最初は、食べているのだと思っていた。
だが、扉の隙間から覗いた世界は、想像とまるで違っていた。
片目を閉じて、もう片方の目を使う。
俺が覗いているとも知らず、いつになく嬉しそうな表情を隠さぬまま、スカルミリョーネはスカルナントをぎゅうっと抱きしめた。
驚いたことに、抱きしめられたスカルナントは――――ピンク色のドレスを身につけていた。どう見たって、スカルナントが最初から身につけていたものではない。布地があまりにも綺麗過ぎる。
にやにやにへへ、蕩けた微笑みを浮かべるヤツの金色い瞳が、こっちを見た。
「……やべ、ばれた」
などと言ってももう遅い。「ひぎゃあ」と間抜けな声をあげた男はスカルナントを抱えたまま後退りし、ローブの裾を踏んづけて盛大にこけてしまった。
ごろんごろん。
スカルナントの頭が、俺の目の前を過ぎっていく。
「…………い、い、いまの、見、見て、見」
「ああ見た。ばっちりみた。存分に堪能した」
「たんの」
「堪能した」
逃げようとする腕を鷲掴んだ。震えている。嫌味ったらしい笑みを意識しながら、金色の瞳を覗き込んだ。
「お前にこんな趣味があったとはなあ」
「趣味じゃない……!」
「じゃあ、このドレスはいらないんだな?趣味じゃねえってんなら、捨てちまっても構わないんだろ?」
「だ、駄目だ!このドレスを手に入れるのにどれだけ苦労したと……あっ」
「苦労、ねえ」
俺の手を振り払おうと、必死で腕を動かしている。でも、俺の方が力が強いから振り切ることができない。
項垂れて、スカルミリョーネは小さく呟いた。
「……馬鹿にするなら、すればいい。言いふらしたいなら、言いふらせばいい……」
手を放しても、逃げようとしない。
居心地が悪くなり、背を向けた。視界に飛び込んできたのは、スカルナントの生首だ。
スカルナントの髪を掴み、その落ち窪んだ顔を見つめた。ぼろぼろで蛆がわいている。
もっと可愛らしい人形にすればいいのに、何でスカルナントなんか使うんだ。
「ほら」
生首を放り投げると、ヤツは必死の形相でそれを受け止めた。
「もっと綺麗な人形で遊ぶ方がいいんじゃねえのか。腐乱死体は、人間を襲うのに使えばいいだろ」
ちらちらと光る瞳が酷く悲しげだったので、息が苦しくなってしまう。
何で、そんな顔をする?
「…………私が拾ってくる死体は、皆、捨てられて忘れ去られていたものばかりだ。それを戦いの道具にしてすぐまた壊してしまうのは……何だか嫌で」
馬鹿なやつだ。多分、自分とスカルナントを重ねて見ているのだろう。
「捨てられて……忘れ去られていた?」
手を伸ばして頭を撫でると、スカルミリョーネは一瞬だけ震えた。
捨てられていたのは、お前じゃないのか。捨てられて忘れ去られて、朽ちてしまいそうになっていたところをゴルベーザ様に拾われた。
抱きしめれば、誰もが忌み嫌う毒のにおいが漂う。
「カイナッツォ……」
悲しい声が聞こえた。胸を抉るような声だった。
「カイナッツォ……私は……私、は……っ」
腐った馬鹿が、俺の背中に爪をたてる。痛覚がない場所だから、痛みなんて感じない。でも、その代わりとでもいうように、胸がぎちぎち痛くなる。
ええと、なんて言えばいい?こいつに、なんて声をかければいい?
ああ、分からねえ。だって、傷つけることは得意だけれど、誰かを慰めたことなんて一度足りともありゃしねえんだから。
あれ?もしかして、俺はこいつを慰めようとしてるのか。この陰湿な馬鹿を慰めるためにどうしたらいいのかって、さっきからそればっかり考えてるもんな。
「……カイナッツォ。貴様、何で」
「え?」
硬直しているスカルミリョーネの視線は、俺の下半身に注がれている。
俺の息子は正直だった。
「あのよう。とりあえず、よく分かんねえから犯していいか?」
ローブの裾を思いっきりひっ掴む。
俺の体の下で「ひぎゃあ」と喚き声が聞こえた気がしたけれど、そんなことはまあ、どうでも良かった。
じたばたしながらも、スカルミリョーネは俺の体にしがみついたままだったからだ。
End