうしたというのだろう。 本当は、今日は共に調査に出かけるはずだったのだが、もう一つの用事を思い出したため、その用事を任せることにしてカインを置いて一人でゾットを出た。 カインに命じた用事自体は、取るに足らない簡単な用事だ。特に危険なものでもなかった。 引き続き、エブラーナの近くで見つけた祠の探索を続ける。けれど、カインのか細い声が、頭にこびりついて消えない。 赤い石がごろごろと落ちている場所に辿り着き、足を止める。ゴルベーザは沢山ある石のうちの一つを手に取り、カンテラを近づけ、まじまじと見つめた。 「…………マグマの石か」 珍しいものを見つけた。何かに使えるかもしれない。 もうこの位でよいだろうか。 ゾットに帰ってカインの顔を見よう、とゴルベーザは思う。そう、一目見れば、このもやもやした感情も消えるはずだ。 マグマの石を懐にしまい、テレポの呪文を唱える。 ゴルベーザは、出かける前に見たカインの寝顔を思い出していた。 「カインを見なかったか」 ルビカンテに問いかけると、彼は一瞬考えた顔をし、「今朝会ったきり、見かけていません」と答えた。 ゴルベーザの胸騒ぎが酷くなる。 早足でルビカンテの横を通り過ぎ、例の部屋を目指し始めた。 いくらなんでも心配しすぎだろう。カインは大人で、竜騎士としての実力もある男だ。 (そんなに、失うことが怖いか) ゴルベーザは唇の端を上げ、自嘲する。 その正体こそ分からないものの、自分がカインに対して特別な感情を抱いているということは理解しているつもりだった。だが、これほどまでとは思いもよらなかった。 いつのまにか、カインと共に眠ることが当たり前になっていた。 いつのまにか、カインの体を抱きしめることで安心感を覚えるようになっていた。 自分はこんなに弱かっただろうか。ゴルベーザは自問した。 目的の場所へ辿り着き、扉を開く。 明かりのない部屋の中、青いものが二つ、暗い光を放っていた。 「……あ……ぁ……っ、う……」 淫靡な響きを持つ声が耳に届き、ゴルベーザは息を飲む。 饐えた臭いが、あたりを包み込んでいた。 「ライト」 明かりがつくと同時に、青い光のもとへと駆け寄る。 酷い有様だった。 手首を一纏めに、両足をそれぞれ固定されたカインは、抵抗することもできずに触手に犯されていた。 全身が、白と透明の体液で濡れている。虚ろな青い瞳は水面のように揺れるだけで、正常な色を失っていた。 「カイン……ッ!」 ゴルベーザの姿を認めたカインが、一言、ゴルベーザ様、と口にする。 その声を聞いた途端、ゴルベーザはファイガを放っていた。 爆発音と、焦げ臭いにおいが部屋を満たす。触手が怯み、カインの体を解放する。 ゴルベーザは襤褸布のようになってしまっているカインの体を抱き上げて、守るようにマントに包み込んだ。 触手は、壁に開いている穴を抜けて隣の部屋へと帰っていく。 後で消し炭にしてやる、と壁を睨みつけてから、カインをそっと地面に横たえた。 「……カイン」 「ゴルベーザ……さ、ま……」 カインの頬には、痛々しい涙のあとが残っている。衣服を着けたままの腹には精液が散り、赤くなった後腔からはだらだらと白い液体が溢れていた。 モンスターの体液には催淫作用がある。ありえない量の精液を注ぎ込まれて、巨大な触手に抵抗できるはずがない。 不快な何かが、ゴルベーザの胸を焼いている。それは嫉妬と独占欲だったが、ゴルベーザ本人は全く気づいていなかった。 ルビカンテにカインを回復させてから、ゴルベーザはカインを抱いて自室に向かった。 カインは何も話さない。黙りこんだまま、ゴルベーザの腕に抱かれている。 部屋に入る。 ゴルベーザは甲冑を脱ぎ捨ててから、カインの破れた服を脱がせた。 何もかもが汚されていて、どうしようもない位、ゴルベーザの感情は乱れた。 ゴルベーザは思う。 カインの心を支配しているのは自分で、体を支配しているのも自分だ。 誰にも渡すつもりはない。 「お、おやめ……ください」 浴室に行ってカインの体を清めようとした途端、カインは首を横に振った。身を捩り、ゴルベーザの腕から逃れ、床に座り込んだ。 「申し訳、ありません……でも、自分でできます、だから」 頬を紅潮させて目蓋を閉じる。 「俺に、触れないで下さい……」 僅かに震えているカインの体。その震えの正体を、ゴルベーザは知っていた。 カインのペニスは屹立し、蜜を垂らしている。荒い呼吸が、浴室内に響いた。 白濁液をこびりつかせている、細い顎を持ち上げる。青い瞳は、悲しみの色を纏っていた。 「――――化け物に犯されて、感じたのか?」 青い瞳が、悲しみの色を濃くする。 こんなことを言ってはいけない、それは分かっていた。だが、焼けつくような嫉妬心がそれを許さなかった。 あの触手は、ルゲイエが作った失敗作だ。「すぐに始末しろ」と命令したが、ルゲイエが「データをとりたい」と言ったので、何も考えずに始末の延期を了承した。 了承せず、すぐに始末していれば、こんなことにはならなかったろうに。 「ゴルベーザ様……、お願いです、一人にして下さい……」 カインが、切羽詰まった声を出す。 「こんな、みっともない姿を…………、あ……っ」 と。カインが上ずった声をあげた。何かを堪えている表情だ。 突然、カインの後腔から丸くて白いものが転がり出た。 「……あ、ああぁ、あ……!」 「カイン」 ちらりと見てみれば、白いものは触手の卵だった。卵は、微かにその身を震わせている。 「いやだ、いや……だ、動くな……っ!」 まだカインの中に幾つか残っていると判断したゴルベーザは、指を後腔に突き立てる。 中には、硬い卵の感触があった。中で、細かく振動している。 「あっ、あぁ……っ」 「力んで出せ。腹を食い破られるぞ」 カインの顔が、さあっと青ざめた。 指を引き抜いて、耳元で囁き、命じる。 もう一つ、白い卵が転がった。 全ての卵を出し終える頃には、カインは首を横に振るだけになっていた。 ゴルベーザは、卵を纏め、灰にする。 そうしてカインのペニスがまだ興奮状態にあることを知ったゴルベーザは、それを握り、ゆるゆると扱き始めた。 「……ひ……ぅ……っ……あぁ……」 手を上下に動かす度に、くちゅくちゅ、と濡れた音が鳴る。 「あ、あぁ……ゴルベーザ様、ゴルベーザ様、ぁ……」 触手の出す粘液で快楽に溺れてしまったカインを組み敷き、激しく唇を奪った。 「んう、うぅ……ん、う……」 カインは竜騎士としてのプライドが高いから、自分に助けを求められなかったのかもしれない。 粘液に支配されて初めて素直になることができるカインの不器用さを、ゴルベーザは愛しいと思った。 「…………も、もうしわけ……ありません……っ」 唇を解放すると、カインが小さく口にする。 抱きしめて「何を謝ることがある」と言うと、カインは涙を目じりに浮かべた。 「……俺は、本当は貴方を守るべき者です……。なのに、逆に貴方に守られてしまった……」 しばらくの沈黙の後、ゴルベーザは少しだけ笑った。 それから、不器用な青年の体をきつく抱きしめ、「愚か者め」と呟いた。 End |