高く跳躍する直前、カインはゴルベーザに軽く会釈した。
 地面を蹴る。水色の空に、濃紺と紫がくっきりと浮き出す。空中で槍を構える仕草。切っ先が、瞬くように煌めいた。
 美しい、とゴルベーザは素直に思う。
 カインの脚が生み出す跳躍には、ゴルベーザを魅了させる何かがあった。
 空中で、カインはくるくると回って見せた。そうして、空中に浮かせてあった機械――ルゲイエの失敗作――を槍で一突きした。
 束ねられた金の髪が、太陽光を反射する。砕け散る機械の欠片を手で払い落し、彼は真っ直ぐに下りてきた。
 驚いたことに、着地の瞬間、ほとんど音がしなかった。ただ、微かに鎧と砂の音がしただけだった。
「……ゴルベーザ様」
 ゴルベーザの足元で跪いたまま、カインは顔を上げた。その唇には微かな笑みが浮いていた。
「あの高さまで届くとは、正直思っていなかった」
「風の調子によっては、もう少し高く跳ぶことができます」
 弾むような声で、カインは言った。その言葉の中には小さな自信が散りばめられている。頷き、ゴルベーザは兜の中で唇の端を上げた。
 竜によく似た兜の向こう側では、空と同じ色をした青い瞳が輝いているのだろう。きっと、その目は優しく笑んでいるに違いなかった。
 竜騎士の実力とはどういったものなのか。
 それを知りたかったのも事実だが、彼が跳ぶ姿を見たかったのも、また事実だった。
 カインが笑っている、それがとても嬉しく感じられて、けれど何故嬉しいのか、ゴルベーザには分からなかった。
 カインの兜の端で、銀がきらと光るのが見える。カインが壊した機械の欠片だ。
 ゴルベーザは、自然に手を伸ばしていた。欠片を払う。
 兜越しに、カインの震えと緊張が伝わってきた。
 びゅう、と風が吹き始める。
「……欠片が付いていた」
「ありがとう、ございます」
「どうだ、もう一度跳んでみるか?……丁度風も吹いてきたことだし、何なら、先程よりも高く」
 言いながら、ゴルベーザは手から紫色の光の玉を発生させ、空に放り投げた。昇っていく。ぴたり、その動きを止めた。
 機械と違って手ごたえはないが、これで十分だろう。ゴルベーザは思った。
「良い風です。これなら、きっとあの場所まで届くことでしょう」
 カインの口元がほころぶ。脚にぐっと力を籠めた。
 手の届かない場所へ跳んでいくその様を、ゴルベーザは眩しいものを見る眼差しで見つめ続けていた。



戻る