「ゴルベーザ様」
私が欲しかった瞳は、この瞳だっただろうか。
私が欲しかったのは――――――――。
私の名を呼ぶ男の背後で、月明りが揺れていた。
男の瞳は、ただ真っ直ぐに私を仰いでいる。
疑いを知らぬ、子どものような瞳。何もかもを私に預けている、という瞳だった。
有能な駒を手に入れたくて、私はカインを拾った。
カインは私にとって、『単なる駒』だった。
――――そう、彼の思考や記憶を読み取るまでは。
見た目や地位、彼が纏う雰囲気とは裏腹に、彼の心は薄暗く冷たい何かで溢ちていた。彼は薄暗いそれに絶望し、頭を抱え蹲っていた。
私はカインの薄暗いそれに惹かれた。カインの心を見ていると、己の心の内を覗いたような、そんな気分になった。
この男と話してみたい、と思った。どんな表情を見せるのだろう、とも思った。
だから、私はカインを傍に置いた。こうすれば、彼の何もかもを知ることができるだろう、そう考えていた。
それなのに、ことは私が望んだ通りには動かなかった。
カインは、真っ直ぐな瞳で私を見つめる。だがそれは私が『主』だからで、それ以外の意味はどこにも存在しなかった。
私が話せと言えば話し、傍にいろ、と言えば何も言わずに私の傍にいる。笑えと言えば笑うし、親友に槍を向けることもあった。
全ては私の思い通りで、だが、私の思い通りではなかった。
私の命令を待つカインの姿を見ていると、錆びた何かが軋んだ音をたてる。
これではない。
これではないと分かっているのに、どうすれば良いのかが分からなかった。
「……ゴルベーザ様……?」
命令を待つ瞳。
胸がちくちくと痛む。
言葉が出てこない。私の望むものの正体が、見えない。
「…………カイン」
堪らず名を呼ぶ。
一瞬何かが見えたような気がしたけれど、それは泡のように弾け、跡形もなく消えてしまった。
End