とりあえず、椅子に腰かけて眺めていることにした。
先程手に入れた青年は、きつい眼差しで私を睨み、唇を噛みしめていた。
「……何の、つもりだ」
乱れた髪の隙間から、青い瞳が覗いている。後ろで緩く纏められている髪は、彼の瞳によく合う金色をしていた。
鎧の内に着る服だけを身に着け、ベッドの上に座り、背を壁に預けている。そんな彼の体は、小さく震えていた。
薬が効いている。想像通りの青年の姿に、唇の端が上がるのが自分でも分かった。まあ、そんな表情はこの黒い兜に隠されて分からないのだろうけれど。
今にも倒れてしまいそうな風情で、彼はそれでも、私を睨み続けていた。
ここは、彼の自室だ。
傷ついた彼の顔――うちひしがれた顔――が見たくて、私はこの場所を選んだ。
「お前は……一体誰……だ……」
目蓋を閉じ、首を横に振り、彼は意識を保っていようと必死だ。けれど、それは無駄な抵抗だった。
縄をかけているわけでもないのに、彼はここから逃げようとしない。いや、逃げることもままならないのだ。彼の体に起こった変調が、全てを物語っていた。
彼が身に着けている濃紺の薄布の下で、彼の乳首は尖り、下腹部は布を持ち上げている。荒い息が、それを彩っていた。
睨みつける視線が弱まっている。
そろそろか、と、私は彼らを呼んだ。
「入れ」
扉の向こうで複数の声がし、それを聞いた途端、青年の瞳に力が宿った。
私が「入れ」と命じた者達とは、竜騎士団の団員、つまり青年の部下達であった。人数は三人。兜や鎧などは身に着けておらず、皆軽装だ。微かな希望に満ちた彼の瞳は、しかし、一瞬で絶望の淵へと落ちていった。
一人の男が、無言で青年に近付き、彼を押し倒したのだ。
「な、何を……!」
ベッドが軋んだ。
押し倒した男の息は荒く、傍目にも正常とは言い難い。青年の体の力が抜けていることをいいことに、男は青年に馬乗りになったまま、尖る乳首を弄り始めた。
「ひ……っ」
青年が仰け反った。面白がるかのように、男は手を止めない。
目を細め、青年は体をびくびくと震わせる。
薬によって敏感になってしまった体は、酷く淫らなものに見えた。
「……や、やめ、ろ……」
こねるように摘み、爪で引っ掻き、擦る。
一連の動作に飽きたらしい男は、唐突に、青年の服の胸部を引き裂いた。そうして、絶句している青年の乳首に舌を伸ばす。ぱくりと喰らいつき、音がするほどの強さで吸いついた。
「ひ、あぁっ!」
馬乗りをやめ、青年の体から下り、両足をぐいと開かせる。それからまた、舌先で乳首を愛撫する。男は執拗だった。
部下に犯される青年の気持ちを想像するだけで、私の体を甘美な何かが流れていくのが分かった。
彼を――カインを、絶望の淵へと叩き落としてやりたいと思う。
私と同じ暗い場所でお前は生きていくんだ。呪詛じみた声で、私は小さく口にしていた。
「離せ……っ」
目に涙を滲ませ、カインが苦しげに呟くけれど、男は聞かない。
自らの猛りを取り出し、カインの雄に宛がった。そうして、薄布越しに擦りつけ始めた。
信じられない、という表情で、カインは唇を震わせる。布の擦れる音と、先走りの濡れた音と、荒い息遣いとが部屋を支配していた。
「んっ、あ……あ、あ」
快楽に飲み込まれまいとしていた彼の抵抗が、徐々に弱々しいものになっていく。薬の効ききった体は蕩け、正常な動きをなくしていた。
他の男達も我慢できなくなったらしい。各々がカインに手を伸ばし始める。複数の手が、カインの体をうつ伏せにした。
本能だけで動いている彼らは、カインを玩具のように扱う。彼らの瞳は深紅に染まり、本来の色を残していなかった。
嫌だ、とカインが叫ぶ。お前達どうして、と。
男のうちの一人が、赤黒いものをカインの唇に押し当てた。
「……っ!」
カインはぶるりと首を振り、男は揺れる金糸を掴む。片手で顎を掬ってもう片手で鼻を摘むと、苦悶の表情を浮かべながら、カインは薄く口を開いた。
今だ、と言わんばかりに、男のものが滑り込んだ。
「……んん……ん……っ!!」
薄い唇が、限界まで抉じ開けられる。
ほぼ同時に布の裂ける音が響き、それは、カインの臀部を覆っている布が引き裂かれる音だった。
カインの目が、恐怖の色を宿した。じわり、彼の眦に涙が滲むのを見て、私は笑った。
持っていた小瓶を取り出し、一人の男に向って放り投げる。真っ赤な瞳をした男は、首を傾げてこちらを見た。
「裂けないように使ってやれ」
にたり、男が頷きながら笑う。
小瓶の中身は、液状の媚薬だ。私はカインの心を壊してしまいたいとは思っていたが、体を壊したいとは思っていなかった。
一人の男がカインの口を貫き、もう一人が引き締まった尻を撫でながら、尻たぶを割り開いている。そしてあと一人の男が、薄桃色の液体を、窄まりにとろりと垂らした。
「ん、うっ、う、うう、んっ」
頭を固定され、逃れることも許されずに口腔を犯されている。
ねだるように腰を上げ、全身をいやらしい色に染め、外気にさらされている乳首は立ち上がり、その姿は淫媚そのものだった。
一通り遊んだ後は単なる兵士として使うつもりだったが、それが唐突に惜しく思えてくる。
私を欲しがるだけの人形に変えてしまうのも悪くないな、と思った。
男が、腰を掴む。カインの耳元に口を寄せ、言い聞かせるように囁いた。
「…………入れますよ、隊長」
「……んん!んぅっ!!」
シーツを掴む指先がもがく。無駄な抵抗を無視して、男はカインを貫いた。
「――――――――っ!」
声もなかった。薄桃色の液体が垂れる場所を串刺しにした凶器は、躊躇いもなくカインの中を掻き回し始めた。
虚ろな目から、涙が零れ落ちる。
滑った音が私の耳を撫でた。
口を犯すペニスが、徐々に出し入れの速さを増していく。根元まで埋められている為に喉奥まで到達しているのだろう、カインは微かにえずいた。
男は達しかかっている。カインも分かっているらしい、きつく目蓋を閉じ、肩を震わせていた。
そうして、男の動きが止まった。
「んんんっ、ん……!!」
ペニスによって栓をされている口は、精液を吐き出すことも許されない。
溜まった精液を嚥下していく彼の瞳が、一瞬赤く光った。
萎えたペニスが抜き去られた唇の端から、白濁した液体が一筋、顎を伝って滴り落ちる。
息をつく暇もない。今度は、後ろを犯している男が激しく動き始めた。
「いや、だ、やめ……」
ねばついた精液が喉に絡まっているのか、やや掠れた声で、
「……な、ぜ、何故……、あぁ、あっ」
甘い喘ぎ声をあげる。
男は結合したままカインを反転させ、膝裏を持ち、胸元につくほど足を折り曲げる。
そうして、打ち込むように抽迭し始めた。
「……抜いて……く……、おねが……、だから……」
打ちつけられる度に、彼の声は揺れた。
「そんな、ことを言って……本当は、気持ちいいんでしょう……?」
「そ、な……こと、な…………っ」
「……こんなに、締め付けて」
「違う、違う……あ、ああぁ、あっ」
「貴方は普段、真面目で潔癖で……だからきっと、汚されることは、嫌で堪らないでしょうね」
口に出した男とは別の男が、猛ったものをカインの乳首に擦りつけだした。自らを慰めながら、亀頭を尖りにあてる。
「ひっ!」
「……胸がお好きなんですか?」
「あぁ……あっ、あ」
自慰をしている男が、手を止めずにカインの下腹部の布を破り捨てた。今気づいたが、カインは下着を穿いていないらしかった。
先走りでべっとりと濡れたものが、姿を現す。カインはいやいやをするように首を横に振った。
「出し、ますよ……」
深く細かく、白い尻に腰をぶつけながら男は言う。
カインはシーツを握りしめながら、唇から嗚咽を漏らし続ける。白濁混じりの液体が唇の端からとろりと一筋流れ、開きっぱなしの口から覗く赤い舌が、嗜虐心を擽る動きでこちらを誘っていた。
カインの目が、驚愕に見開かれる。甲高い笛の音が、耳を嬲った。
男が小さな息を吐き、中に出したのだと分かった。
もう一人の男がカインのペニスに手を伸ばす。
「あぁ……っ、あああ、あ…………!!」
硬く猛りきっていたカインのものは間もなく射精し、つられるように、自慰を行っていた男も達した。
白い液体がカインの顔、服、胸、至るところを汚し、彼の瞳がまた赤く光るのが見える。
部下達の真っ赤な瞳に呼応しているのだ。後で弱い魔法を――洗脳をかけてやれば、完全に私の人形になるだろう。
この胸を支配している虚無感を埋める、一時しのぎ位にはなるかもしれない。
男が、吐き出すものを吐き出して萎えたペニスをカインの金髪で拭う。
だらしなく足を投げ出したまま、カインは涙を流していた。
元来青い筈の瞳は赤へ、青へ、また赤へ、ちろちろと炎のように揺れ、彼の心が死にかけていることを私に教えていた。
男達に下がれと命じる。
二人きりになってみれば部屋を満たすのはカインの荒い息だけだった。
部屋に充満した雄のにおいが、酷く動物的に思えた。
私は兜と鎧を外すと、ゆっくりと彼のもとに歩み寄っていった。
竜騎士は、人とは思えぬほどに高く跳躍するのだと聞く。身軽な獣を思い起こさせる長くしなやかな脚は、今さっきまで行われていたあの行為と自分とは無縁なのだ、と言わんばかりに穢れない雰囲気を持っていた。
馬鹿馬鹿しい。
私がベッドに手をつくと、ふらふらとさ迷っていた彼の瞳がこちらを見た。抜けるような青だった。見開かれた目が数回瞬き、体をひねって、彼はベッドから飛び降りた。
駆け出すかと思われたが、震えが止まらない足では走り始めることもままならないらしく、彼は結局後じさりすることくらいしかできないようだった。
体中が痛むのか、時折呻き声をあげる彼を、彼が垂らす血と精液の痕を踏みつけて壁際に追い詰めていく。
「来るな!!」
彼の背が壁に触れた。
「くる……な……っ」
手首を一纏めにし、壁と向かい合わせにして、そのまま縫いとめる。
獲物を追い詰める獣のような心持ちになって、白い首筋にかぶりついた。獲物が震える。錆の味がした。するり、彼の髪を縛っていた紐が、落ちた。
「部下達に犯された気分はどうだ?」
胸元を探りながら問う。破かれた場所に手を差し入れ、精液で濡れている乳首やその周辺を愛撫した。
カインは答えない。ただただ、静かに身を震わせていた。
胸から手を退け、今度は腹を撫でる。
「……精液の味は、どうだ?」
「……黙れ……」
金の髪。乱れたそれは、白濁で濡れてもなお、うっすらと輝いている。
無性に腹が立った。
きっと彼は、何不自由なくぬくぬくと生きてきたのだろう。
父と母と友人に囲まれて暮らし、雨風をしのげる場所で、温かい食事と暖かい服と――そして、祝福するような視線に見守られて生きてきたのだろう。
私とは全く違う。記憶を失い、一人で生きてきた私とは。
痛めつけてやりたくて堪らない。白と金と透けるような青で統一されている彼を、真っ黒に塗りつぶしてしまいたい。
彼の服を、肩甲骨の辺りから引き裂いた。中途半端に脱がせ、その布で手首を拘束する。
尻たぶを掴み、広げ、後孔に先端を埋めた。腰骨を持ち、ゆっくりと挿入していく。
絡みつく肉壁は媚薬と精液でぐちゃぐちゃに濡れていて、私を拒まなかった。
「ああ…………あ、あぁ……」
カインの声の中に含まれているのは、苦痛だけではない。
上ずった声はいやらしく部屋に響き、快感を私に伝えてくる。
抜き差しする度に彼の中を満たしていた精液が溢れ、床を汚していった。
「……変になる…………変……に、ぃ……っ」
おかしくなってしまえばいい。私は心の中で嗤う。
突き上げると、彼の長い髪が揺れる。そんな些細なことに煽られている自分に驚かされる。
唐突に、内壁がきつく締まった。と同時に、彼の体が弛緩する。彼は達していた。体を支える力すら残っていないようだった。
体を反転させ、こちらを向かせる。
彼の瞳は真っ赤だった。心臓を貫いた時に出る、新鮮な血の色に似ていた。
微かに違和感を覚える。いくらなんでも術にかかりやす過ぎる。意志が弱すぎるのではないか、と思った。
意志が弱い?違う。あの視線のきつさを見る限り、彼の意志は弱くはなかった筈だ。寧ろ、強い方だった。では何故、彼の瞳は染まっている。
兵士に犯されていた時は、これほど真っ赤にはなっていなかった。
――もしかして、私と呼応しているのか。一体、私の何に呼応しているというのだ。
この状態なら、もう彼は抵抗しないだろう。片足を高く上げさせて自らの雄を捻じ込みながら、私は訊いた。
「……お前の心を占めていることを教えろ」
耳元で囁く。
カインが緩慢な動作で頷いた。
「……俺、の……幼馴染のことです…………あぁっ!」
彼が最も感じる場所を擦り上げてしまったらしい。その場所を刺激しながら、私は浅い抽迭を繰り返した。
「……父さんも母さんも……俺を置いて……っ、いってしまって……」
荒い息をつきながら、
「だから……セシルと、ロー……ザが、いない、と…………俺は……」
目を細め、涙を溜めながら、
「おれ、は…………一人になってしまう……」
一人は嫌なんだ、と。
その言葉に、私の胸は強く痛んだ。
「一人は、いやだ……」
頑是ない仕草で首を振るカインの唇を追いかけ、そっと塞ぐ。唇を噛んでいたのだろうか、血の味がした。
お前の瞳は、私の孤独に呼応していたのか。
狂おしいまでの赤は、孤独の色だったのか。
舌を差し入れれば、おずおずと差し出してくる。離せば、唾液が糸を引いた。
上目遣いの眼差し、誘うように覗く舌。もう片方の足も持ち上げ、揺す振り始める。
「ひっ、あぁ……あぁっ!!」
カインのペニスは達しっぱなしになっていて、だらだらと液体を垂らし続けていた。
締めつけられ続けて、私の方も限界だった。
細かく激しく突けば、彼は悲鳴じみた喘ぎを発しだす。激しい絶頂感と共に、一瞬、目の前が白く瞬いた。
「ああぁ、あ……あ…………」
搾り取る動きで、カインの後孔は収縮を繰り返す。私は腰を前後させながら、彼の中に全てを放った。
彼の射精は止まることなく、びくびくと体を跳ねさせながら、彼は長い間達しっぱなしだった。
雄を引き抜いて床に座らせると彼は、しゃがみ込んでいる私に凭れかかってきた。
「……カイン」
初めて彼の名を呼ぶ。僅かに躊躇った後、私は彼の背に手を回した。
「私と共に来るか。……私の傍にいれば、お前は一人ではないぞ」
お前は一人ではない――――。
それは、誰に向けて放った言葉だったのか。
自らの声が震えていることに、気付かないふりをした。
End